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番外821 冬の領主達

 街に戻っていくハドリー達と一旦別れ、ガートナー伯爵領から離れる前に母さんの家の片付けを行った。

 使った寝具や風呂を生活魔法で綺麗にし、持ち込んだものは回収。火の元と戸締りの確認をしていく。


「まあ、綺麗にしたり戸締りをすると言っても、フローリアがいるから諸々安心ではあるんだけれど」

「ふふ。それでも大切に使ってもらえるというのは嬉しいし、力が湧いてくるわ」


 フローリアは上機嫌そうににこにことしている。樹の高位精霊であると同時に、家妖精に近い性質も持っているのがフローリアなのだ。


「さて、こんなところかな」


 暫く家の片付けに勤しみ、諸々綺麗になったところでそう言うと、フローリアも満足そうに頷く。

 父さん達は先にカーター達とハドリー達を街に護衛しつつ送って行った。俺達も父さんの所に行って転移門で帰るのだが、ハロルドとシンシアは俺達が帰るまで行動を共にする、という事で一緒に片付けを手伝ってくれた。


 そうして……みんなで馬車に乗って街へ向かう。


「テオドール公の育った家は良い場所でしたな。あの森も季節が違えば実に過ごしやすそうです」

「そうですね。湖畔に大きな樹の家――絵になります」


 と、ボルケオールやカーラが頷き合う。中々種族的な観点によった意見ではあるが、まあ、気に入って貰えたなら良かったと思う。


 街に到着すると、沿道にカーター達とハドリー達、それに領民が来ており、俺達の乗っている馬車の車列を見送るようにお辞儀をしてくる。俺も――馬車の窓から顔を覗かせて小さく笑って手を振ると、カーター達を始めとした交流のある領民達も笑顔を浮かべる。


 そうして……領民達から静かに見送られて俺達は父さん達の待つ屋敷へと戻った。


 父さん、ダリル、キャスリンと揃って、俺達が戻ってくるのを待ってくれていたようだ。


「戻って来たか、テオドール」

「はい。母さんの家の方は片付けも終わっているので問題ありません。来て良かったです」

「それは……良かった」


 父さんは俺の言葉に目を閉じて、嬉しさを噛み締めるような笑みを見せる。


「ハロルド達については、私が責任を以って家まで送ろう」

「ありがとうございます」


 父さんの言葉に頷いて、ハロルドとシンシアとも別れの挨拶をする。


「それじゃあ、二人とも元気で。また……そうだな。魔道具を届けに遊びに来るかも知れない」

「はい。お帰りをお待ちしています」

「いついらしても大丈夫なように、しっかりとお仕事をしておきますね」


 と、笑うハロルドとシンシアである。ハロルドは水魔法。シンシアは風魔法に適性があるようだ。土魔法か木魔法だったら最高だったのですが、と苦笑していたハロルドとシンシアであるが……。


 まあ、それはそれで護身用の魔道具等を作るのには問題はない。治癒、解毒等の魔道具も使いこなせるし、逃走用に霧を発生させたり、眠りの雲を使ったり、氷の蔦で移動を封じたりだとか、護身用と考えれば水魔法は結構利便性が高い。


 風魔法は簡単なところでは遠くの音を聞いたり、自分達の周囲から音を消したり、陽動の為に音の場所をずらしたりといった事ができる。風の弾丸も非殺傷ながらも制圧力を持たせる事はできるので、護身用と考えるなら使いやすい。


 仕事の助けにもできるようにするには水魔法と風魔法だと多少の工夫が必要だが……まあ適性が分かっているなら後は習熟度の問題なので何とかなるだろう。


 ハロルドとシンシアの魔道具に関しては帰ってから必要な機能、そうでない機能を考えつつ製作を進めるという事で。


「奥方様も、健やかにお過ごし下さい」

「ありがとうございます。テオドール様も」


 キャスリンとも静かに挨拶を交わす。

 俺と挨拶を交わした後で、ネシャートからもキャスリンに別れの挨拶を交わしていた。それを見て、ダリルが穏やかな笑みを見せる。

 キャスリンはまあ、話を聞く限りでも、こうやって挨拶をした限りでも、落ち着いているようだから特に問題は無さそうだ。

 行動を自粛しているとしても、家督関係と関係のない所では普通に過ごしているという話だし……ダリルとネシャートとも関係は良さそうだしな。とかくこういうのは信用の問題であったりするので継続による積み重ね、というのは大事だろう。


「それじゃあ、ダリルも元気で」


 そのダリルとも言葉を交わす。


「うん。テオドールも」


 次に会うのは――ハロルドとシンシアの魔道具を届けに来る時か。或いは結婚式で、だろうか。まあ、冬なのでタームウィルズにガートナー伯爵家が訪問してくる事もある。いずれにしてもそれほど間を置かず、また会う事になるだろう。

 それから……今日領民のみんなと話が出来て良かったと、墓参りの時に感じた事を、ダリルに話をしておく。


「――うん。テオドールは、そうだよね」


 と、俺の心情を聞いたダリルが納得したように頷く。


「そういうものかな。自分では、少し意外だったんだけど」

「テオドールは……自分の事では、そんなに怒らないからね。前に僕や兄さんがちょっかいを出しても、不干渉でさえあればそれで良いって印象だったから」

「そう言われてみれば……そう、かも知れないけれど」


 その辺は自覚が無いでもないが……ダリルからはそう見えた、という事かな。少し居心地が悪くて頬を掻くと、ダリルは穏やかに笑う。


 そんな風にして、俺達は父さん達とハロルド、シンシアに見送られてガートナー伯爵領を後にしたのであった。




 領地に戻ってからはいつも通りに執務を進めつつ、あれこれと抱えている仕事を進めていく。

 冬という事もあり、何人かの領主がタームウィルズに来ていたりする。知己のある領主達も転移門で気軽にタームウィルズに来られるようになったからか、フォレスタニアに挨拶に来たり、俺達からタームウィルズ滞在用の別邸に遊びに行ったりもした。


 ウィスネイア伯爵家の令嬢であるオリンピアも少し大きくなっていて、嬉しそうにコルリスやアンバーに抱きついたりしていた。ウィスネイア伯爵によるとすっかりベリルモールが気に入ってしまったオリンピアなのである。


 何というか。貴族同士の付き合いはもっと堅苦しい物なのかと思っていたけれど、みんな割と気さくに接してくれるのでこちらとしても気軽で良い。


 その中でもドリスコル公爵としては魔界の面々と顔を合わせたり、新しく幻影劇の作製が進んでいるという事でとても嬉しそうにしていた。


「おお。これはお目にかかれて光栄です……!」


 と、ブルムウッド達やボルケオール、カーラ、ベヒモス親子やルベレンシアと笑顔で握手を交わしたりしていた。この辺の物怖じしない社交性は相変わらず、という印象だな。

 いずれにしても好意的な反応であれば魔界の面々も悪い気はしない。ドリスコル公爵の挨拶に魔界の面々も楽しそうに挨拶を返し、良好な関係を築いている様子であった。


 ドリスコル公爵の興味、といえば幻影劇の作製も順調だ。題材としてはエインフェウス王国初代獣王の話と、ホウ国の聖王と草原の王の話になるが、このままのペースなら春の結婚式までに封切りできるかも知れない。


 聖王と草原の王については八卦炉等の表に出せない事情を伏せつつ、聖王と草原の王の幼少期からの関係性やそれに絡んだ話を主軸に展開している。

 暴君の軍勢に対抗するために古代の強力な宝貝の鎧を使い、その副作用で次第に性格が変わっていく事を自覚する草原の王。

 自分が引き返せなくなった時に止めて欲しいという聖王との約束。そういった形で伏せる部分を伏せつつ二人についての真実を描いていくといった内容だ。


 まあ何というか。折角東国の話なので異国情緒をたっぷりと感じられるものにした。文化にしても街並みにしても資料に忠実に再現したり、BGMもホウ国に伝わるものを収録したり。

 文化面で理解しにくい部分は、邪魔にならない程度に注釈やナレーションを入れたりもしているので、幅広い面々に楽しんで貰えたらといったところだな。

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