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番外515 海底交流会

「我らの祖先やサンダリオ卿の事は……皆にも伝えなければならないな」

「瞳の在り方も含めて、きっと皆の心にも届くものがあるだろう」


 ブロウスとオルシーヴは先程見た幻影に色々と思うところがあるのか、墓所から集会所へと戻る途中でそんな言葉を交わし合っていた。


「少し……昔の事を思い出しました」

「私も――恩師の事を」


 アシュレイとエレナがそう言って目を閉じる。グレイスもそうだし、マルレーンもそうだ。シーラもクラウディアも、親しい人から想いを託された。

 イルムヒルトはみんなの願いを込めて迷宮から月神殿に預けられたし、ローズマリーやステファニアも、王族に生まれた者としてサンダリオや魚人達の行いには感じ入るものがあるようだ。


「そうだね。戦いを無駄にはしたくないっていう……あの気持ちは分かるよ」


 その言葉に、みんなも俺に視線を向けてくるが……笑みを向けると安心してくれたようだ。みんなもまた頷いてから自分は大丈夫、と言うように微笑んでくれて。……うん。

 俺だって……母さんの事だけじゃなく、ヴァルロスやティエーラの事もあって。

 だから今回の一件は、きっちりと片を付けてやりたいと思う。フォルガロ公国の事で、墓前に良い報告ができるようにしたいものだ。




 そんなやり取りをしながら集会所に戻った。ネレイド達も先程見たサンダリオの記憶で大分士気が上がっているというか、気合が入った様子だ。


「これは、みんなで歓待して英気を養ってもらわないとね」

「私達も頑張ろう!」


 と、気炎を上げたりしているネレイド達であるが。


「ふふ。そんなわけで食事の用意をしたいと思うのだけれど。ネレイドの里は陸の人用の食べ物ってあまりないから、ごめんなさいね。でも今回は魚介類の他に、島の果樹園や畑で採れた果物や野菜と、海藻の実も用意しているわ。陸の人用の調理設備も一応あることはあるし」


 モルガンがそう言って微笑む。そうか。グランティオス王国は陸の民と交流が昔からあったが、ネレイドの里の場合はそれより少ないから。それでも陸の民用の設備が一応あるということは、サンダリオのように、陸の民とネレイドが結婚するというケースが時折あるから、なのだろう。


「それなら、食卓も大分賑やかにできそうですね。皆さんと一緒に戦うのですし、私達にも食事の用意を手伝わせて下さい」

「その方が両者の信頼作りに繋がりそうだものね」

「そういう事なら、是非。先日頂いたカレーも美味しかったですから」


 と、グレイスが申し出てイルムヒルトも同意すると、モルガン達も嬉しそうに笑って応じる。


「海藻の実というのが気になるわ。あの、大きな海藻よね?」

「ええ。美味しいのよ」

「ん。気になる」


 ステファニアが質問するとカティアが答え、シーラが反応していた。海藻の実か。中々味の想像ができないところがあるが。


 まあ……それは後の楽しみとして、ネレイド達もドルシアの娘達以外は陸の食べ物や料理にあまり馴染みが無いということで、シリウス号に積んでいる食材も持ち出してみんなで料理を、ということになった。

 陸の民用の設備も集会所に置いてあるそうで。というわけで色々シリウス号からも持ち込んで料理をしていく。


 みんなで手分けして米を炊き、味噌汁の用意をして、といった具合だ。

 ネレイド達の用意してくれた魚は色々だが……鯛が獲れていたりしたのでこれなら鯛めしやあら汁などもいけると思う。


 鯛を炊き込んで出汁を取ってから骨を取り除き、身を細かくほぐしてから混ぜ込み鯛めしに。それと平行して鯛のあら汁も作っていく。

 その他魚介類は一旦水魔法で凍結させ、寄生虫対策を施した後に解凍して食材にしていくというわけだ。


 鯛めしとは別に酢飯を用意し、寄生虫対策済みの食材を捌いて、アイスゴーレムが握りにしていく。今回は寿司も用意してみた。


「中々……変わった料理ね。酢を混ぜたお米に刺身を乗せる、と」

「本当は月からもらった山葵も用意したいところだったんだけどね」


 今回は残念ながら安定確保のために収穫の頃合いではなかったので山葵はない。

 ……まあ、寄生虫対策もしているし、そもそも新鮮な食材なので、というところはあるが。ネレイドや深みの魚人族に好評ならグランティオスの面々にも受けがいいだろう。その場合はまた改めて山葵も活用しつつレシピを広めたいものだ。


 そうして諸々準備が整ったところで、集会所1階の大広間で宴の席となったのであった。


「ああ……。これは美味しいわね。魚の旨味が米に染みているというか……」


 と、鯛めしを口にしたローズマリーが目を閉じて感想を漏らす。

 そうだな。米に鯛の旨味が広がって、良い具合に炊き上がっている。シーラも鯛のあら汁を口にして、うんうんと頷くと、一緒に味噌汁を味わったマルレーンと共にこちらに向かってサムズアップしてきた。うむ。

 味噌の加減も良い塩梅だ。味噌汁の風味と旨味が合致して……食欲をそそる味というか。


「……お魚の味と醤油、ですか? このタレの味が相まって美味しいです」

「お米、が口の中でほどけて味が広がる……。こんなにお魚と合う……」


 握り寿司の方もネレイド達にかなり好評の様子だ。魚だけでなくエビ、タコ、シャコ等々、食材をあれこれと捌いてアイスゴーレム達が次々と握り寿司を量産中である。


「これは――素晴らしい」

「みんなにも食べさせてやりたいな」


 ブロウスとオルシーヴも握り寿司を気に入ってくれたようだ。

 さてさて。俺としては海藻の実というのが気になっていたのだが。

 涙滴型の果実で、そのままでもいける味とのことで。口の中に入れてみるとこりっとした小気味の良い歯ごたえのある食感と共に、濃厚な旨味が口の中に広がる。

 ああ……。これは確かに美味い。果実というよりは貝を口にしたような風味だがれっきとした海藻の実だ。これなら……醤油とも合うし、昆布のように出汁を取るのにも良いのではなかろうか。


 同じことを思いついたネレイド族もいたようで、海藻の実を醤油につけて口にして、感心したように頷いたりしていた。


 ティールが嬉しそうに新鮮な魚を口にしてご満悦といった様子だ。リンドブルムやラヴィーネも今回は魚を食べたりしている。コルリスやホルンは鉱物だったりするが、やはりネレイド達からも面白いものなのか、鉱物を食べさせてもらったりして撫でられたりしていた。


 魔法生物組も魔力補給をしたり、食事用ユニットで寿司を口にしてうんうんと頷いていたり、みんな食事を満喫したようだ。

 腹が満たされれば、今度は歌ったり踊ったりということで。イルムヒルトが演奏してセラフィナが歌と踊りを披露すると、ネレイド達も自分達の里に伝わる歌や曲を披露してくれる。ネレイド達は呪歌、呪曲は使えないらしいが、里の娯楽という事でセイレーンから譲ってもらった竪琴やハープを奏でたり、歌や踊りは得意な方らしい。


 モルガンの奏でるハープとカティアの歌声に合わせてネレイド達とパラソルオクト達が水中を舞う。

 セイレーン達の奏でる音色ともまた違う、民族独特の旋律は聞いていて興味深く、また心地良いものだった。カルセドネやシトリア達も首を軽く動かしてリズムを取ったりして、楽しそうにしていた。


 それに、今回はネレイド達のところを訪問するかもしれないということで、グランティオス王国用に作られた水中でもできる娯楽品を最初から用意してきている。

 磁石付のチェスはボードも駒もグランティオス産の塗料でコーティングしてあるし、カードも木魔法で樹脂加工してあるために完全防水仕様だ。表側の絵柄で紋様魔法も使い、水に浮かないようにしてある。


 そうした品々を何セットかプレゼントすると、殊の外ネレイド達は喜んでくれた。早速遊んでみようと俺達やバルフォア侯爵、ネレイド達、ブロウスとオルシーヴを交えてカードを始めたりして、割と楽しんでくれている様子だ。パラソルオクト達もチェスで遊べると喜んでくれていた。


 中々……良い具合に交流が深まってくれたようで、俺としては何よりと言ったところだな。

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