番外877 魔界の対策会議
「それから……地脈を整える方法についてですが」
「ふむ。色々方法を考えて試算をしてみる、と前に言っていたな」
「そうですね。試算は終えていますが、それによって利点や欠点も見えています」
メギアストラ女王と受け答えして、俺の考えている方法を説明していく。
「まず――魔王国の都が地脈の上にあるという事を利用し、魔界側にも迷宮を伸ばす、或いは造るという方法ですね。地脈を通して歪みや澱み、ジオの負の感情から迷宮魔物を生成する事で問題を解決しようという試みです」
この方法に関してはルーンガルド側の迷宮核でシミュレーションしてみたが、技術的にも可能というのが分かっている。歪みの解消においても高い効果を発揮してくれるはずだ。
ジオグランタの感情に対しての抑制は――まあ、設定で調整すれば影響をかなり小さくする事ができるだろう。負の感情が歪みや澱みを引き起こす力になったところを利用してしまえば良い。即座に災害を引き起こすような負の感情だけは抑えられるようにする、という事も可能だが。
「問題点としては――魔界側でもルーンガルドと同様、迷宮を将来に渡って管理し続ける必要が出てくるという事ね」
ローズマリーが顎に手をやり、思案しながら言う。
「その点については私自身が魔界側の迷宮管理者となる事で一先ずの問題は解決するかしら」
ジオグランタはそう言って、首を傾げてこちらを見てくる。
「迷宮の機能を維持する方法としてはそれで万全だと思います。ただ、管理には悪用されないようにするという条件も加わるので、魔界側の迷宮を防衛する区画、戦力をしっかりと構築する事が必須ですね。迷宮の機能を考えればそれも問題はありませんが……」
「テオドールさえ良ければの話だが――それを手伝ってもらえれば心強いのだが、どうかな?」
「そうですね。僕でよければお手伝いします」
メギアストラ女王の言葉に頷く。
BFOプレイヤー、冒険者、それに迷宮管理者代行として培ってきたノウハウがあるからな。魔界側に色んな種族がいる事を考え、それを前提とした侵入者撃退区画を作ると共に、彼らの生活を維持するために便利な区画を考えてやりたいところではあるが。
「ジオが管理者になる事で、他の利点も出てくるかなと思います」
「というと?」
「迷宮の防衛については色々と過去の事例から対策を強化していますからね。呪術等の標的にされた場合は、かなり厚い防御で守られることになるかなと」
呪法による迷宮核へのハッキングは既に呪法防御のシステムを迷宮核で構築しているから、以前のエルベルーレのような攻撃方法は無力化される。
エルベルーレの精霊支配の術も同様に対抗用の術式や魔道具を作ったりしているしな。迷宮管理者になればシステム側から始原の精霊への防御を厚くできるというわけだ。
対策と言えばラストガーディアンが変質を起こした事件もだな。あれを失敗としてラストガーディアンを配置するのではなくパートナーとして育成するという方針にしたから、今のヴィンクルのように育成から進めているわけだし。
「ふむ。それを聞いている限りでは、城や要塞のような防衛施設を建てるようなもの、と考えても良いのかも知れぬな」
「目標にされやすくなる事と引き換えに、厚い防御に守られる、といった感じでしょうか?」
パルテニアラがそう言うとエレナが首を傾げる。
「まあ、そんなところだね。それを利点と見るか欠点と見るかは難しい所だけれど……長期的に考えれば危機管理は必要かな」
「ん。防犯に力を注いでいると、見せるのが大事」
俺の言葉にシーラが頷く。
「対策や攻略するにも大がかりになるものね」
「力の及ばない者は諦め、そうでない強者でも一朝一夕にいかないなら準備する必要が出てくる。その間にこちらも察知したり、対策を練る事が出来る、か」
イルムヒルトがそう言うとメギアストラ女王が目を閉じてそう言った。実際ジオグランタも魔王と協力関係にあるからベルムレクスは準備期間を必要としたのだし、対策も間に合ったのだ。
ジオグランタと共に歩む魔王の継承と魔王国の在り方が今の通りであれば……大きな問題は起こらないだろう。先々に渡っての可能性を考えた場合はどの方法でも不安が残るのは致し方ないところだ。だとするなら、長期に渡って存続してきた実績のある迷宮があった方が安心、という事になるか。
その他、魔界側に迷宮を構築するなら、という話をみんなに伝える。
「迷宮を構築する方法に関しては――こんなところでしょうか」
「ふむ。他の方法は?」
「魔界の星球儀とジオとの循環錬気。その分析結果で、歪みが噴出しやすい場所を、現在ある程度特定しています。その場所に浄化の為の施設を建てたり、そうした能力を持ったゴーレム、或いは魔法生物を派遣して対処するという方法ですね」
「施設を建造する場合の欠点は――施設の防衛と保守管理が問題になるかしら」
「人里離れている場所であれば、尚更難しくなりますね」
ステファニアが真剣な面持ちで言うと、グレイスも同意するように頷く。
「そうだね。魔物に壊されないように結界を張るとか、守護者を置くとか。保全のための自動修復機能を持たせるとか……その辺は環境魔力を取り込んでやればできる事ではあるけど、絶対とまでは言えないかな」
言うなれば、魔力送信塔が集めた魔力の使い道を施設自身が保全に回すといったようなものだ。魔王国から離れた場所に置く場合は――管理しにくくなる、というのはある。魔界故に防衛戦力もしっかり置く必要があるだろうし。
ただ、迷宮と違って、乗っ取られたり破壊されても個々の施設の重要性は大した事がない。要所要所に分散して置くものだしな。
長い年月で見るなら地殻変動等が原因で歪みの集積する場所が変わったり、という可能性もあるが、自動修復機能に施設そのものの移動機能を持たせる……という事もできるから問題にならないだろう。
「ゴーレムや魔法生物を派遣する場合は?」
「安定した場所、安全な場所に施設を作り、そこを基地として転移魔法等で浄化能力を持つ者を送り込むわけですね。施設にゴーレムや魔法生物そのものを生成する機能を持たせるか、生み出されたゴーレムや魔法生物を再生させる機能を持たせるか……」
魔法生物の自意識をどうするかが問題だな。ずっとその任務に就くというのは……結構大変なものだから。
アルクスに対するティエーラ、コルティエーラ。ヴィアムスに対する深みの魚人族のように……隣を歩んでくれる者がいなければ、魔法生物にとってもそれは苦行だろう。
「その辺りはジオがいれば大丈夫なのではないかな?」
「そうですね。ゴーレムの構築や魔法生物の対話と育成をしっかりしておけば暴走や反乱は防止できると思います」
ただ、現場まで赴いて浄化するという役回りなので、環境によって十全に力を発揮できなかった場合に高度な魔法生物を構築して置いて後からやり直し、とはいかない。
ハイスタンダードなアルクスやヴィアムスのような魔法生物は、様々な状況への対応能力が万遍なく高いので守護者として理想的となるわけだ。
自意識の薄い即席ならば……状況に応じて最適化した者を派遣する、という事が可能になるが……まあ、使い捨ての運用は好みではないからな。派遣して役目を終えたら基地に戻ってくるか、或いは様々な状況を想定した各種ゴーレムでの運用、ということになるか。
「とまあ、僕の考えた対策としてはこんなところです」
「将来に渡ってとなると、どうしても長期的に残せる施設が必要になりそうですね」
アシュレイが言うとマルレーンも真剣な表情でこくんと頷く。
「やはり……本命は迷宮ですかな」
「派遣に関しても迷宮であれば応用が利くであろうしな」
ボルケオールの言葉にメギアストラ女王は目を閉じ、腕組みして頷くのであった。




