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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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134 境界都市への来訪者

 魔法の罠は……掛かっていないようだ。シーラは宝箱の鍵穴に金属の棒を差し込み、少しの間、鍵と格闘していたようだが、あっさりと開錠に成功したようだ。
 宝箱の蓋を上から押さえて、シーラが言う。

「罠が掛かっている。多分、弓矢の罠。正面に立たない方がいい」

 との事なので、みんなして宝箱の後ろに移動する。シーラが手を離してその場から離れると、勢い良く宝箱の蓋が跳ね上がり。同時に矢が猛烈な勢いで大腐廃湖の闇の向こうへと飛んでいった。

「流石。鍵穴を見ただけで罠の種類が分かるのか」
「余計な絡繰りがある時は手応えの違和感で解る。魔法の罠はテオドールが調べてくれるから安心」
「中身が魔道具系統だと区別が付かない時があるんだけどね」
「でも、目安になる。鍵の難易度が簡単な時は、魔法の罠を疑えと教わった」
「なるほどね」

 中身に魔力反応がある、鍵が開けやすい、と条件が重なったら魔法の罠である危険性が非常に高くなる、となるわけだ。

 さて。肝心の中身だが……暗い青色の光沢を放つ金属塊が鎮座していた。見覚えのある金属だ。

「バリュス銀か……」
「重い金属よね、確か」

 クラウディアが言う。

「そう。重くて頑強な武器を作るのに向いている」

 金属素材というのは、また扱いを考える必要があるな。工房に持ち込んでビオラに加工してもらうのが良いのだろう。どうせレア素材なら生のまま使うのではなく、BFO知識を活用して加工してやるのが良さそうだ。
 金属素材の組み合わせで何と何を混ぜればどんな特性が得られるか、というのはゲーム知識の蓄積がある。

 BFO時代ではフレンドに脳筋がいてバリュス銀ベースの装備でフルプレートとタワーシールドを作りたいからと言っていたので色々素材集めを手伝ったりしたものだ。
 ……ふむ。組み合わせと配合比は覚えている。足りない素材は買い集められるだろう。
 バリュス銀ベースの武器や防具となると用途が限られてくる。防具に用いるには重すぎて、パーティーメンバーにはやや合わないな。

「グレイス。これ持てる?」
「どうでしょうか。少し見せていただけますか?」

 と言いつつ、グレイスはバリュス銀の塊を平然と持ち上げて見せた。……この金属塊の行方は決定だな。軽量化の術などを施すにしたって、重量があると消費魔力も多くなるのだ。実用的に運用するには、グレイスの武器という形になるだろう。金属塊では持ち運ぶにも邪魔になり過ぎる。さっさと工房に転送してしまおう。
 とは言え、まだ迷宮に降りてきたばかりなので転界石が足りない。

「とりあえずこれは俺がレビテーションで運ぶから。その間転界石を拾い集めて行こう」
「物品の転送だったら、私が手伝うわ」

 クラウディアが言う。

「それは助かるけど。力の消費は?」
「転界石が少量だけあれば問題ないわ。あまり迷宮の魔物との戦闘では役に立てないから……」

 なるほど……そういう事なら頼らせて貰うか。転界石の回収が最小限で済むのなら、それだけ探索と戦闘に時間配分を回せる。彼女自身はあまり役に立てないと思っているようだが……クラウディアが同行する事の意味は結構大きくなるだろう。
 とは言っても……彼女は魔物のタゲを取らないようだ。さっきの戦いではマルレーンやセラフィナの側にいたし、いざとなったら力を行使して魔物を停止させるつもりなのかも知れない。まあ……極力クラウディアの力を浪費させないよう気を遣って行こう。



 大腐廃湖探索を終えて、神殿に戻ってくる。
 流石に環境が環境なので、みんな気疲れした所はあるようだ。低空で移動出来ると言っても、下に落ちたら毒の沼という事実には結構負担を感じるところがある。ましてや戦闘するとなれば、何かの拍子に落下しないとも限らない。

 落ちたら毒沼というプレッシャーの元でポテンシャルを発揮出来る、というのは割と重要な事だ。大腐廃湖はもう少し攻略を進めて、封印の扉解放の日に合わせた対応力を磨いていく事としよう。
 とは言え、肝心の探索そのものは順調だ。みんなも成長していると言う事だ。

 ふと見ると、何やら騎士団連中と兵士が慌ただしく走り回っているのが目についた。随分な数の人員が動員されている。しかもその表情にはかなりの緊迫の色が見て取れた。

「何かありました?」
「はっ! これは大使殿」

 手近にいた騎士に尋ねると、彼は直立不動で敬礼してから小声で答えてくる。

「……デュオベリス教団の信徒が南門に現れたのです」

 教団の連中か。どうやら、ロイの出まかせだけでも無かったらしいな。

「神殿で警戒というのは、逃げられたと言う事ですかね?」
「いいえ。その者については問題ありません。ですが、他に潜入している者がいるかどうかが未知数でして」

 となると、そいつは捕えられたか、騎士団と交戦状態になって死亡したか。いずれにせよ現時点では情報が得られていないという所なのだろう。
 その信徒が最初で最後、と見るのは楽観的に過ぎる。タームウィルズ内部には既に潜入されている物という前提で動くべきだ。

「なるほど。それで、神殿と冒険者ギルドに警戒を?」
「そうですね。神殿と街の中央部、東区はまず警戒すべき場所です」

 魔人信仰の連中からしてみると祝福で魔人の力に対抗出来る月神殿は敵だろうからな。迷宮に潜入されてしまうというのも封印の扉の事を抜きにしても、潜伏場所にされてしまう事も考えられるから防衛しなければならない。要するに、神殿が王城に匹敵する最重要施設と見て間違いはない。
 中央部は貴族連中が住まう場所。東区は連中の本命である魔人殺しの俺が住む家がある区画。貴族の子弟が通うペレスフォード学舎もあるから、やはりこの辺は黙っていても警戒度が高くなるだろう。

 他に連中が狙いそうな場所で、見落とされそうな所は――。

「……西区の孤児院もでしょう」
「は?」
「あの孤児院は神殿が運営していますから。デュオベリス教団は魔人に対して生贄を捧げる集団ですし、連中にとって孤児院を狙う意味があるわけです」
「な、なるほど。それは確かに。上役に伝えて参ります」

 警戒中に月神殿の庇護下にある子供を攫われた、などというのは沽券に関わる話だ。
 騎士は緊張した面持ちで駆けて行った。後で騎士団の警備体制について確認を取っておこう。

 イルムヒルトとシーラが浮かない表情である。
 この場合は……魔人殺しである俺と関わりが深い事が向こうに伝わらない方がいいので藪蛇と言う事もあるだろうからな。

「孤児院については、俺からも対策を考えておくよ。カドケウスを夜間警備に向かわせるっていう手もあるし」

 告げると、2人の表情が明るくなった。

「なら、私は家の警備を万全にする」
「そうね」

 2人は顔を見合わせて頷いている。
 ……工房に顔を出そう。バリュス銀の事もあるが、アルフレッドに連絡を取り、警戒を促すと共に何か対策を考えておきたい所だ。



「……うん。僕の所にも連絡が来ている。チェスター卿が話を伝えに来てくれたよ。それにしても孤児院か。確かに、狙われる危険性が高いかもね」

 当然アルフレッドにもきちんと連絡が回っていたらしい。さすがに東区はかなり警戒度が高い。俺の家と工房、学舎は近い場所にあるからな。

「対策は工房に来るまでに少し考えた。警報装置だ」
「警報装置?」
「うん。通信機用に組んでいた契約魔法で応用が利くかもって思うんだけど、どうかな」

 俺の言葉に、アルフレッドが目を瞬かせる。

「ええっと。通信機を第三者に使わせると、通信機の方から契約違反で自動的に通報されるって奴?」
「そう。それ。術式だけならもう出来てるんだし、あれと結界魔法を連動させて、契約違反―――つまり通行許可のない部外者が結界線を越えると、風魔法が作動して警笛を鳴らすっていう具合」

 交換局にあたる設備を作るに辺り、第三者に悪用されないようにセーフティー機能を設ける必要があった。
 俺達の取った解決法としては契約魔法の内容をもう少し踏み込んだ物にして、所有者以外が用いるとサーバー側に自動的に連絡が来る、というものになる。
 一方、管理者側は勝手にサーバーの通信ログを見ると端末側にそれが伝わるというセーフティーを施す事で、お互いに悪用出来ないようにするという寸法だ。

「……うん。仕組みは分かる。実地試験にもなるね」
「警笛に術式を刻んでくれれば、実際に張る結界魔法の調整は俺がやる。後は孤児院の職員と子供に持たせる結界用の通行証があれば……」

 その形なら孤児院だけでなく、他の場所にも警報装置を作れるとも思うが。不特定多数、大人数が出入りするような場所では、もう少し調整する必要があるだろう。
 まずは試験的にと言う事で……工房や孤児院から試す形でやってみるのが良さそうだ。

「なるほど。基礎は出来てるからすぐに作れるよ。通行証は別に、本当に簡素なものでもいいんだよね?」
「今から間に合わせるには凝ったのじゃ無理だろうし。俺もすぐ結界魔法の内容を紙に記述するから」
「君も結界を張りに行く時は、指輪を付けて変装して行った方がいいね。暫くあの指輪を使うと良いと思うよ」
「連中を生け捕りにして情報を引き出せれば相手がどのくらいの規模で動いているのか分かるだろうし。まあ、それまでの辛抱と言う事で」

 アルフレッドは頷くと、どこか遠い目をする。

「……破邪の首飾り以来の大仕事になるかな。あの時とは違って、体力回復の魔道具に、眠気覚ましの魔道具も用意してあるんだ」

 ……うん。申し訳ない。
 バリュス銀の塊を見つけたというのは――今日の所は伝えないでおこう。
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