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172 魔術師達の出自

「う……ぐ」


 ライオネルがうめき声をあげて、薄く目を開く。


「ち、畜生……」


 拘束されていることに気付くと、歯噛みして悪態を吐く。

 周囲を見渡し、怪訝そうな表情を浮かべる。生かされていることに納得がいかないのかも知れない。ドノヴァンの方は縛られたまま胡坐をかいて、目を閉じている。何も話す気はないというアピールのつもりらしい。

 俺としてはドノヴァンよりライオネルの方が与しやすいと踏んでいるが……。


「さて。少し質問がある」

「……話すことなんざ何もねえよ」


 尋ねると、ライオネルは不貞腐れたように視線を逸らした。


「まあ、いいさ。勝手に質問するから。お前達は誰から命令されて私掠をしようとしていた?」

「あん? ……何の話だ?」


 ライオネルは眉を顰める。

 まあ、そうやって惚けようとすることぐらいは想定している。


「残念だが、失敗を報告しなきゃならないって話は聞いているんだ」

「知らねえな。それより、手足を縛った程度で魔術師を無力化できるなんて思ってるんじゃないだろうな?」


 ライオネルは薄く笑みを浮かべる。そう。魔術師を捕虜にするのは難しい。

 無詠唱だマジックサークルだと、仮に手足を拘束されていたとしても反撃の手段があるからだ。抵抗しても捕縛されても殺されると覚悟しているような手合いは特に。魔法で自殺を図ることも視野にいれなければならない。


 だが――抵抗しようとしたのか自殺しようとしたのかは分からないが、何も起こらなかった。状況の認識が追い付いてきたのか、ライオネルが目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべる。


「魔法が封じられているらしいな。俺も駄目だった」

「隷属魔法じゃない……? まさか……封呪……?」

「ライオネル!」


 ドノヴァンの叱咤の声。ライオネルは失敗に気付いて口を噤んだようだが、もう遅い。


「……そうか。お前らはシルヴァトリアから来たな?」


 探りを入れるが、返答はない。2人は今度こそ沈黙してしまった。まあ、もう探りを入れる必要もないのだけれど。


 魔法封じの術式、光魔法シーリングマジックは母さんの残した遺産の1つだ。

 効果時間が短めだったり、用いるのに接触の必要があったり、意識のない相手でもないと掛からないほど干渉力が弱かったりと……色々使いにくい魔法ではあるのだが、一度かかってしまえばこうやってしばらくの間、魔術師を無力化することができる。


 魔法封じの正体を知っている。知っていることそのものを伏せたがるとなれば……まあ、シルヴァトリアにある程度の繋がりがあると推測できてしまう。

 だから俺に言わせれば、これは反応してしまったライオネルとそれを咎めたドノヴァンと、両方のミスであろう。

 後は迷宮に転送して、隷属魔法で自殺や反撃をできなくしたうえで、魔法審問と魔法薬のコンボで情報を搾り取る方向で。


 しかし、シルヴァトリアか。あの国がヴェルドガルにちょっかいを出して何かメリットがあるのだろうか? ……国としての意向なのか、それとも誰かの独断専行なのか。それをこの場で調べるのは、やや難しそうだ。




「何だよこれは!? おい! 勘弁してくれ!」


 拘束した賊をクラウディアの展開した魔法陣の中に転がしていく。

 まだ意識のある奴もいて悲鳴を上げているが別に危害を加えるわけでもなし。説明してやる義理もないだろう。


「これで全員です」


 グレイスの言葉に、通信機で確認を取る。


『敵拠点制圧。首領格の魔術師2名は魔法を封じて転送しますので、隷属魔法の手配をお願いします。何やら裏がありそうなので、帰ってから報告に伺います』


 と通信を送ると、すぐにメルセディアからの返信があった。


『了解しました。こちらはいつでも大丈夫です』

「……よし。問題なさそうだ」

「それじゃあ、転送するわ」


 クラウディアの言葉と共に光の柱が魔法陣から立ち昇り――それが収まると賊達の姿は綺麗さっぱり無くなっていた。

 アジトには他に、盗賊団としての戦利品らしき物もあったが……このへんの処理は騎士団や兵士達に任せよう。


「それじゃあ……町に戻ろうか」


 後は騎士団に申し送りをして、ミハエラ、セシリアと共にタームウィルズに帰還するぐらいか。

 日帰りの予定ではあったが……2人にも色々準備があるだろうし、町に滞在することになるかも知れないな。


 ――と、思っていたのだが、町に戻ってみるとミハエラ達の準備は万端に整っていた。俺達が拠点を攻撃している間にタームウィルズに向かうための準備を整えていたそうだ。

 手際の良いことで有り難い話である。




 騎士団に申し送りをし、諸々の処理を終えてからタームウィルズに戻った。

 まずは王城へ報告に向かう必要があった。連中の出所がシルヴァトリアとなると、俺もあまり他人事でもいられなさそうだし。


「此度はまた大変であったな。ともあれ、そちのお陰で大事になるのを未然に防ぐことができたようだ。礼を言うぞ」


 サロンで面会したメルヴィン王は苦笑する。


「いいえ。僕としても恩人の郷里が災難に見舞われるのは気分が悪いので」

「うむ。して、連中に裏がありそうだと言っていたが、何か掴んでおるのかな?」

「掴んでいるというほどではないのですが――」


 ギルド長のアウリアから得たシルヴァトリアの情報や、母さんの残した術の話を聞かせる。そのうえでシルヴァトリアの何者かが動いているかも知れないということを伝えた。

 俺には疚しいところなど無いし、母さんの出自については知らないのも事実なのだ。それなら自分から情報を開示してしまった方が誤解されずに済むし、納得してもらえるだろう。


「シルヴァトリアか……。あの国とはそれなりに良好な関係を続けてきたつもりではいたのだがな」


 話を聞き終わったメルヴィン王は、渋面を浮かべた。やはり、メルヴィン王としてもシルヴァトリアから破壊工作されるような理由が見当たらないらしい。

 どちらにしても、ドノヴァンやライオネルの証言を引き出したとしても、関わりを認めはしないだろうし。


「どこも一枚岩ではないでしょう。シルヴァトリア王家が信頼できる相手なのであれば、どこかの貴族や大商人の思惑である可能性もあります」

「そうさな。それはともかくとして、余としてはそちや聖女の来歴にある程度の推測ができて、腑に落ちたところはあるぞ。あの国の出身であるというのなら、そなたらの魔法の冴えも分かろうというもの」


 と、メルヴィン王は快活に笑う。


「申し訳ありません。アウリア様の話だけでは、僕も何とも言えないところがあったので」

「であろうな。理由があって国元を離れたのなら、己の内だけに秘めておくのが最良であろう。夫や子を愛すればこそ、話せないということはあろうよ」


 メルヴィン王の言葉に、瞑目する。愛すればこそ。確かに、そうなのかも知れない。


「だが、あの国は少々政情に乱れがあってな。こちらとは違って、王太子が暴君だというのだから始末に負えん。先行きがやや不安ではあるな」

「王太子ですか……」

「まだ断定はできぬが……。政変で国を追われたと言うのなら、件の王太子による、横暴のしわ寄せが来た可能性は高い」


 そのあたりは……今後の取り調べ次第で判明してくるかな。


「此度のことは経緯から見るに、そちを狙ってきたというわけでもないのだろう。シルヴァトリアとそなたの関わりについては、余の心の内にのみ留めることとし、余としてそなたに累が及ばぬよう尽力させてもらう。今更過去の関わりを引き合いに出されて、そちをシルヴァトリアに引き抜かれても困るしな」

「勿論です」


 悪戯っぽい笑みを浮かべるメルヴィン王の言葉に苦笑する。

 メルヴィン王やアウリアの考えている通り、政変でシルヴァトリアを離れたという推測も成り立つが……いずれにしても現時点では判断材料が足りない。


 まあ……このへんのことは一先ずメルヴィン王に任せ、俺は俺の仕事をしよう。まずは予定通り、家の改築から手を付けていかなければ。その内にドノヴァン達からの情報も出てくるだろうしな。

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