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番外609 留守の間の出来事は

 シリウス号を召喚できるようになれば――それは魔界の門を防衛する有事の際にも活用できるはずだ。

 その点で言うとアルファは元々迷宮深層のガーディアン。俺は迷宮管理者代行であり、シリウス号の所有者だ。管理責任を負う、という事になっている。迷宮核にも手を加えられるのでシリウス号を迷宮内部に転移させるのは十分な空間があれば難しい話ではないだろう。


 そうなると……マルレーンがアルファと召喚主と召喚獣として契約をするのではなく、召喚用の専用魔道具を作って俺が行使する、ということになるのかな。魔道具化する以上はある程度融通を利かせられるようにもできるだろうが……。そのあたりは迷宮核とシミュレートしながら考えるとしよう。


 外洋航行船の造船とシリウス号の改造は造船所で進められる仕事なので、タイミング的にも良かったかも知れない。

 ともあれ、シリウス号も魔界に持っていけるという事は、魔界探索においてできる事の幅が広がるばかりか、物資輸送の手間も大分省けて、準備期間が縮められるしみんなの負担も減るという事を意味している。シリウス号の事で安心して対策にぬかりがあっては本末転倒だから、しっかりと一つ一つ確認して間違いのないようにしたい。


 シリウス号召喚に関する取り決めの細かな部分も大体決まったので、茶を飲みながらこれで仕事の負担が減る、という話をメルヴィン王とジョサイア王子に話題として出してみると、二人とも笑って頷く。


「それは何よりだ。テオドール公も誕生日が近いのだし、それまでずっと仕事に追われてしまうというのもね」

「ああ。確かにそうですね」


 と、苦笑する。


「そうであったな。国内外のそなたと懇意にしている者達から、そなたの誕生日について聞かれていてな。皆それに合わせてヴェルドガルを訪問したいと、打診してきている。そなたの仕事の合間を見て尋ねるつもりでいたのだが、予定はもう決まっておるのかな?」


 国内外か。誕生日なのに大分大変な事になっているような気がしないでもないが……。

 まあ、転移港で気軽にタームウィルズに来られるようになったからだな、多分。


「フォレスタニアで過ごす予定ですよ。ただその前に……転移港でガートナー伯爵領に顔を出してこようかと思っています」


 西方海洋諸国から無事に帰って来たし、これから魔界に向かうというのもあるので、母さんの所に顔を出しておきたいと思う。

 誕生日にみんなが来るというのならフォレスタニアの居城で迎える準備を進めつつ、前日にガートナー伯爵領へ行って一泊。それからみんなを出迎えられる時間に戻る、というのが良さそうだ。


「あい分かった。では、その旨も含めて返事をしておくとしよう」

「ありがとうございます。ああ。ガートナー伯爵領と言えば……僕達がグロウフォニカ王国を訪れていて不在の間のお話について聞きたいのですが、僕の異母兄であるダリルと、バハルザード王国のネシャート嬢については何かご存知でしょうか?」


 そう尋ねると、メルヴィン王は小さく笑う。


「まあ、確かに本人には聞きにくい事ではあるな」


 そうだな。グロウフォニカに出発する少し前、ダリルはバハルザード王国の令嬢ネシャートと仲良くなっていたようだ。それを父さんやファリード王も見ていたから、ダリル本人は無自覚ながらも結構周囲には注目されていたりするのである。

 だが俺達はグロウフォニカに向けて出発したという事もありその後の顛末については聞いていない。

 ネシャートと個人的な親交があるのはエルハーム姫であるが、そのエルハーム姫はファリード王に渡す刀鍛冶の仕事があったり、工房の仕事もあったので多忙だったらしいからな。


 ネシャートの方もペレスフォード学舎に留学し、まず生活基盤を整える事に注力していたそうで。エルハーム姫が会って話をした時は明るく笑ってタームウィルズの生活が楽しいと言っていたそうだが、詳しい近況は聞けていないとのことだ。


 ガートナー伯爵領に行けばダリルとも会うことになるだろうが、ネシャートとの仲に進展があったにせよ無かったにせよ、俺の立場で余計な気を回して変に意識させたりといった影響を与えるのもどうかと思うしな。父さん達のところに行く前に、多少は情報を集めておく必要があるだろう。


「具体的な縁談の進展という話はないが……シルン伯爵がタームウィルズには不在であったからな。同じく穀倉地帯という事でガートナー伯爵に頼み、農法に関する見学をしたとは聞いてはいる」

「少なくともネシャート嬢側からの印象は悪くはない、というところかな」


 と、メルヴィン王とジョサイア王子。

 なるほどな。表面上何かしらの話が動いているわけでは無いが、ダリルの印象が悪かったらそうした頼み事をするという事も無いだろうしな。知人としてか友人としてか。まあ、ダリルとネシャートとの関係は一先ず良好なのだろう。


「父より先にダリルと接点があったことを考えると、ダリルと約束をして父に口利きをした、という可能性もありますね」

「そうさな。ダリル=ガートナーについては……非凡ではないがよく勉強しているというのが受け答えの中で窺える。性格も実直そうだと中々に評判が良くてな。このまましっかり成長を重ねれば、将来はブロデリック侯爵家の当主のようになるのではないかと目されている」


 なるほど。評判というのは各国の王や国内の大貴族からという事になるが……。ダリルに言うと多分プレッシャーになるからここは伝えずにおこう。俺としてもダリルの事は個人的に応援しているし。

 総合すると堅実そう、という評価は決して悪いものではない。それが穀倉地帯の領主ともなれば尚更だ。


「彼は耳目を集める立場だが、かといって近付けばどうしても王家や境界公家から注目されるからね。腹に一物ある貴族はそこで二の足を踏む事になる。彼の身辺がきちんとした縁談によって固まるのなら、国内のそうした空気も落ち着いて安定するだろう。だからこそ父上や私も良好な進展の仕方をすることを望んでいる。今の所は静観しているが、ネシャート嬢やその関係者の人となりは悪くなさそうだね」


 ジョサイア王子が少し思案しながら真剣な表情で言う。まあ……そうだな。フォレスタニア境界公家とガートナー伯爵家は血縁関係で、関係も修復されているのを明言している。

 その上で執務に関わる面では一線をきちんと引いておく、というのもお互いに了解している事だ。


 周囲から見ればそうしたものを建前と考える者もいるだろうし、それ故に繋ぎを持ちたい、と考える者もいるだろう。そこで王家や俺の存在が抑止力になっているわけだが。

 いずれにせよ王家としてはダリルの将来に期待しているというのもあって、きちんとした縁談が纏まれば安心、というわけだ。


 因みにファリード王はと言えば「ネシャート嬢の人となりは信頼できるが、俺にはテオドールとの友誼もあるからな。当人達が縁談を望んでいるのでなければ、こちらから積極的に働きかける事はしない」との事で。エルハーム姫を通して俺に教えてくれた。


 その事を二人にも伝えると、静かに頷く。


「ファリード王も義理堅い御仁よな」

「そうですね。それだけに、いざ話が纏まれば、かなり強力に手助けしてくれそうではありますが」


 まあ、そういう事なら俺も何かしらの行動を起こすよりは、はっきりするまで静観しておいた方が良いな。

 誕生日にはファリード王もやってくるようだし、ダリルとネシャートもまた顔を合わせる機会があるだろう。

 何かしら進展があるかないかと周囲から注目されるだろうから、ダリルとしても中々大変そうだな。

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