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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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165 獅子と山羊

「陛下から皆様のお手伝いをするようにと言われています」

 宝物庫の管理人である女性と共に、内部を見て回る。目録が作られているので希望を伝えると望みの物が纏めて置かれている区画に案内してもらえたりするのだ。なので、目当ての物を探すのはそう苦労しない。

 俺の場合はコートかローブ。それに類する魔術師用の防具を今回は希望している。鎧の類が着られないグレイスも、今回は同じように衣服系で探すつもりだ。
 種類は多かったがサイズの問題もあり、実用に向くものは自ずと絞られてくる。
 気になっているのは黒いコートだが……妙な魔力を感じる。袖を通すと俺の体格に合わせてサイズが変わったあたり、明らかに普通の品ではないようだ。

「この外套は?」
「キマイラコートと言われています。魔術師の護身用で、魔法生物が組み込まれているようです」

 管理人が分厚い目録を見ながら言う。魔法生物を組み込んだ防具……ウロボロスと似たような品か。今のところ見た目には普通だが……。

「装備者が魔力を供給することで魔法生物を動かすことができるようですね」

 管理人が言う。

「少し呼び出してみても?」
「どうぞ」

 許可を貰ったので試しにコートに魔力を通してみると……肩の部分が盛り上がるようにして、黒獅子と黒山羊の頭が飛び出してくる。その光景に管理人は引き攣ったような笑みを浮かべて一歩後ろに下がった。

「これはまた……」

 獅子の方は頭だけでなく、鋭い爪を備えた前足も出せるようだ。この動物達は肩からだけでなく袖や裾など、ある程度出現位置を変えることもできる。

 なるほど。キマイラね。魔力を供給することで動き、こっちの意を汲んで近接戦での護衛をしてくれるという代物らしい。
 護身用なんて言ってはいるが――獅子の牙や爪などによる攻撃を繰り出せるから、攻め手としても有効なのではないだろうか。単純に手数が増えることになるわけだし。
 魔法生物であるから、命令に従い、ある程度自律して動く。身に着けている限り完全に統制下に置いて、手足のように動かすこともできる。

「山羊の頭の方は?」
「角による頭突きの他に、吐息を吐けるようですよ。装備者が魔力を供給してあげる必要があるようですが」
「……蛇もいれば完璧だったんだけどな」

 まあ、その役はウロボロスに任せるということで。あっちは竜だけれど。
 とりあえず……杖と違って魔法の発動体ではないから、魔力循環でも負荷がかかるという心配はなさそうだ。そして魔力循環に取り込める。要するに強化が獅子や山羊にも乗るということで……。後は実際に試してみないと分からないな。

「何ていうか……面白いな」

 獅子や山羊と組んでのコンビネーションを考えたり、手札を伏せておいて不意打ちを食らわせたり……逆に装備者が不意打ちを食らうのを防いだりもしてくれるだろう。

「更に魔法生物であるために外套が傷付いても自己修復ができます」

 サイズも合わせてくれるし……エンチャントもかかるな。加えて自己修復ね。これは下手をすると一生物なんじゃないだろうか?

「んー。これに決めます」
「分かりました」

 魔力の供給を止めると動物達が引っ込んでいく。
 よし。みんなの選んだものも見ていこうか。



「えっと。どうでしょうか?」

 身に纏ったドレスを見せるようにくるりと回ってから尋ねてくる。グレイスはあまり飾り気のない、黒いドレスを選択したようだ。
 多分……これはメイド服の延長だな。この上にエプロンなどを付けても違和感がないだろうと思われる。グレイスは機能性重視の傾向があるが、このドレスに関してはそれだけでもないようだ。

「うん。似合ってる。でも……これも妙な魔力を感じるな」
「何だか、不思議な感じがして気に入りました」

 ドレスから感じる魔力は闇魔法系のそれに近いというか。気に入るわけだ。

「それはムーンライトドレスと言います。闇の精霊力が込められているとか。それも自己修復系の防具ですね」
「なるほど……」

 目録を見ながら解説してくれる管理人の言葉に頷く。
 グレイスも俺も前に出るからな。防具の損耗が激しいから、自己修復してくれる防具は嬉しいところだ。

「これに決めてしまってもよろしいでしょうか?」
「グレイスが気に入ったのなら。多分、グレイスと相性が良いと思うし、俺が選んだとしてもそれじゃないかな?」

 グレイスは俺の言葉に嬉しそうに微笑む。
 多分、装備しているだけでグレイスの能力を全体的に底上げしてくれるはずだ。例えば陽光の下でも十全に力を発揮できるようになるだろう。

「アシュレイは?」
「私はこれを」

 真珠と珊瑚がついたサークレットだが……。これもただの装飾品ではないな。宝石のように見えるのは全部魔石で、当然のように魔法絡みの品のようである。

「オーシャンズクイーン。水魔法を増強するとあります」

 となると、アシュレイにとっては攻撃手段と治癒魔法の両方を一度に強化できるということになるだろうか。
 宝物庫の内容は分からない部分が多かったからな。ある程度みんなの裁量に任せているが、かなり良い物を選んでくれているようで。

「マルレーンはどんなのにしたの?」

 尋ねると、マルレーンはにこにこ笑いながら両手で持つようにして、ランタンのような物を見せてくれる。

「これはファントムライトと言いまして……。やや扱いが難しいのですが、離れた場所に思い描いた幻影を作り出して動かせるというものですね」
「幻術用の魔道具か」

 基本的に後衛で動くマルレーンに向いているだろう。召喚した魔物を幻術で守ったり、ソーサーを作り出して攪乱したりと……使い方次第でいくらでも幅が広がる。
 セラフィナと協力すれば音を伴った幻影なんてものを見せられるはずだ。

「扱いが難しいというのは?」
「使うにあたり、高い集中力や想像力が必要だったりします。幻術自体、元々使いこなすのが難しい術とは言われていますが」

 ふむ……。その点なら、マルレーンに関しては問題は無さそうだ。

「私はこれ」

 シーラが見せてくれたのは蜘蛛を象った腕輪だった。

「アラクネアバンドですね。蜘蛛のところから、粘着性の糸や網を投射できます」
「また凶悪な……」

 シーラの身体能力と合わせると相当な武器になると思う。古代ローマの剣闘士の界隈でも、網で動きを封じてから仕留めにかかるというスタイルが猛威を振るっていたようだし。
 ダガー投げと合わせて、中距離射程からの牽制としてはかなり良さげな魔道具ではないだろうか?

「イルムは?」
「私も腕輪よ」

 イルムヒルトの左手首に銀色の腕輪。右手の指で腕輪から引き抜くような仕草を見せると、魔力の輝きを放つ――矢のような物が生まれる。

「アローリングですね。魔力から矢を生み出すことができます。弓が無ければ役に立ちませんが、魔力が多めの弓使いには便利なのではないでしょうか?」
「……確かに便利だな」

 矢をいちいち買ったり作ったりしなくていい。普通の矢のように撃った後で使えそうなものを回収したり、残りを気にしたりという、やり繰りの煩わしさからも解放される。
 元々弓主体の彼女は呪曲を用いても高い魔力を持て余していたし。更に魔力から作っているということで、付与効果も期待できそうだ。

「私はこれ」

 セラフィナが持ってきたのは彼女の身体から考えると大きな――普通の人間から見るとやや小さめなサイズの角笛であった。

「これはシャッターホルンと言いまして、攻撃用の魔道具ですね」

 話を聞くに強力な音波攻撃が可能な武器ということだ。またセラフィナにぴったりな武器だな。暴走していた時と違い、彼女自身は能動的に攻撃する手段が無かったから。射撃型の武器と言うのも良い。基本的にセラフィナは後衛だし。

「クラウディアは良かったの?」
「私は、色々な物を既に貰っているから」

 と言って、静かに微笑んでいる。
 彼女は今回、色々メルヴィン王に便宜を図ってもらっているし、迷宮で魔物と戦うというわけではないので見送りということらしい。別に迷宮で戦ったからといって、管理者である彼女の能力の向上に繋がるわけではなく、更に魔力の消耗も抑えなければいけない立場だからな。

「テオドール様の新しい装備はどんなものなんですか?」
「ああ。魔力を込めると、魔法生物が出てきて色々援護してくれる」

 肩から獅子の顔を出してやると、みんなが目を丸くした。(たてがみ)や喉を撫でてやるとゴロゴロと猫科らしい音を立てていて、中々に面白い。
 ……見た目に威圧感があり過ぎるような気もするが……。そこは必要のない時は出さなければ良いだけの話だからな。

 しかし思っていた以上の収穫があったな。流石は王城の宝物庫といったところか。
 とはいえ、新しい装備に慣れていく必要もあるから、その分訓練もしっかりとしていかないとならない。だがまあ、新しい課題みたいなものが見えてくると、こう……楽しくなってくるというか何というか。
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