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番外513 海の森とネレイドの里

 正面の水晶板モニターに目をやれば、遠くに――不思議な景色が見えていた。


「あれは――」

「すごい光景、ですね」


 グレイスが言うとマルレーンもモニターを見ながらこくこくと頷く。

 それはまるで――海の中の森だ。海底から真っ直ぐに伸びる、長い海藻の群生地。

 地球にもジャイアントケルプの森と言われる場所があるのは知っているが、それに近いかも知れない。


 透明度の高い海に燦々と陽光が差し込んで、海の青と海藻の緑とで彩られた世界。海の森に向かってゆっくりとシリウス号が進んでいく。

 生い茂る長い海藻は大きな捕食動物からの隠れ家として丁度良いのだろう。様々な生き物が海藻と海藻の間を泳いでいるのが見えた。


 森の底――海底も色鮮やかな珊瑚やヒトデ、熱帯の魚が泳いでいて……何とも美しい風景だ。とはいえ、シリウス号で進むにはやや林立している海藻に影響が出てしまうだろうか。

 操船席から木魔法のフィールドを展開。海藻を掻きわけるようにゆっくりと進んでいく。


「海の森ですか。話に聞いたことはありますが、海中から見るとこれほど美しい場所とは思いませんでしたぞ」


 と、バルフォア侯爵が感心したように言うと、ステファニアも笑顔を浮かべた。


「賑やかで良いところね。気に入ったわ」

「テオ君達と一緒だとこういう物を見られるのは役得だね」

「本当ですわ」


 アルバートとオフィーリアも楽しそうで何よりだ。


「そうでしょうとも。我らが故郷です」


 ソロンが嬉しそうに目を細め、ティールもモニターから見える光景に、嬉しそうにフリッパーを動かして声を上げていた。ソロン達の種族もここに住んでいるわけだ。


「不安がらせるといけませんね。伝声管を使わせてもらっても?」


 と、モルガンが尋ねてくる。


「勿論です」

「この伝声管が外部用です」

「ありがとうございます、ロヴィーサさん」


 モルガンはロヴィーサから伝声管の使い方を教えてもらうと、咳払いを一つ。それから口を開く。


「モルガンです。みんな、ただいま戻りました。お客様の船に乗せて貰って帰ってきたので、心配はいりませんよ」


 モルガンがそんな声を響かせると、海藻の間からメンダコ――パラソルオクト達がちらほらと姿を現した。ソロンとは色合いが違ったりして……一族で姿を見せるとカラフルだ。こちらを見ながら何事か会話をしている者や、身体を傾けて耳のようなヒレを片方だけ俺達に向かって振ったりする者と……歓迎の挨拶をしてくれているのがわかる。


「綺麗で楽しい場所だね」

「ヘルフリートに気に入って貰えて嬉しいわ」


 そんな光景にヘルフリート王子が笑うと、カティアがそんな風に言って屈託のない笑みを浮かべる。ネレイド達もみんなの反応が良いからか、上機嫌な様子であった。ブロウスとオルシーヴも、メルヴィン王やデメトリオ王との話がついて安心したのか、表情に笑顔が見えている。


 そうしてネレイド達の案内に従って進んでいくと、パラソルオクト達も浮遊しながら船の後ろをついてくる。中々賑やかな事になっているが……何やら森の一角に大きな穴が開いている場所に出た。


「あの洞窟の中が私達の里なのです。ええと、そうですね。入口の上なら海藻が邪魔にならないと思いますので、この場所に停泊なさってはいかがでしょうか?」

「ありがとうございます。では……お言葉に甘えさせていただきます」


 モルガンの言葉に頷き、穴の上にシリウス号を停泊させる。


 というわけで……ネレイドの里訪問だ。水中活動用の魔道具を確認し、水中呼吸の魔法も用いて皆で甲板に出ると、パラソルオクト達がモルガン達を確認して集まってくる。


「おかえりなさい!」

「おかえり!」

「ただいま戻りました。留守中何かありましたか?」

「森はずっと平穏でした。ご無事でお戻りになられて嬉しいです」

「ふふ、留守番ありがとうございました」


 モルガンと連絡事項を伝え合う横で、別のパラソルオクト達はシリウス号に興味津々といった様子だ。


「すごい船だね」

「大きいねー、兄ちゃん」


 と、パラソルオクト達に囲まれて賑やかというか和やかというか。里にも他にネレイド達がいるらしい。自己紹介はその時に纏めてということで、いよいよ洞窟の中へと入っていく。


 洞窟、といっても暗い雰囲気はなく、広々としたものだ。あちこちに光源として光る珊瑚が配置されていて明るい雰囲気がある。


「光る珊瑚はやはり、グランティオス産だったりするのかしら?」

「そうですね。昔友好の印として頂いたものを大切に育てています」

「それは――エルドレーネ陛下もお喜びになるかと」


 ローズマリーが尋ねるとモルガンが答え、ロヴィーサも笑顔になっていた。

 斜め下方向に向かって掘られた洞窟を少し進んでいくと、いきなり開けた場所に出た。


「ああ、里も、やっぱり綺麗ですね」


 と、アシュレイが声を漏らす。

 ――海底洞窟の中に築かれた里だ。グランティオスでも見たような石作りの家の他にも巨大な巻貝を建材として利用したらしき家々が並んでいる。


 洞窟の天井部や里のあちこちに光源が設置してあり、水の揺らぎと共に町並みも揺らいで……何とも幻想的な光景がそこに広がっていた。


「あの巻貝は、本物なのかしら?」

「昔、近隣の海域に魔物貝が出没した時期があったの。撃退した後に、その抜け殻を建材として利用させて貰っているわ」

「興味深いわね……」


 疑問にカティアが答えると、クラウディアは静かに頷いていた。

 俺達が姿を見せると、里の奥からネレイド達も顔を見せて、こちらに向かって集まってくる。


「おかえりなさい、モルガン様!」

「ただいま戻りました。カティアの想い人や……私達が探していた方達も一緒ですよ」


 その言葉にネレイド達が笑顔を浮かべ、興味津々といった様子でこちらを見てくる。


「ん。初めまして」

「こんにちは」


 と、シーラとイルムヒルトが挨拶をすると、ネレイド達も挨拶を返してくる。そうして里の面々とパラソルオクト達に俺達の事を紹介してもらいながら移動する。

 どうやら中心部にある一際大きな巻貝屋敷に向かっているようだ。


「あの大きな貝は普段は集会所として使っているのです。一時的に水を抜きますので、皆さんの滞在先として使って下さい」

「ああ、それは助かります」


 水中活動は問題なくできるが、ずっと水の中というのも落ち着かないしな。近寄ってみると、巻貝の一部をくり抜いて扉や窓を付けていたりと、中々に面白い。

 貝の姿をした建物だが、内部はきちんと整備されていて……どうやら魔法でしっかりとした部屋分け等をしたりと、建物としての体裁を整えているようだ。


「これは面白いですね」


 貝を加工する魔法、というのは海の民ならではなのだろう。


「一階は広間になっていますが、二階、三階にもお部屋があります。そちらを客室としてご利用下さい」


 モルガンがマジックサークルを展開すると、海水が巻貝屋敷から排出されて、内部に空気が充填される。


「ありがとうございます」

「では、手荷物を置いたら、お墓参り、という流れになるでしょうか?」


 エレナが尋ねるとモルガンが頷く。


「そうですね。サンダリオ殿やドルシアに、これまでの事をお話しに参りましょう。瞳については未解決ではありますが、テオドール様のお陰で良い展望も見えてきていますから……きっと二人も喜んでくれるでしょう」

「うんっ、お父さんなら分かってくれると思う」

「ブロウスさん達のこと、応援してくれるよ」


 モルガンの言葉に同調するドルシアの娘達。


「――ああ。ありがとう。サンダリオ殿には我らも感謝している」

「恐らくは一族の裏切り者を倒したこともそうだが……あの状況で瞳だけ戻ってきたら、きっと我ら一族は以後も尖兵として扱われていた。今よりもっと過酷な状況になっていただろう。礼を言わねばならない」


 ブロウスとオルシーヴも真剣な表情で応じる。そうだな。確かに。

 俺も色々と今後の事に関わると決めた。であるなら、墓前への報告もしっかりとしてくるとしよう。母さんの事も考えれば、きっと故人にも思いは届くから。

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