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番外516 境界公の対抗術式

 集会所には陸の民が滞在した時のために浴槽もあって、シリウス号の風呂も使いつつ、みんな交代で順番に入浴させてもらった。

 集会所で割り当てられた寝室はどうかと言えば、こちらも中々のものだ。部屋の照明も小さな貝殻の中に光源を仕込んだりして、中々幻想的な雰囲気があるというか。


 ネレイド族の寝床は近隣の海底で捕獲した海綿動物から魔法により形成、加工したもので……要するに天然のスポンジを水蜘蛛の織物で包んだマットレスを敷いているらしい。


 そうしたマットレスを数枚並べて広々とした部屋の床に敷き詰め、多人数でも眠れるように準備を整えてくれたというわけだ。

 寝心地はと言えば……底付き感を感じさせない適度な弾力があって、水蜘蛛の織物のさらさらとした質感と相まって、中々に良いものである。ネレイド達はふわふわしていてよく眠れると言っていたが、それは水中で寝床として使った場合の感想だろうな。


「んー」


 と、シーラがごろごろと転がると、それを見たマルレーンやイルムヒルトも楽しそうにごろごろと転がったりして。

 小さく笑ったグレイスとアシュレイ、マルレーンの様子を微笑ましそうに見ていたクラウディアも、同じように俺のところまで転がってくる。3人も俺のところまでくるとはにかんだように笑い、そうするとシーラ達も俺のところまで転がってきたりして、胸の上に顔を乗せられたり、腕にそっと抱きつかれたりしてしまった。風呂上がりのほのかな香りが鼻孔をくすぐる。


「わ、わたくしはしないわよ?」

「あら? 結構楽しいのよ」


 ローズマリーが言うが、悪戯っぽく笑うステファニアとマルレーンが転がっていって抱きついたりして。くすぐり合ったりしてはしゃぐ姉と妹に堪らず、こちらに逃げてきたりして、顔を上げた先に俺の顔があって頬を赤らめたりしていた。それを見てくすくすと笑うアシュレイ達。


 そうして俺も交えてくすぐりあったりじゃれたりして、みんなでふざけ合っていたが、ふとした時に沈黙が落ちる。


「何と言いますか……海底だからか静かですね」

「うん……。グランティオス王国もそうだったけど、落ち着くかも知れない」


 呟くように言ったグレイスの言葉に、巻貝屋敷の白く光沢のある天井を見ながら答える。

 みんなでそっと寄り添う、穏やかな時間。サンダリオの記憶を見たからか、みんなもあまり表に出さないけれど、少し感傷的な気分になっているのかも知れない。誰からともなく手を繋いで。そうして循環錬気で温かな感覚に満たされていく。


 ネレイドの里での夫婦水入らずの夜は、そんな風にして、ゆっくりと静かに過ぎていくのであった。




 そうして……一夜が明けて。みんなで朝食を取った後、今後の方針について確認する。


「グロウフォニカ王国王都に戻り、まずは対抗魔道具の作成と隠密船の周知、ということになるかなと」

「フォルガロ公国を除いた各国の大使に件の魔道具を実演し、対抗魔道具を配布する、というわけですな」


 そうだな。不審船の出自については調査中としてはっきりと断言する事は濁しつつ、フォルガロ公国の仕業だと言外に示したり、対抗術式の魔道具を西方海洋諸国政情安定の名目として配る事でグロウフォニカは潔白だと示すわけだ。

 術式の開発費、隠密船の建造費がどれほどかかったかは分からないが、フォルガロ公国独自技術な上に外には出せない物なので、台無しにしたところでグロウフォニカは勿論、他の海洋諸国にも痛手は全くないからな。


「対抗術式の魔道具については、どうなのかな?」

「んー。テオ君はもう解析は済んでるって言ってたけど」


 ヘルフリート王子が首を傾げると、アルバートがそう言って俺を見てくる。


「ああ。最初に展開するフィールドで周囲の情報を読み取って、その場に何もないように幻影を構築するっていう仕組みだね。認識を阻害しながら生命感知や内部の魔力を外に漏らさないよう遮断する効果があって魔法的な感知に対しては強い。最初の読み取りでフィールド内部の者はお互いの姿が見えるし、普通に外の様子も見える、と。実際に使ってみるとこんな感じ」


 と、ウロボロスとウィズの力も借りて解析した結果を皆に知らせつつ、敵のステルス術式の再現ということで、テーブルの上にあったティーカップを黒いフィールドで覆って消して見せると、みんなからおお、と声が上がった。

 指を鳴らして術を解除すると、展開していた黒いフィールドが再び現れて集束していき、ティーカップが現れる。


 解析と再現は……まあ問題なくできたわけだ。その上で対抗策について更に説明していく。


「割とよくできてはいるけど……弱点がある。フィールドを展開して常時読み取りをしているから、こっちの展開する専用のアンチフィールドに、向こうの展開しているフィールドが触れた瞬間、偽情報を流し込める余地があるんだ。それなりに高度な術式だから魔石にも余裕を持たせてるみたいだからね。そこで……エレナに相談があるんだけど」

「何でしょうか?」


 俺の言葉に、エレナが居住まいを正しながらも楽しそうに答える。


「うん。この方式だと、アンチフィールドに触れていない時は向こうの魔道具が正常に作動してしまうから……偽情報を流し込んだ時に、こっちの術に一度触れただけでその後も継続的に機能不全に陥るようにしたい。呪法を利用して向こうの魔道具に術式を焼き付けようと考えてるんだ。呪法はまだ不慣れなところがあるから、組んだ術式を見て貰って、参考意見を聞きたい」


 と言うと、エレナは目を丸くする。


「もうそんな高度な呪法まで組めるとは……驚きです」

「今までの魔法知識から応用が利くところがあるし、向こうが周囲の情報を読み取っている以上は根本的なところで脆弱性があるから……折角だし活用させてもらおうかなってね。繋がりがあるものに対して呪法でこういう事ができるっていうのは前の戦いで学ばせてもらったし、ウィズの試算でも術式の規模を節約しつつ必要な機能を盛り込む事は出来そうだから」


 敵のコンピューターにウイルスを流し込むようなものだ。解析したところステルス船の魔道具はそうした対抗術を想定していない。ワクチンソフトがないのなら好き放題やってしまおうというわけである。


 こちらは呪詛返しも想定しているが、そもそも同様の系統の術式を使っていないので返されても何の支障もない。念のために身代わりの物品を用意してそちらに向かうようにしておけば対策は万全だろう。

 ステルス船に同船していると思われる深みの魚人族に関しては……更に呪法を利用した保険を用意しておきたいと思う。こちらはウィズの能力も用いてシミュレートしておこう。


「何と言いますか……非常に高度な事をなさっているというのは分かります」

「船の魔道具を入手して一日二日でここまでとは……」


 と、バルフォア侯爵とモルガンが目を丸くしていた。

 刻まれた術式の全体像はオリハルコンで読み取ればすぐだし、後はウィズに記憶してもらって分析と実証に時間を使えると言うわけだ。

 術式から推測される魔力の動きと実際の動作から仮説を立てればいいのだから、まあ、そこまで難しい作業ではない。


 常時読み取り型の術式では一部の術式に対して弱点をさらけ出しているようなものだから、俺は使わないとは思うけれど。


「というわけで、王都に戻るまでに術式を書きつけておくよ。アルにはまた、少し手間をかけてしまうけれど」

「構わないよ。フォルガロ公国のやり方は僕も気に入らないし、サンダリオ卿の記憶を見た以上は力になれる事が嬉しい」

「ふふ。応援していますわ」


 と、オフィーリアもにこにこと笑ってそういって、アルバートも晴れやかな表情で頷くのであった。

 では……みんなと共に王都に戻り、諸々動いていくとしよう。

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