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133 大腐廃湖

 ほとりを歩き、湖を横断するように続いている細い陸地に向かって歩いていく。

 あの細い道は湖に点在する島と島を繋いでいる。俺達はその中から適当な道を選んで奥へと進む事にした。


 道が繋がっていない、完全に孤立している島もあるのだが、そういう所に限って宝箱が配置されていたりするのが厄介だ。

 宝箱を回収するためには足場から離れて沼の中を移動しなければならなかったりする。そういう所に限って敵が多く配置されていたりするからな。


 この区画については視界の確保も問題となるだろう。全体的に靄のような物が立ち込めていて、暗視の魔法を用いても視界が良くないのである。とは言え松明や魔法の明かりを使うと頭上の敵が活気づくので避けた方が良い。

 結局、ここでは暗視の魔法で進んでいくのが無難なので、仲間達には前以って魔法を用いてある。


「湖と言っていましたが……沼ですね、これは」

「水深はどれくらい?」

「深い所で……俺の腰ぐらいじゃないかな?」


 殆どの場所は成人男性だと膝より少し上ぐらい、といったところか。

 ぬかるみに足を取られると動きが鈍るし、泥の中にも敵がいる。引き込まれると全体が毒の沼地であるために大変危険だ。


「細い道を渡る時と、湖の中が危険、という事でしたね?」

「そう。打ち合わせの時も言ったけど、頭上と足元に注意」


 泥の中から襲ってくるスラッジマン。頭上の暗がりから襲ってくる人面蟲フライヘッド。この辺りとは大腐廃湖を通してどこでも戦う事になる。

 どのみち水上歩行と空中移動を用いるので真っ当に攻略する気はないが……最初だけは相手の性質と対処方法を見るという事で、今は細い道の上を低空で移動中だ。

 高度を高く取り過ぎても敵に襲われるので、普段の探索もこれに近い形になるとは思うが。


「上から、敵」


 言っている側から襲撃だ。シーラの短い警告。臭気は遮断しているために、嗅覚による探知が使えない。なのでシーラとラヴィーネの聴覚、イルムヒルトの温度感知がこちらの探知センサーという事になるだろう。


 やってきたのは案の定。羽音を殆ど立てずに頭上から滑空して降りてくるフライヘッド共だった。サッカーボールぐらいの大きさだ。

 人面と言ってもそこまで生々しくはない。外骨格が顔に見える類で、例えるなら平家蟹ぐらいの人面度だろう。それでも場所が場所なので十分不気味ではあるのだが。

 注意すべきは大顎と針だ。麻痺毒と吸血攻撃を持つため、スラッジマンに足を取られていたり、気付かずに毒を食らうとかなり厄介な事になる。


「行く」


 言うなり、シーラが空中を蹴って迎撃に移った。ノーチラスから鹵獲したカットラスが真珠色の煌めきを放つ度に、フライヘッドが真っ二つになって毒の沼地へと落とされていく。

 グレイスが後に続く。シーラは迫ってきたフライヘッドに対し、空中を蹴って高速離脱。その穴を埋めるようにグレイスが入れ替わり前衛となる。

 攻撃のタイミングを外されたフライヘッドを、グレイスが斧の腹を使ってまとめて薙ぎ払っていく。空気抵抗を物ともせずに、複数体を微塵に砕き散らしてしまうのはさすがの威力だ。


 マルレーンが空に向かって細剣を翳す。ソーサーが旋回するように空中を飛び回り、シーラとグレイスに対して背後から攻撃を仕掛けようとしていたフライヘッドを高速回転で弾き散らしていく。


 ソーサーは1枚ではない。マルレーンの方へ向かってこようとするフライヘッドをソーサーがブロックしたかと思うと、虚空に浮かんだ魔法陣からデュラハンが出現。同時に大剣を振り下ろして叩き潰してしまう。


「剥ぎ取りは?」


 見る見るうちに叩き落とされて沼地に沈んでいくフライヘッドが気になるのか、一瞬視線を送るシーラ。


「気にしなくていい。沈んだ奴は回収の労力に見合わないから。陸地に落ちたのだけ回収していくようにしよう」

「了解」


 短く答えて、空中の敵を切り刻む。シーラの扱う武器がダガーからカットラスになったが……刀身が軽量で切れ味も相当なものなので、手数はそのままでリーチが伸びたと見ていい。


「そこね」


 地上は地上で敵が寄ってきているようだ。イルムヒルトが矢を番えて沼地の中に叩き込む。と、命中した沼地から、頭に矢が刺さったままのスラッジマンが堪らず飛び出してきた。

 タール状の身体を持つ魔物だ。人型に近い。肩の辺りからドーム形の丸みを帯びた頭部がくっ付いているようなデザインだ。


 スラッジマンの攻撃は基本的に待ち伏せか、忍び寄ってから掴みかかる事だ。

 力が強く、耐久力も高い。ただ、動きが鈍いから待ち伏せを仕掛けるわけで……温度感知で察知しているイルムヒルトから見れば、対処しやすい相手なのかも知れない。

 但し、スラッジマンは状態異常に対しては非常に強固な耐性を持っている。毒、麻痺、混乱といった攻撃が通用しない点に注意が必要だ。


 イルムヒルトが続けざまに矢を放つ。隠れている周囲のスラッジマンごと氷結していき、立ち上がったスラッジマンの周囲までを凍らせて動きを封じる。そこをアシュレイのウォーターカッターが切り刻んでいった。


 良い連携だ。視界の悪さに関わらず感知できるから、対地、対空共に問題ない。

 まずは――しぶとく生き残ってもがいているスラッジマン達を片付けてしまおう。


「サンダークラウド!」


 帯電した暗雲が大腐廃湖の表層を撫でていく。巻き込まれたスラッジマンへ強烈な雷撃を浴びせて一網打尽にしていく。

 ふむ。スラッジマンの耐久力から見ても、俺は地上側の迎撃を行うのが良さそうだ。


 と、沼の向こうから、直立する巨大鰐が棍棒を手に、こちらに向かってくるのが見えた。

 ロトンダイル。大腐廃湖に適応が可能な、毒耐性を持つ鰐の魔物だ。大腐廃湖に現れる魔物の中では比較的大物の部類と言えるだろう。

 要所要所に配置されていて、近付くと迎撃に移るという行動パターンを取る。近くに宝箱でもあるのかも知れない。やってきた方向をよく覚えておこう。


「あれは俺が。みんなは戦いながら最初の島まで移動。円陣を組んで迎撃」

 

 指示を飛ばしてから、空中を蹴ってロトンダイルに突貫する。合わせるような力任せの振り上げ。

 棍棒で泥土を巻き上げ目潰し兼盾代わりに使っている。シールドで突破して突っ込むと、待っていたとばかりに俺の頭部を狙って打ち降ろしてくる。棍棒を横跳びに避けて離れ際火球を撃ち込む。

 こちらは爆風を隠れ蓑にして突っ込む。と、がむしゃらに振り回す棍棒が、斜め下から迫ってきた。

 シールドで受けて、棍棒に乗っかるように跳躍する。

 まだ――。ロトンダイルには咆哮による衝撃波という隠し玉があるのだ。牙と尾による一撃も脅威ではある。だからまず、牙による攻撃を封じる。


「ライトバインド」


 頭上を飛び越え、すれ違う瞬間、離れ際に魔法を放つ。狙いはワニの頭部。顎を縛り付けるように拘束。同時に光を放つライトバインドを眼前に配置する事で目くらましとして利用するわけだ。


 こちらの姿を見失ったロトンダイルが、ライトバインドの拘束から逃れようと顔を掻き毟っている。奴の怪力なら遠からずその拘束から逃れられるだろうが、こちらは既に奴の頭上後方、完全に死角になる位置取りを終えていた。


 レビテーションで慣性を殺しつつ、身体を反転。シールドを蹴ってエアブラストで加速。眼下のロトンダイルへと突撃する。

 加速と衝撃。苦悶の悲鳴。脳天にウロボロスの角が突き刺さると同時に雷魔法が発動。ロトンダイルの頭蓋を雷撃が焼き焦がした。


 空中で転身して湖面付近に浮かぶ。肩越しに振り返ると、ぐらり、と力を失って崩れかかるロトンダイルの姿が見えた。

 そのまま倒れられてしまっては泥の中に埋まってしまう。レビテーションで浮かせると、剥ぎ取りのためにみんなのいる島まで運んでいった。どうやら向こうも粗方片付いたところらしい。


「ロトンダイルをあっさりとまあ……。分かっていた事だけれど、上級ガーディアンでもないと勝負にもならないわね」


 クラウディアが呆れたように言う。


「あの手の、図体で力任せっていう類はやりやすいから」


 普通に戦うと大腐廃湖は足場が悪いので、基本が力押しのロトンダイルは前衛泣かせだったりするけれど。低空で戦っている俺としてはあまり関係が無い。

 さて。剥ぎ取りといこう。


「このリザードマンもどきみたいなのは、何が採れるの?」


 イルムヒルトが尋ねてくる。


「表皮が加工品になる。腐食に耐性のある皮装備が作れるんだ」


 ロトンダイルに関しては、また何か装備品が期待できそうな所があるかな。防具は割と充実してはいるんだが。


「フライヘッドは?」

「毒袋を回収して、麻痺毒が取れる。スラッジマンは……血液が薬になるんだ」

「……薬」


 微妙な表情をするシーラ。その気持ちは分かる。


「そう。毒の沼に潜っていて平然としているのは、それだけ毒に対して抵抗力が強いっていう事で。だから血液が強力な解毒薬に加工できる」


 スラッジマンの素材は売却の方向で良いか……。クリアブラッドの魔道具があるし、現物を知っているとちょっと抵抗がある。

 それなりの値段になるので稼ぎ的には悪くないのだが。ただ、表面を水魔法で洗浄しないといけないので、剥ぎ取りにやや手間がかかるのが面倒ではあるが。


「ああ。それから、近くに宝箱があるかも知れない。ロトンダイルは拠点防衛役だから……ええっと。あいつが来たのは、向こうの方か」

「じゃあ、イルムと一緒に調べてみるね」


 セラフィナとイルムヒルトが顔を見合わせて微笑む。イルムヒルトが俺の示した方向へ鳴弦を打ち鳴らし、広がってから反射してきた音をセラフィナが集めていく。

 セラフィナは手元に集めた音の魔力をしばらく分析していたようだったが、やがて顔を上げると暗がりの向こうを指差した。


「あっち。何か四角いのがある」


 セラフィナの示す方向へと皆で低空を飛んで移動すると、小さな陸地の真ん中に宝箱が置かれていた。

 宵闇の森、魔光水脈の水の中と、あまり宝箱には恵まれない場所ばかりだったからな。

 加えて大腐廃湖は敬遠される傾向にある。宝箱に関しては手付かずになっているだろう。ここはその中身に期待したいところだ。

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