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番外522 船内演武

 深みの魚人族が住む海溝は、フォルガロ公国内とその主家に跨るように存在しているそうだ。

 フォルガロ公国自体もグロウフォニカ王国以西の海洋諸国において貿易の中継を成すような位置取りで、それ故にあちこちの国にちょっかいを出しに行きやすいような要衝を押さえている、とも言える。


 地図を見ながらそうした地理的な要素を調べたり、フォルガロ公国の歴史の話を聞きながらシリウス号を進めていく。

 海底を進んでいるが水魔法のフィールドを纏って、速度はそれなりのものを維持している。情報操作はしているが、今回は早く到着して迅速に動くに越したことはないからだ。


「かつての主家と今のフォルガロ公国の関係はどうなのですか?」

「フォルガロとの仲は良くはない、と聞いたことがあるわね」


 グレイスがティーカップにお茶を注ぎながら首を傾げると、ローズマリーが羽扇の向こうで目を閉じてそう答える。


「あの国はフォルガロとは逆を行くように、今の西方諸国と積極的に歩調を合わせようとする傾向があります。かつての主家であるという矜持もあるのでしょうな。しかしフォルガロの隆盛と共に、こちらの国は衰退しております。フォルガロとの不仲や力を削がれている分、グロウフォニカ王国や他の国々を立ててくれるところはありますな」

「フォルガロが……偽装海賊や工作活動で国力を削いでいった可能性はありますね」

「独立前のフォルガロにとっては、グロウフォニカ王国以上に邪魔に思う存在ではあったでしょうからね」


 バルフォア侯爵の言葉に、アシュレイとステファニアが眉根を寄せて、そんな風に言った。


「あちこちにちょっかいを出して国力を高め、かつての主家を衰退させたその次はグロウフォニカ王国を標的に、というわけね」

「ん。裏でやっていた事を知った後だと分かりやすい」


 クラウディアは目を閉じてかぶりを振るとシーラがそう言って、マルレーンも真剣な顔でこくこくと頷いていた。


「武力で独立を認めさせたって話だものね。その時も結構無茶な事を言ったんじゃないかしら」

「主家にしてみたら裏切られた気分だろうし、独立した時に持っていかれた分も大打撃だっただろうしで……嫌うなって言うのが無理な話だろうな」


 イルムヒルトの言葉に俺も同意する。


「けれど、そうなるとフォルガロに対しては、かつての主家もこちらに協力してくれそうではありますね」


 と、エレナ。そうだな。それは確かに。フォルガロの今の隆盛が不当な行いによる蓄財の結果であったと分かれば、独立の正当性も揺らぐ。

 そこでの懸念は……やはり解放された深みの魚人族の動向であるとか、フォルガロの民衆への影響だろうか。

 フォルガロの首脳陣についてははっきり言えば自業自得だが、裏の事情を知らない者や民衆については、思いもよらない事でとばっちりだろうからな。


 それらについては西方諸国の自治という面もあるので、あまり部外者である俺達が突っ込んだ口出しをできる事でもないが、気にかけておくべき事柄なのは間違いない。デメトリオ王がいるから安心できるところはあるが。


 そうした話も一段落したところで、現在位置と方位を確認。問題が無いのを確かめてから一旦操船をアルファに任せ、艦橋から席を外させてもらう。


「ちょっとみんなの訓練の様子を見てくるよ」

「分かりました」


 と、言葉を交わし、向かった先は飛竜達のいる船内設備だ。海底を進んでいるために甲板での訓練はできないが、あの設備なら現在乗せている飛竜の数も少なめだからスペースに結構余裕がある。空中戦装備に慣れるための初期訓練をするには手頃な場所、というわけだ。


「ああ。これは境界公」


 顔を出すと、エステバン達がこちらを見て笑みを浮かべる。グロウフォニカの精鋭部隊達だけでなく、ブロウスとオルシーヴ、ウェルテスとエッケルスも一緒だ。

 空中戦装備の使い方については彼らの中ではウェルテスとエッケルスが一日の長がある。海上、水中での戦いも視野に入るので互いの信用を深める意味合いも兼ねて、基本を伝えた後にはウェルテス、エッケルスも訓練に参加してもらっていたわけだが。


「どうですか? 空中戦装備は慣れましたか?」

「まだ少々ぎこちないところはありますが、空中を走ったり、落下しそうになった時に身体を咄嗟に支えたりというのはできるようになりましたよ。竜騎士としては実に心強いものです」

「レビテーションもあるので足場を作るのが間に合わずとも、落下で怪我をする心配もありませんしな。しかしこうした魔道具は、やはり我々騎士よりも魔術の心得のある者の方が一日の長がありますな」

「魔力配分や魔道具の発動については、確かにそうかも知れません。しかし私達は体術が今一つですからね」


 と、エステバンとマルセロがそう言うと、諜報機関の女性や魔術師はそんな風に答えて苦笑していた。


「ウェルテス殿とエッケルス殿のお話や実演も、とても参考になります。かなり充実していますよ」


 ブロウスがそんな風に教えてくれて、一同頷きながらウェルテス達ににこやかな笑みを向けたりしていた。


「我らから見れば、皆上達が早いと感じます」

「流石に、精鋭を集めたというだけはある」


 と、ウェルテス達もそんな風に答える。エステバン達は汗をかいてしっかり訓練を積んでいたようだ。真剣ではあるのだろうが、水晶板モニターで見ていた時は笑い合ったり割合和やかな雰囲気もあって。グロウフォニカの面々は魚人族に慣れているからか、打ち解けるのも早いようだな。訓練を通して互いに信頼感を深めたりできているようで何よりだが。


「そう言えば……テオドール公はこうした魔道具を使わずに、全て自力の術式で空中戦ができるとお聞きしたのですが」

「ああ。それは気になりますな」


 魔術師が言うと、エステバンも同意するように言った。ウェルテスとエッケルスがにやりと笑い、他の面々も期待感を込めたような眼差しをこちらに向けてくる。

 んん……。空中戦用の基本装備に使われている術式で、どんな動きができるか見せておく、というのも士気向上に繋がる、だろうか?


「そうですね。空中戦装備を使った参考になるのであれば」


 頷くと、彼らは顔を見合わせて笑顔になっていた。やはり、そうした体術、武術というのは彼らにとって興味のある事柄のようで。


「では――」


 アクアゴーレムに演武に付き合ってもらうか。指を鳴らしてゴーレム達を作成。空中に配置。

 みんなが少し遠巻きになって見守る中、レビテーション、シールド、エアブラストを使っての動きの実演を始める事にした。


 目を閉じて一呼吸置く。ゴーレムが水弾を放つ構えを見せると同時に、レビテーションとエアブラストを並列発動。加速しながら一気に中空に跳び上がる。

 こちらに向かって放たれる水弾を、身体をねじるように横回転で避けながら、ウロボロスを振り抜いて突撃したゴーレムの頭を砕く。


 タイミングを合わせるように、横合いから水の槍を上段から振り抜いてくるゴーレムの攻撃。シールドを蹴って斜め下方に跳んで、レビテーションで慣性を殺して今度は身体を小さくしながら縦回転。シールドを展開してそこから反射するように飛ぶ。攻撃を仕掛けてきたゴーレムの背中側から一撃を叩き込む。


 即座にこちらを追う偏差射撃の弾幕の中へ飛び込む。ウロボロスで命中する軌道のものだけ弾き散らして最短距離を突っ切り、ゴーレムの一団に切り込んでは鋭角の反射移動とレビテーション、エアブラストの発動のみで加減速を行いながら、すれ違いざまの打撃を繰り返せば――中空に浮かんでいたゴーレム達が通り過ぎた俺の背後で木端微塵に散った。


「なん、という……」


 着地してもエステバン達は少しの間呆然としていたが、ウェルテスとエッケルスが拍手をすると、みんなで歓声と拍手を送ってくれた。飛竜達まで首をもたげて目を丸くしていたが、拍手に合わせるように楽しそうに声を上げたりしている。


「これはまた……。凄まじい程の研鑽と言いますか……」

「空中に足場を作れる、ではなく。好きな空間を足場にして縦横に動いているという印象でしたな……」

「今のは空中戦装備の基本となる三種類の術式と、体術の併用によるものですね。魔道具だと術式より応用が利かない部分もありますが、できるだけ魔道具だけでもできるような動きを心掛けたつもりです。ゴーレム達の攻撃回避については……僕自身で制御しているので約束組手のようなものですが」


 だがまあ、魔道具と体術の併用に関してはシーラ達も同じような動きができるだろう。後でみんなにも演武してもらえば、訓練に対する更なる士気向上に繋がるのではないだろうか。

 まだ驚いたような表情ではあったが、エステバン達やブロウス達にとっていい刺激になったようで。みんなに関する話を伝えると顔を見合わせ、やる気に満ちた表情で彼らは頷き合うのであった。

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