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番外717 森の賢人

 なるほど。事情を聞かせればそのままにはできないが、義理堅い人物達と分かっているのならそのまま巻き込んで人材として召し抱えてしまうという選択も悪くないと。

 そうした提案は竜種のしそうな行動や考え方からはやや離れているように思う。メギアストラ女王の魔王としての経験が長い事を裏付けているように思うが。


「さて、どうする? 返答がどうであれ不利益が無い事は保障しよう」


 メギアストラ女王はブルムウッド達に尋ねる。


「まず……事情を聞いても恩人の安全と天秤にかけるような事はしたくありません。最初にそれを申し上げさせて下さい。そして義理堅い事を理由にそう仰って下さるのであれば……これから伺うお話の内容も信じられる気がします。私は、ヴェリト達の身が安定するというのなら、彼らの判断次第と思っております」

「無論、それでこそだ。この場の話の行方がどうなるにせよ、魔王の名に懸けて客人に傷をつけるような真似はすまい」


 ブルムウッドの返答にメギアストラ女王は静かに頷いた。ヴェリト達は顔を見合わせて少しの間考えていたようだが、やがてお互いに頷き合う。


「先程のお言葉通りであれば、召し抱えて頂けるというのは嬉しく思います」

「そうか。では、決まりだな」


 ヴェリトの言葉に、メギアストラ女王も頷く。ディアボロス族の面々もここに残って話を聞く、と。ヴェリト達としても魔王城でしっかりとした仕事に就けるというのは有り難い話だろうしな。

 これで、みんなで腰を落ち着けて話をする準備が整ったと言えよう。


「さて。まずは……そなた達に監視の目を向けた理由だが、これについてはエンリーカから話を聞いているのだったな?」

「はい。過去の事件が理由で、特定の情報を調べる者を察知できるようにしていた、との事ですね。僕達が調べていたのは森の賢人についてですから、それに絡んだ事件と推測していますが」

「そうだな。過去、森の賢人の持つ知識を狙う輩が事件を起こした事があった。賢人の一件に限らず、魔王国に対しては敵対的である為に危険視をしている。水晶球の審問も、その対策と言うところが大きい。最近はその活動も鳴りを潜めてはいるがな」


 なるほどな。多種族で構成される魔王国だけに、紛れ込まれての破壊工作を危惧していたわけだ。兵士達の警戒度が低めであったり街が平和そうなのは……それも大分前の話だからという事なのだろう。


「警戒と監視を解いたのは、私達の特徴がその事件の犯人とは違うから、という事ですか?」


 ステファニアが尋ねると、メギアストラ女王は静かに言葉を続ける。


「それもあるが……一番の理由はもっと根本的なものでな。ボルケオール」


 そう言って視線を広間から続く隣の部屋に向けて、声をかける。


「では、失礼致します」


 返答があって、戸口に何者かが姿を見せた。ローブを身に纏っているが……顔は大分個性的だ。赤に白い斑点を散らしたような頭部は傘を被っているような印象だ。

 その下には青く光る目しかない顔。頭部から下はマイルドな白一色だろうか。ローブの裾から覗く手もややずんぐりとしているものの、丸みを帯びた白い指が確認できた。


 末端部分は丸みがあるものの、ローブの下の体型は人間で言うと中肉中背という印象だ。見た目は……手足と目のあるベニテングダケだな。


「おお……谷のキノコ達……。無事だったか」


 パルテニアラが目を大きく見開き、嬉しそうに笑みを浮かべる。エレナもそんなパルテニアラの反応に嬉しそうに目を細めた。


「そうだ。紹介しよう。ファンゴノイドのボルケオールという」

「初めまして。ボルケオールと申します。そして……貴女はパルテニアラ陛下ですな。我らへのその呼び方……間違いありますまい」

「女王であったのは過去の事――。今のこの身は霊体のようなものでな」

「そう……なのですか。いや、何にせよ、お目にかかれて光栄です。先祖に叡智を授けた偉大なる女王……まさか直接お会いする事ができるとは」


 ボルケオールは目を細める。口と鼻が無いのでやや表情が分かりにくいが笑みを浮かべているようだな。


「そこまで言われると、些か気恥ずかしいものがあるな」


 と、パルテニアラはボルケオールの言葉にやや照れているようだ。そんなパルテニアラを見て、エレナやマルレーンもにこにことしていた。

 ともあれ、ファンゴノイドは……何らかの手段でパルテニアラの事を後世に伝えているというのははっきりした。だから……ファンゴノイドを保護しているメギアストラ女王は俺達の事を認識して招待した、と。それは理解したが。


 メギアストラ女王がどこまで知っているのかは……まだ判断できないな。

 過去、パルテニアラはファンゴノイド達にもっと暮らしやすい場所に移住すると話をし、魔界から脱出する前に別れの挨拶をしたそうだ。

 だが、自分達が魔界に紛れ込んだ事やルーンガルドに帰還する事そのものは伏せていたという話だから、ファンゴノイドと魔王国が近しい立場にあったとしても、魔王が魔界とルーンガルドの事を知っているとは限らない。


「これは――驚かされるな。そなた達の容姿が報告として上がってきた時点でファンゴノイド達が注目してな。先人が森の賢人達との交流を持っていたというそなた達からの伝言も聞いて、余もある程度の確信を持ってはいたが……まさか当事者とは。余としては、過去の偉人に関わる伝説的な種族の末裔に会えるものと楽しみにしていたのだが……どうやらそれ以上のものを引き当ててしまったようだ」


 と、メギアストラ女王は顎に手をやって感心している様子であった。みんなもディアボロス族の面々も、話の流れに驚きの表情を浮かべている。


 パルテニアラの事が伝わっていたという事は、メギアストラ女王の認識としては「当時ファンゴノイドに知識を渡した謎の王女とその種族」という括りになるわけだ。

 とは言え、魔界……少なくとも魔王国の版図において、魔王は最も情報の集まる立場だし、魔王国自体も高い魔法技術を持っているからな。

 解析や分析等の正攻法の手段によってメギアストラ女王が魔界の仕組みであるとかルーンガルドの存在に気付いていない、とは断言できない。その辺りの事についても……話をしながら見当をつけていくか。


「なるほど。状況はある程度理解しました。楽しみにしていたと仰いましたが、僕達が招待を受けた理由は、他にもあるのでは?」


 そう尋ねるとメギアストラ女王は少しの間目を閉じて考えていたが、やがて意を決したというように目を開き、静かに頷いていった。


「そうだな。当事者と共にいる者達だと言うのならば、あれこれと言葉を飾る必要もあるまい。可能ならば力を貸して貰えるかもと考えて招待をしたのだ。森の賢人達について様々な知識や技能を伝えた者達であるならば、余らの抱えた問題を解決――或いは助けになる知識や技術を持っているかも知れない、とな」

「知識や技術、ですか」


 ファンゴノイドを襲った連中に関して等、不穏な話はあるものの……それも今は落ち着いている。魔王国は平和そうに見えたし、想念結晶や昇降用の設備等を見ても、相当高度な魔法技術を持っているように思うが、それでも足りないような問題がある、と。


「順を追って話をしていこうと思うが……まあ先ずは、ボルケオールだけでなく、他の森の賢人の所へ案内した方がそなたらとしても安心できるだろう。何故余や森の賢人達がそなた達の事を知っていたかも、その場所へ行けば説明が容易だ」

「城の地下区画ですな。陛下は我らが暮らしやすい環境を整えて下さっている、というわけです。こうした幻術も、外に行く時の為の備えです。まあ、我々はあまり好き好んで外には出ませんが」


 ボルケオールが胸元に付けた首飾りを弄ると、ファンゴノイドの姿が何やら植物的な見た目の種族に変化した。なるほどな……。

 城の地下でもファンゴノイド達にとっては環境が合っているので満足行くものらしい。元々胞子の谷からあまり外に出ない種族だったようだしな。

いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます!


公式の方でも情報が公開となりましたので書籍版『境界迷宮と異界の魔術師』10巻の特典情報について、活動報告にて告知しました!

本日発売という事で、既に店頭等には並んでいるところがあるかも知れません。

こうして無事に10巻を刊行できるのも読者の皆様の応援のお陰です! 改めて感謝を申し上げます!


今後ともウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願い致します!

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