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番外608 アルファの希望

「んー。そうなると、デュラハン達にも外套とか腕章とか、装飾品が必要になるかな」

「そうだね。精霊や妖怪だから本来は必要ないのかも知れないけど……。外を歩く時は身に付けた方が良いかな。揃いの装備だと分かりやすいからね」


 アルバートが嬉しそうに提案してきたので同意すると、マルレーンも一緒に嬉しそうに頷いていた。


 ラヴィーネやリンドブルム、コルリス、ヴィンクルにティールといった面々はスカーフや腕章にフォレスタニアの家紋を刺繍したものを身に付けている。所属を分かりやすくして街の外や迷宮等で不意に鉢合わせた冒険者や騎士、兵士達からの攻撃を避けるためだ。見た目が目立つなら尚更必要なものだろう。


 こうした装備品を付けさせるのは、使い魔を連れている魔術師ならそこそこやっている者もいるそうだ。

 一般的という程ではないのは、そもそも使い魔を連れている魔術師が全体から見れば希少であったり、使い魔を使い魔として悟らせないようにする必要があったり、といった事情があるからだ。


 偵察にも使える鳥の使い魔に目立つ色の装飾品を付けさせて普段からの知名度を上げていたのでは話にならない。まあ……カドケウスあたりは姿も変えられるし、ちょっとした隙間に潜伏できるから普段の黒猫の時に付けさせていても全く問題はないけれど。


 他にも費用面での問題であるとか、魔術師でも戦いを生業としていないので必要ないとか、使い魔が小動物系なので装備させなくとも問題ないとか……まあ、事情は色々だ。


 俺達の場合は隠す必要がなく、共に行動をしているので寧ろ喧伝する。マギアペンギンの保護という意味でもそうだ。


「ん。お揃いだと結束が高まる、気がする」


 シーラがそんな風に言うとデュラハン達も揃って頷く。そんなデュラハン達の反応がやけに微笑ましいというか。期待してくれているようなので、こちらとしてもしっかりとした装飾品を用意してあげよう。


「それもあるね。幸いタームウィルズやフォレスタニアだと、コルリスやティールに対してもみんな好意的だし。後に続く形なら受け入れられやすい下地も出来ているんじゃないかな」


 そんな話をしていると、アルファが俺を見ながら軽く一声吠えた。

 その内容は――翻訳の魔道具によれば、召喚魔法を利用すればシリウス号も魔界に持ち込めないか、というものであった。

 アルファは俺を真っ直ぐ見つめてきて。その提案が真剣な物であることが窺える。


「アルファは、俺達と一緒に戦いたいんだな」


 そう言うと、アルファはこくんと頷いた。そして唸り声と共にもう一度吠える。俺と共に戦い、皆の身を守れるのならどこにでも、と。翻訳の魔道具を通して、そんな意志が伝わってきた。


「分かった。手を考えよう」


 そう言うと、アルファは納得したというように頷いてから日当たりのいい場所を選んで身体を落ち着けていた。さっきの受け答えで、実現してくれるだろうと信頼してくれているわけか。なら、期待に応えないとな。


「つまり――魔界に入り、扉が開いている間に召喚魔法でアルファの本体であるシリウス号ごと召喚する、という方法になるでしょうか?」

「妾からは扉が開いている間ならそれも可能である、と言っておこう。勿論妾の許可があればの話だから、それを利用した懸念は抑えられる」


 エレナの言葉にパルテニアラが答える。それができるとなれば……。そうだな。だから、アルファと召喚魔法の契約をする事、召喚魔法の対象が飛行船の動力となっているアルファの魔石ではなく、シリウス号全体にきちんと作用するように魔法的な手順を整えてやる必要がある。


 召喚魔法に関して俺はそこまで造詣が深くなかったが……ライブラの解析や協力、ワグナー公の残した書物で色々と情報の蓄積や技術向上もできている。



 幸い召喚魔法は召喚対象の持ち物にも作用するので、シリウス号をアルファの持ち物や装備品であると、しっかり術式上で定義するのは難しい話ではない。実際シリウス号とアルファは同一のようなものなのだし、データがこれだけ揃っていれば実際の実験を行う前に迷宮核でシミュレートする事もできるだろう。


 アルファの提案は魔界探索においては心強い話でもある。移動もしやすくなるし、探索中に奇襲を受けたりしても生半可な攻撃ではびくともしない。月女神や高位精霊の加護を受けているので魔界の環境による変容に対しても強い。怪我人の収容、回収するべき物資。色々な面で、至れり尽くせりだ。


 後は……そうだな。これが実現すれば結果としてシリウス号の強化となる。召喚魔法で好きな場所にシリウス号を呼び出せるということになるからだ。きちんとメルヴィン王にも話を通しておいた方が良いだろう。




 王城に通信機で連絡を入れて用件を伝えた上でメルヴィン王との面会を申し込むと、昼食が済んだら午後の執務が始まる前に、王の塔のサロンで会おうということになった。


 早めに昼食を済ませて王城へと出かける。

 女官にタイミングを合わせて貰い、メルヴィン王の都合の良い時間になるまで練兵所や竜舎を見学しようと思っていたのだが、メルヴィン王はサロンでジョサイア王子とお茶を飲んでのんびりしている、とのことで。俺が登城したらすぐに通して構わないと通達してくれていたらしい。


「おお、テオドール。来たか」

「こんにちは、テオドール公」


 サロンに向かうとメルヴィン王とジョサイア王子はそう言って相好を崩し、俺を迎えてくれる。


「これはお二方とも。お忙しい所申し訳ありません」

「いや、構わぬよ。執務も工房の魔道具のお陰で捗っておるしな」


 と、笑うメルヴィン王。それは何よりですと一礼し、サロンの椅子に腰かける。

 というわけで通信機では話をしていない細かな部分も含めて伝えていく。マルレーンとデュラハン達とのやり取りから含めて、アルファも力になりたいと思ってくれている事を話すと、二人は納得したというように頷いた。


「なるほどな。シリウス号を召喚できるようにする、という事だったが……そういう経緯であったか」

「はい。目的は魔界探索の為ですから、それ以外の用途に召喚を用いる場合は、発動に際し、王家の承諾を頂く形にできればと考えていますが……如何でしょうか」


 そう尋ねるとメルヴィン王とジョサイア王子は思案しながら頷く。


「そこまで考えているのであれば余に否やは無い。となれば、何某かの作戦行動において、召喚発動に事前承諾を得ておけば、現場の判断で応用も利く上に、私的な濫用も防げるであろう」

「作戦行動以外で突然襲われた時に緊急時の護身の為等……幾つか例外的に事後通告でも構わない場合を想定しておいた方が良いかも知れないな」


 と、メルヴィン王とジョサイア王子はこちらの案に同意し、実用に即した提案までしてくれた。


「それは……助かります」

「ふふ。テオドールは何だかんだと王家を立ててくれるからな。こちらとしても色々と助かっているし、王として襟を正せるところがあるのだよ」

「それは……恐縮です」


 そう答えると、二人は笑みを深める。


「細かな部分は少し話し合って詰めるとしても……まあ、魔界での使用では必要な事であることは認めるし、運用するのがそなたであれば問題も起こるまい。先んじて魔界での使用に関しては全権を境界公に委任するものとする」

「ありがとうございます。信頼にお応えできるように努めます」


 そう言って一礼する。そうしてメルヴィン王、ジョサイア王子を交えて、魔界以外での使用について、色々と細かな部分を話し合い、想定される内容について取り決めをしていくのであった。

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