番外1297 潜入調査と遺跡と
「――というわけで、南門を出てそこから南東の方角へ向かったようです。門番達には泊まり込みで街の外にある温泉に向かうと伝えていて、その際護衛達を連れていたとの事。その護衛に胸像の者達が揃っているところまでは確認が取れています」
シリウス号のみんなを前に判明した事を伝える。
別荘で聞き込みをした後、夢の世界で門番達の寝泊りしている詰め所に行って聞き込みを行った。そこでラネブの行き先についての証言が得られた、というわけだ。
報告については上にも行っているらしいが……人の繋がりと黒幕について気にしていたが、街にいないならもっと行先について聞いても良かったかも知れないな。
まあ実際にはどこかにある遺跡に向かったようなので、温泉に向かったわけではないから、結局別荘での情報収集は必要な事だったが。
『街の外にも温泉が点在していますからね。街の中の温泉とは少し成分が違うのだとか。街道から外れているので整備されてはいませんが、秘湯と呼ばれているらしいのです』
と、オーラン王子が教えてくれた。なるほど、秘湯か。
時刻はまだ夜明け前だ。重要な事実が判明するかも知れないのでオーラン王子達も仮眠を取り、夜間の見張りに参加すると伝達してくれていた。入眠時と目覚めについては魔道具の補助もあるから眠気もなさそうだ。体力回復の魔道具も併用すれば疲労や消耗も防げるな。
まあ……魔道具頼りで睡眠時間を日常的に削って良いというわけではないが、今が正念場というのはある。シリウス号に乗っている面々は、今日に限っては何かあったら仮眠から目覚めてくると言っていたので、足取りが分かったと伝えるとみんな起き出してきている。
俺の方は夢の世界で活動していたが、ホルンの力を受けているからか、目覚めの気分や体調、魔力の状態は良いな。
『だが温泉に向かうと言いつつ、実際はどことも分からない遺跡に向かったというわけだ』
『そうなると足取りを追うのが大変そうですな』
テスディロスとオズグリーヴが言う。
『ギメル族には、何か伝承のような物は残っていないのですか?』
『あまり力になれなくてすまない。そういった一族の過去に関する伝承はそれなりに数があって絞れない。実際の遺跡を見てみれば、察しがつくかも知れないが……』
オルディアに尋ねられて、ラプシェム達は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「まあ、それは仕方がないかと。伝承だって正確とは限らないし、秘宝に関する事が秘匿されていたなら尚更です」
かぶりを振ってそう言ってから、これからの話をしていく。
「ここからの方針としては……別荘に潜入して遺跡に関する資料が残っていないか探す、もう一つの方法としては彼らの出発した日時と時刻に合わせて……ラクダで移動可能な距離を算出し、その範囲を上空から探すという手があります」
資料が別荘にあれば良いのだが、無ければ時間を無駄にする事になる。見つけさえすれば遺跡に関する来歴も分かるというのはありがたいが……そういった資料、手記等があっても現地に持って行ってしまっている可能性は高い。
一方で捜索は……虱潰しにはなるが、例え遺跡が地下にあるのだとしてもラクダまでは連れていくまい。生命反応感知で見つけ出す事は可能ではないか、と考えている。
それと平行して、領主と武官達は恐らく潔白であると、昨日の聞き込みの状況についても話をしておく。
『いずれにしても速度を重視して動く必要があるのであれば、私から新しく領主に書状を認めておきましょう。今の状況を書き添えて護衛の1人に持たせ、私達は自由に動けるようにする、と言うのが良いのではないかと思います』
「では……宿にて合流して動く事にしましょうか。水晶板等を持っていって貰えれば、現場と街とで連携して動くことができますから」
秘宝が盗まれたと知っていてラネブが結託して動いていた場合、そしてその目的が謀反のような重大な内容であると発覚した場合、領主が表だって動いてラネブの別荘を押さえられるようになる。
そんなわけで少し話し合い、基本的には捜索を優先して動いていく、という事になった。
別荘への潜入は不発に終わる可能性も高いからな。
転送術式で呼び出せるというのもあるので、捜索と並行してカドケウスも別荘に潜入させて書斎の調査を行う、というわけだ。魔法罠対策として護符も持たせておけば一先ずは大丈夫だろう。
捜索に関しては――シリウス号ならば上空から広範囲を見て行く事ができるので地上から探すより圧倒的に効率がいい。ラネブが向かったのは南門から南東である。これが偽装の動きだったとしても移動可能な範囲は限られているし、砂漠で見通しも良いので十分に見つけられるのではないか、と考えている。
「それじゃあ、もう一仕事頼めるかな?」
そう伝えるとカドケウスはこくんと頷き、液状になって窓枠から音もなく出て行った。夜が明けたら宿屋で護衛と合流。それからシリウス号に戻る予定なので、それまではカドケウスの制御に集中させてもらうとしよう。
別荘内の構造はある程度分かっていたという事もあり、カドケウスの潜入にそれほどの苦はなかった。書庫と書斎も主寝室の近くにあったしな。
というわけでカドケウスにはしばらくの間、それらの内部を調査してもらう。隠し書庫等があるならそこが本命なので、まずは部屋の内部をくまなく調べてから、隠し部屋や通路が見つからないなら鍵のかかった引き出しの中や年季の入った書物、読み込まれた痕跡のある書物を優先して調べていく、といった流れで作業を進めていこう。
部屋の構造を調べる事で誰か来た時に物陰に隠れやすくもなるしな。
物理的な罠や鍵はカドケウスには意味がないし、魔法的な罠に対しては護符がある。後は五感リンクで魔力の探知網を纏ってやれば、魔法の仕掛け等も見つけやすくなるだろうか。
とは言え、書庫はそれなりに広く、蔵書も多い。流し読みして背表紙と中身が一致していると判断した場合は次の本を調べる、といった感じで効率よく進めていきたいところだ。
「この場合、主人が不在なのがありがたいところだね。掃除ぐらいには来るかも知れないけれど、使用人だってあまり長時間は立ち入らないと思うから」
扉の鍵を開けて入ってくるという、ワンクッションを挟むから気配を感知した時点で書棚の裏側に隠れるなど、カドケウスが見つからないように動く余地が十分にある。
物音を立てないように動くのはカドケウスの得意分野だしな。
とは言え、こうした別荘側の調査もラネブ達がいるであろう遺跡が見つかるまでだ。要人の護衛、遺跡の探索、密偵が必要となる場面等においてもカドケウスがいると助かるので、その時は転送魔法で合流する予定でいる。
そうやって調査を進めているとオーラン王子が改めて認めた書状をもって、護衛の武官の1人が俺の宿泊している宿までやってきた。
「使い魔の制御に集中しているとお聞きしましたが、今は……お話をして大丈夫なのでしょうか?」
ノックして入室してきた武官はそう尋ねてくる。
「問題ありませんよ」
魔法処理の領域を一部割いている形だし、ウィズのサポートもあるからな。他の事をしていてもカドケウスの制御が甘くなるという事はないし、見たもの聞いたことははっきりとウィズが記憶してくれている。
笑って応じて、シーカーと水晶板について説明をしておく。
では、シーカー達の受け渡しが終わったら朝食を済ませて出発するとしよう。日が明けてからの方が捜索にしてもしやすいだろうしな。




