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番外518 魔道具実演

 梱包した連中はグロウフォニカ側に引き渡し、必要な物を持ってみんなで馬車に乗る。そうして王都に架かる橋を渡り、グロウフォニカの造船所へと向かう。

 騎士達に連れられ、施設内の港へ入るとそこにはデメトリオ王とその側近らしき面々、そして西方海洋諸国の大使達といった顔ぶれが揃っていた。


 当然ながら、この場にフォルガロ公国の大使は姿を見せていない。

 デメトリオ王はその辺、色々手を回すようにしたらしい。個別に声をかけ、口外無用としつつも秘密裡に造船所まで足を運んで貰えるように、王城から馬車まで出したり……といった具合だろう。


「これは……お待たせしてしまったでしょうか?」

「いや、刻限通りだ。待っていたぞ、テオドール公、バルフォア侯爵」


 デメトリオ王が言うと、各国の大使達の表情に驚きの色が混じる。


「フォレスタニア境界公……!」

「ヴェルドガル王国の英雄殿、ですか。グロウフォニカ王国を訪問中とは聞きましたが……」

「この御仁が、彼の大魔術師……。バルフォア侯爵とは外戚とお伺いしましたが」


 そうした各国の大使達の反応は、何故デメトリオ王が俺をここに呼ぶのか、という訝しさも含めてのものだろう。グロウフォニカを含めた西方海洋諸国全体の均衡に影響を及ぼし兼ねないものだ。自然、大使達の表情にも緊迫感が増す。

 一方でデメトリオ王の側近達はある程度の話も聞いているのか、割と落ち着いたものだった。


「お初にお目にかかります。テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」


 と、俺からも大使達に一礼すると、彼らも緊張しながらも一礼を返してくれた。


「うむ。まずは互いの紹介といくか」


 デメトリオ王が静かに笑う。

 こちらの面々、バルフォア侯爵、それから側近達。そして相手方の面々――各国の大使達をお互いに紹介してもらう。


「――うむ。では、話を戻そうか」


 一通りの紹介が終わったところで、デメトリオ王がそう言って周囲を見回し、話を先に進める。


「西方海洋諸国の結束と各国の安寧を守るための重要なお話、とお伺いしましたが」

「その通りだ。まず皆が不安に思っている事をはっきりとさせておくが、この一件においてヴェルドガル王国や彼の国を中心とした同盟が、我らに何かの働きかけをしているというわけではない」

「テオドール公は……火の粉を被った立ち位置と言えましょう」


 バルフォア侯爵が静かに言うと、デメトリオ王も首肯する。それだけでは情報不足なのは分かっている。俺からも軽く一礼して発言させてもらう。


「僕としても――西方の現在の平穏と発展を喜ばしく思っております。ヴェルドガル王家や同盟の立場としては良い関係を維持できることを望んでおりますが、西方の国々の関係性や足並みを乱す事は望んでおりません」


 と、こちらの立場は明確にしておく。但し、という一文がつくが、そこはデメトリオ王が言葉を引き継いでくれた。


「とは言ったものの、先日のような出来事があってはそうも言っていられないのが現実でな。だからこそ、そなた達に集まってもらったわけだが……。まあ、まずは言葉を重ねるよりも、実際に見てもらった方が早い」


 デメトリオ王は視線を停泊させてあった船に向ける。施設内の造船所に停泊させてある船は以前見学に来た時のような新造艦ではなく、一般的なもので、船体も隠密船と大体同じぐらいのものだ。実演用にこうして丁度良い大きさの船を持ってきてくれたというわけである。


「では、早速始めたいと思います」

「うむ」


 というわけでステルス船用の魔道具を取り出す。台座にはまった水晶球のような物体だ。


「それは一体……?」

「先日、旅行先で不審船の乗組員と遭遇しました。これは向こうにとっても不測の事態であったようで……こちらの人員を人質に取ろうとしたので交戦状態となり、これを撃退。捕縛しました。これは連中の船に実際に搭載され、運用されていた魔道具です。どのようなものかは――これからお見せします。その場にて、少しお待ちを」


 そう言ってみんなが見ている前で停泊させてある船に乗り込む。

 船長室の下部に相当する場所まで移動し、魔道具を起動させる……と黒いフィールドが魔道具から船体を覆うように広がっていった。


 甲板まで戻ると、船を見たまま大使達が驚愕の表情を浮かべているのが見える。

 フィールド内部にいる俺の姿は、やはり見えていない。最初のフィールド展開で範囲内に入っていなかったものは後からフィールド内部に入っても効果はない、というのが中々良くできた部分ではあると思う。


「とまあ、先程の魔道具にはこうした効果があるわけです」


 と、レビテーションを使って効果範囲外に出て声をかけると、みんなの視線が集まった。


「つまり……船や乗組員の姿を消す事ができる、と?」

「そうです。姿を消したままでも甲板上から外の様子は見えますし、船が移動しても魔道具側が海面部分を補正するので、外からは一見しても不自然なところがないように映ります。加えて生命感知等の魔法的な探知は遮断する、と……色々な事に対策を巡らせた魔道具であることが窺えます。見えなくても触れる事はできますので触ってみてください」


 そう言うと、大使達は恐る恐るといった様子で不可視になったタラップ部分に手を伸ばし――そして透明の物体を掴んで目を見開く。


「これは……何という……」

「この船に乗っていた者は……いきなり人質を取りに出た、と仰いましたな……?」

「そうです。仮に諜報活動や海賊行為等々に使われれば……いえ、実際に使われているとするなら脅威でしょう」

「その者達は既に我が国に引き渡しが済んでおりますので、魔法審問等々も交えて黒幕についての取り調べを受ける事になるかと」


 バルフォア侯爵と共にそう答えると、大使達は顔を見合わせる。この場にフォルガロの大使がいない事には気付いているだろう。こちらは明言をしていないが、大使達の疑念は当然フォルガロに向かうわけだ。或いは……こちらの言動の信憑性を疑う、という事も有るかも知れないが。


「先程も申しましたが、ヴェルドガル王国と同盟は西方の安定を歓迎していますし、良い関係の維持を望んでいます。ですから各国の関係への干渉はあまり望むところではないのですが……こうした性質を持つ隠密船が暗躍しているかも知れない、という現状は相互の不信を招き、将来的な安定を脅かしかねません。積極的に周知し、解決するべき事案と判断したためにこうしてお話をしています」

「故にこの魔道具の存在を知らせると共に、性質や弱点の暴露と対策も同時に考え、それを広めてしまえばそうした事態を防げるものと、余らも判断したわけだ」


 デメトリオ王が言うと、大使達も恐々としながらも納得したように頷いた。


「な、なるほど……。確かに黒幕が分からなければ、疑心暗鬼にもなりますな……」

「では……こうしてお話をなさったということは……弱点や対策がある、と?」

「はい。それをお話していこうかと思います」


 そう前置きして、話を続けていく。


「まず性質的なお話になりますが……この魔道具は起動時と停止時に最初に見たような、大きな黒い影を発生させてしまいます。魔道具を調べて解析した結果としては……魔力補給時に魔道具の解除が必要になるのだろうと予想されます。ですから……この船が暗躍している海域では、多かれ少なかれ黒い影の目撃情報があるでしょう。実際、ガルニカ伯爵領にてそうした報告があったと聞き及んでおります」

「それは――本国に知らせねばなりませんな」


 という、大使の言葉に頷き、術式の性質について更に話をしていく。


「魔法的な話を詳しくするのは何ですが、術式の展開時とその最中、周囲の情報を拾い続けているわけですね。船の移動に合わせて景色を変えなければなりませんから。ですが――その性質そのものが弱点になるわけです。というわけで、敵方の術式の性質を利用し、対抗術を組みました」

「対抗術……」

「境界公に関するお話は色々伺っておりますが……電光石火とはこの事ですな」


 と、大使達も話に興味を持っているようだ。手回しの良さを疑われるのではないかと思っていたが、魔人と戦っていた時の話が色々後押ししてくれているようだ。或いは内心では疑っているが口には出さずにいるか。


 いずれにしてもやる事は変わりない。アルバートの作ってくれた実演用魔道具を取り出す。杖のような形状の二つ一組の魔道具で、起動させると互いの間に結界線を展開するという代物だ。結界線といっても、アンテナから広がる電波がアンテナに向かって集束するように途中で広がるので結構な厚みがあったりするが。


「ん。片方は任された」

「よろしく」


 片方を助手役としてシーラが持ってくれた。もう片方を持って消えている船の向こうに回り込み、魔道具を起動させる。


「この魔道具の間に、結界線を構築するようなもの、とお考えください。これで隠密船の展開している術式に干渉、偽情報を与える事でその姿を見えるようにする、という理屈です。では――行きます」


 船首から船尾に向かって、結界線を構築しながらゆっくりと移動する。結界線に触れた隠密船が――空間を陽炎のように揺らがせながらはっきりと姿を現す。船内に置いた魔道具が干渉を受けて強制的にその機能を解除させられた。


「おお……。これは……」


 大使達の歓声が重なる。


「とまあ……こうなるわけです。押収した魔道具は証拠物件なので、結界線から離れて再度魔道具を起動させれば使える状態ですが……実際の対抗用魔道具を使う際は、一度結界線に触れたら以後この隠密用魔道具は役立たずになるように術式を組んでおります。実際の挙動は――このようなものです」


 と、幻術を使ってどうなるかを再現して見せ、説明をすると、それを見た大使達から苦笑というか乾いたような笑いが漏れる。これとは別にもう少し応用を利かせた特別仕様版もあるが……まあ、それについてはここで説明はしなくても良いだろう。


「な、なるほど……。どうなるかは良く分かりました。それを以って術式を過去のものとし、我らが不和を起こさないように、と?」

「こちらの考えとしてはそうなります。魔道具については数を用意しましたので無償でお渡しします。魔道具の間で結界線を構築するため、海路の要衝に仕掛けたり、巡察を行う数隻の船の間に結界線を構築したり、といった運用方法ができるはずです。仮に信憑性を疑っておいでであっても黒幕以外には痛手のない話ですし、真実が明るみになれば西方とヴェルドガル王国――ひいては同盟と良い関係を築いて行けるもの、と考えております。魔道具は――そのための投資となると思えば安いものでしょう」


 独自に調べて貰っても一向に構わないというスタンスだ。そこまで言うと、大使達もこちらの言いたい事を理解したのか、やや驚きながらも頷いていた。

 重要なのは何を差し置いても敵方のステルス船を無効にすることだ。以後の被害や相互不信を防ぐとともに、調査と共に実情が明らかになれば、今は仮に疑われていたとしても最終的な信用に繋がるからな。

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