番外517 グロウフォニカ王都への帰路
「また遊びに来てね」
「ああ。また。転移門が作れる状況になったら、タームウィルズにも遊びに来てくれると嬉しいよ」
「ええっ。今度は遊びにいくわ」
と、ネレイドの里の入り口までネレイド達とパラソルオクト達が見送りに来てくれる。
ネレイドの里にまた訪問できるよう月女神の祭壇を設置したり、相互転移可能な準備は整えつつも、里を後にすることになった。
モルガンやカティア、ドルシアの娘と共に捜索に出ていたネレイド達とソロンは、この後も俺達と行動を共にする。パラソルオクト達も魔法を使えるので、里側の防衛戦力は十分にあるそうで。
「ネレイド族の友誼と信義、我らは忘れない」
「瞳が今日まで隠されてきたのも、ネレイド族が信義に厚かったお陰だろう。再会を楽しみにしている」
と、ブロウスとオルシーヴもネレイド達と挨拶を交わし、丁寧にお辞儀をしていた。ネレイドやパラソルオクト達にもブロウス達の律儀な性格は伝わるのか、笑顔で握手を交わす。
そうして……里の皆に手を振って見送られつつ、俺達はシリウス号に乗って出発したのであった。
「――そうして……ネレイドの里ではサンダリオ卿から、当時の記憶を見せてもらいました」
『……深みの魚人族と共に戦って、託された、か。戦友であり、命の恩人達からの頼みとあれば……瞳を封印した理由も頷ける』
グロウフォニカ王都へと戻る道中、デメトリオ王に諸々の報告を行う。
デメトリオ王は俺の話に静かに耳を傾けていたが、話が終わると何かを感じ入るように遠いところに目をやっていた。
「そうですな。サンダリオ卿にとっては4人の魚人族がいなければ、あの場で命を落としていた、かも知れません」
バルフォア侯爵も同意する。
或いは……瞳の力を行使する場面を見なければ堂々と斬り込まずに引っ掻きまわして撤退する算段だったのかも知れないが……。いずれにしても単身での囮役を引き受けた時点で決死の覚悟であったのも事実だろう。
だが、そうした覚悟がある事と、命を救われた事は別の話だ。
魚人達の思惑がどうであれ、サンダリオにとっては託された以上は裏切れない相手になったのだろう。だからこそ当時の政情や敵が偽装海賊であった事、魚人族と瞳の特性といったものを……諸々考えた結果として、自身も公には死んだものとしてまで、決して瞳が世に出ない方法を選んだ。
暫くデメトリオ王は当時の出来事に想いを巡らせていたようだが、やがて水晶板越しにこちらを見て頷く。俺とバルフォア侯爵も頷いて他に伝えるべき内容の話をしていく。隠密船の対抗魔道具については色々と話をしておくべきだろう。
解析が済んだのでその特性や対抗の方法について話をしつつ、今は術式の書付や確認作業をしている事をデメトリオ王に伝えていく。
「各国の大使に実演するための対抗魔道具と、実際に運用する際の対抗魔道具では効果を少し分けようと考えています」
『実演用で恒久的な効果を隠密用の魔道具に残してしまっては、証拠物が無くなってしまうから、というわけか』
そうだな。実演用の魔道具では呪法による追加効果は発動しない。あくまで偽装フィールドを解除するだけだ。その旨も実演の時に話をすればいいだろう。可能であれば、西方海洋諸国にもヴェルドガルや同盟のスタンスを伝えて、警戒も解いておきたいとも思う。フォルガロからの圧力が無くなれば、グロウフォニカも他の海洋諸国も、ヴェルドガルやシルヴァトリアといった国々との交流を遠慮しなくとも良くなるだろう。
『承知した。では、到着予定の日時を合わせつつ、諸国の大使らに話を通しておく』
「はい。ではまた王都にて」
『ああ。道中の無事を祈っている』
「ありがとうございます」
と、バルフォア侯爵共々頭を下げて、デメトリオ王との通信は一旦終わった。というわけで俺達が王都に戻る頃にはデメトリオ王が諸々手回しして待ってくれているだろう。
「術式に関しては問題ありません。この方式で大丈夫だと思います」
通信が終わった頃合いを見計らって、エレナがそう言うとアルバートも笑顔で頷いた。
「それじゃあ、早速作業に移るよ」
「ありがとう、アル。こっちが実演用、こっちが完成品だね。完成版は丸印がついてる」
「了解」
術式を書きつけた紙を受け取るとアルバートは笑みを浮かべて頷き、船内の設備を使うために艦橋を出ていく。アルバートの助手役としてティアーズ達がそれに続く。
「アルの小腹が空いた時の為に、何か作っておいて差し上げたいですわ」
オフィーリアがそう言って厨房へ向かおうとすると「手伝います」とアシュレイやマルレーンもそれに続く。アルクスも自分は戦闘には出られないが何か手伝いをしたい、とアシュレイ達についていった。うむ。
「それなら……私もヘルフリートに何か作ってあげたいな」
「では、私もお手伝いします。みんなで何か作りましょうか」
そうしてカティアもグレイス達と共に船の厨房へと向かう。ヘルフリート王子はと言えばネレイド達からの微笑ましそうな視線を受けて、少し顔を赤らめて頬を掻いていた。
そうして――グレイス達は暫くしてからアイスクリームを作って持ってきてくれた。
アルバートのところにはオフィーリアが持って行ったそうだが……魔法技師の作業の合間に冷たいものというのは、いいリフレッシュになるのではないだろうか。
「冷たくておいしいね」
「うん。アイス、好き」
と、カルセドネとシトリアもアイスクリームを口にしてご満悦といった様子だ。ネレイド達やブロウス達もアイスクリームを口にして驚いたような顔をしていた。
そうして――シリウス号は和やかな雰囲気の中、青い海の上をグロウフォニカ王都目指して飛行するのであった。
王都までは割とゆったりとした速度での航行となった。
これは別に急いでいなかったというわけではなく、俺達には魔道具を用意する時間が、デメトリオ王には西方海洋諸国の面々に根回しをする時間が、それぞれ必要だったからだ。
そのための時間を見積もって到着日時を決め、航行速度をそれに合わせた、というわけである。シリウス号で3泊程の時間を置いての航行となったが……ゆっくりとした速度で進んでいる分、甲板に出て戦闘訓練等も行えたから充実した時間になったと思う。
特に――アルクスはかなりモチベーションが高い。
「サンダリオ卿の生き方は、門の番人としても騎士としても、私には眩しく映ります。ネレイド族や深みの魚人族に信頼を得られるのと同じような。そんな門番でいられたら嬉しく思うのです」
と、異種族の橋渡しという役割を担うアルクスにとっても、模範とすべきものと映ったようで。アピラシアの兵隊蜂と共に空中機動の模擬戦闘や連係の動き等をみっちりとこなしていた。
……そうだな。世間を学べたらということでアルクスにも一緒に来て貰ったけれど、サンダリオの事を知れたというのは、アルクスにとっては大きな収穫だったのかも知れない。
当然、アルバートもアルバートできっちり仕事をこなしてくれた。
「いやぁ、何だか久々にきっちり働いた気分だね」
と、笑っているアルバートである。
「お疲れ様。検証してみたけど魔道具はきっちり動作したし、後の実演は任せてゆっくり休んでもらえると嬉しい」
「ん。了解。それじゃあまだ日も高いけど、少しだけ仮眠を取らせてもらおうかな」
アルバートは小さく欠伸をしながらオフィーリアと共に船室へと向かった。
実演用と配備用、両方の魔道具をしっかり魔石に刻んで作ってくれたからな。色々と頭が下がるが。
流石にアルバート1人で西方海洋諸国各国が配備するための魔道具全てを用意するというのも厳しいものがあったので、術式を送って七家の長老の力も借りたりしている。
お祖父さん達も魔道具の準備はできているということで……グロウフォニカ王都に到着したらシリウス号からの転移魔法でそれらの品々を受け取ってくるとしよう。
そうして――そんなやり取りを交わしつつシリウス号は進んでいく。やがて海の向こうにグロウフォニカ王都が見えてくるのであった。
「――ではな。あまり時間はないようじゃから手短に済ますが、くれぐれも気を付けるのじゃぞ」
「ありがとうございます、お祖父さん」
グロウフォニカ王都の公館にシリウス号を停泊させ、タームウィルズへ魔道具を受け取りに行くと、お祖父さん達七家の長老勢揃いで待っていてくれた。再会すると長老達から笑顔でハグされて、というのは毎回恒例だろうか。時間があれば旅先の話なども弾むところなのだろうが、今回はデメトリオ王を待たせているのであまりゆっくりもしていられない。
魔道具を受け取りそうしてクラウディアと共にシリウス号に転移して戻るという些か慌ただしい再会になってしまったが、それでも長老達は笑顔で見送ってくれた。こちらも笑顔で手を振って――。
「では、飛ぶわ」
クラウディアの言葉と共に転移魔法の光に包まれ――それが薄れると、シリウス号に戻ってきていた。
魔道具を持ってみんなで甲板に出ると、公館に王城からの迎えも来ていた。迎えに来てくれたのは顔見知りの騎士達だ。造船研究所の方にデメトリオ王が人を集めているということなので、そちらに直接向かうことになるだろう。というわけでまずは魔道具の実演だな。フォルガロを追い込むための第一歩だ。きっちりこなしてこよう。




