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番外878 迷宮構想

 魔界側への迷宮建造に関しては一つの案ではあったが、実行した場合の迷宮核のシミュレーション結果も含めて同盟各国に了承を貰っている。

 だからこそ今回解決のための手段として具体的な内容まで踏み込んで話を進める事ができたわけだ。


 実現すれば魔王国側にも迷宮ができる事になるが、迷宮建造に際してヴェルドガルと共通しているのは「世界を守る為」という目的がある点だ。

 ヴェルドガルの境界迷宮は元々魔力嵐という天災から人々を保護する為のものであったし、今でもティエーラとコルティエーラを守るという目的で動いているので、その点は変わらない。


 始原の精霊の守りと魔界の存続――それは隣り合うルーンガルドを守る事にも繋がる。だからこそ、同盟各国の面々も迷宮の拡張に対して了承してくれたわけだ。


 魔界が崩壊してしまったらルーンガルド側にも余波が及ぶ可能性があるし、文字通りに世界の危機ではある。逆に言うと、それぐらいでもなければ迷宮建造にまでは至らないとは言えるが。


 いずれにしてもジオグランタとメギアストラ女王の同意も得られたから、この方向で動いていく事になるだろう。


 そんなわけで魔界での話し合いの結果を受け、ルーンガルドに戻ってからオーレリア女王や月の精霊にも話を通す事になったが――。


『そういう事なら、新しい迷宮核を魔界側に据えるのが良いかも知れないわね』


 と、フォレスタニア城の一角に設けた通信用の部屋にて、水晶板越しにそう言ったのは月の精霊だ。中継用の魔道具を通して夢の世界と交信できるようにしてあるわけだが。


『それについてはこれから相談しようと思っていた部分ではありますね』

『あら。そうだったの?』


 先に話を切り出されて、オーレリア女王が苦笑すると、月の精霊は軽く目を開いて首を傾げる。


「迷宮核がルーンガルド側にしかないと、魔力の流れ等もルーンガルド側で管理しないといけない、という問題はあります。迷宮核の試算も行いましたから、その辺を相談させてもらおうとも考えていたのですが」


 問題というよりはリスク管理の話だな。魔界の門も環境魔力が行き来しないように結界で守っているのだ。魔界の環境を維持するという観点からも、なるべくなら魔力の総量を増減させたくない。ルーンガルド側に魔力を引き込むにしても独立したラインを作る必要性がある、と考えていた。


『目的から考えれば……私の立場としては新たなオリハルコンの精製と迷宮核の作製に関しては問題がないと考えています』

『欠片との対話も必要だけれど、きっと良い答えを返してくれると思うわ』


 と、オーレリア女王と月の精霊はそんな風に答えを返してくれた。


「ありがとうございます」


 そう言って一礼すると二人はモニター越しに微笑みを見せてくれた。


『安全な輸送方法を考えないといけませんね』

『欠片との対話も……テオドールとジオを交えての方が良さそうだものね』


 二人が言う。確かに……対話をするにしても魔界側の迷宮管理者としてジオグランタが立ち会った方が良いのは間違いない。対話については流石にスレイブユニットでは代理にならないところがあるので、精製されたオリハルコンを魔界に持ち込んで……という事になるだろう。


 そうして、対話を経て迷宮核として加工する方法も含めて、俺達は諸々の段取りを整えるのであった。




 オリハルコンの精製と迷宮核の基本構造設計については月の民の秘伝という事でオーレリア女王に任せる事になる。制御術式等々、ティエーラの立ち会いの下で迷宮核からデータ移行をしたりもするが。


 その間の俺の仕事は――データ移行でスムーズに魔界側の迷宮区画を形成できるように、前もってそれらの区画のデザインをしておく、というものだ。


「とりあえず、ルーンガルドと魔界の行き来は、今までと同様の方法でできるようにしないといけない。正規の方法として境界門との連絡通路を造るところまでは確定として……あちら側の防衛区画は、こっちの浮遊要塞とは変えないといけないね」

「防衛区画を同じような構造にすると……侵入者が予備知識を付けてしまうから、という事かしら?」

「そうだね。少なくとも侵入されたくない区画は、共通の攻略手段を取られないようにしたいところだ」


 ローズマリーの言葉に頷いて、そう答える。

 というわけで俺だけの考えで進めるよりは、みんなのアイデアも聞いた方が対処しにくい区画も作れるだろうと、フォレスタニア城のサロンでどんな防衛区画にするか相談している、というわけだ。

 みんなも管理者代行の立場であるし、俺と一緒に迷宮の色んな区画に潜って来たからな。相談相手としては知識も経験も充分にある。


「迷宮で厄介だと思ったのは――地形の利用とか、魔物の連携でしょうか?」

「そうですね。地形の利用というと炎熱城塞の床や壁に擬態していたボムロックが思い浮かびますが……私では気付けません」

「中枢部のティアーズ達も連携してきたから、まともに戦ったら大変そうな印象があるわね」


 グレイスが言うと、アシュレイとイルムヒルトが頷く。

 ボムロックのような魔物は、いると分かるだけで警戒させて探索速度を低下させる。ティアーズ達もそうだが、連係は個々の能力をより引き出す事ができるだろう。


「魔界の種族は多種多様だから……侵入者の性質を絞り込めない以上、防衛戦力は基本を抑えて汎用性の高い戦力を揃える、というのが良いのではないかしら」


 クラウディアが言う。クラウディアを守るエンデウィルズに配置されている戦力もそうだし、中枢部を守っていたパラディンやラストガーディアンもそうだな。守護者としてパラディンがハイスタンダードな強さを持つ、というのは侵入者の性質関係なしに撃退できるようにという狙いがあったからだろう。


「防衛用区画はこっちの好きなように造れるわけだし、地形に適応した魔物を配置しつつ、同時に通常戦力として量と質を可能な限り高める、と。方針としてはそんな感じかな」

「ん。機械式と魔法式の、複合型の罠も良い」


 シーラが目を閉じて頷きつつ言った。シーラの場合は職業柄か、斥候対策が重要という観点なわけだ。

 複合式の罠についてはフォレスタニアの地下に広がる中枢区画への通路で色々仕込んだからな。それに対する予備知識にならないように……今までとは別の方式で罠を組む事を考える必要がある。


 但し、強力な罠があるというのは防衛戦力の行動を制限する事に繋がる。だから通常戦力と罠、どちらかの比率を重視する必要がある。

 罠があるというだけで侵入者を疲弊させるには有効なので……それを踏まえると、あると見せかけてない。ないと思わせておいて油断した頃合いで仕掛ける、といった具合で要所要所に仕掛けるランダム性が重要になってくるだろう。


 隘路で挟撃を受けざるを得ないような、大戦力を送り込めないような構造にしたり、罠を連続させて疲弊させた後に戦力を数で配置したり……ともかく攻略の困難さに重点を置き、途中で撤退したくなるような構造にしてやるのが良さそうだ。


 どんな防衛用戦力をどんな風に配置するか等は迷宮核で割と自由に設定できるから、ティアーズ等とはまた違う、新しい防衛用戦力を考えていくとしよう。


「後は――通常の区画かな。防衛用の区画とは別に、迷宮魔物に負の感情を消費してもらう必要があるから」

「迷宮の探索に来た者に適度に退治してもらって、素材や食材を産出するようにするわけですね」

「そうだね。その点はルーンガルド側の迷宮を踏襲する」


 エレナの言葉に頷く。潜る方にも利点があれば迷宮の魔物を積極的に狩ってもらえるので、歪みの解消に繋げられる、というわけだ。そうして俺達はどんな区画がいいか、どんな魔物がいてどんな素材を得られるようにするのが良いのか等々みんなとのんびりと茶を飲みながら話し合うのであった。

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