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番外477 海洋国の侯爵家

 シリウス号の艦橋に案内したり、船室や厨房、氷室や風呂等々の設備を見てもらったりとカティアとソロンに船内をあれこれと案内していく。


「外が見えないのにどうやって操船するのかって思っていたけど――どの方向でも全部見えているのね」


 と、カティアは艦橋を見て感心したように声を上げていた。


「速度を出して空を飛びますし、戦いを想定して作られた船なので、複雑な動きで飛ぶ事も考えていましたからね。外が直接見える状態でそうした動きをすると、乗組員も船から落下してしまって危険ですから」


 と、明日以降のグロウフォニカ王国の面々へのシリウス号案内のリハーサルも兼ねて、色々と説明していくと、カティアとソロンは仲良く揃ってこくこくと頷いたりと、中々良い反応を返してくれたのであった。

 艦橋に腰を落ち着け、そこで炭酸飲料を飲みながら話をしたり。


「明日の夜は王城へ行ってきます。リンドブルムや使い魔、魔法生物達は、公館とシリウス号側に護衛として残る予定ですので、何かありましたら使い魔に話しかけて貰えば僕達にも伝わるかと」

「ええ。ありがとう」

「すみませんな、流石に事情を明かしていない私めらが王城の歓迎の宴に混ざるわけにもいきませんで」


 と、カティアは微笑み、ソロンもぺこりと頭を下げてお礼を言ってくる。

 調べ物をして、その上で問題無さそうなら王城に一緒にという事もできるだろうが。

 現時点ではカティアとソロン達をグロウフォニカ王国側がどう思っているのか、やや判断がつきにくいからな。


 人魚やグランティオス王国に対しては割と好意的らしいから大丈夫だとは思うが、念のためだ。過去の出来事で接点がありそうな状況では慎重になった方が良い。

 何より問題が無かったとしても、筋道を立ててからでないと向こうの印象も悪くなってしまうからな。


 そうして明日以降の予定の確認等をしつつ、その日はのんびりと過ごしたのであった。




 明くる日――。公館でゆっくりと起き出し、朝食をとってからのんびりしていると、昼前頃になって王城からの使者がやってきた。

 王城での歓待は夜からで、夕刻頃に迎えに来るといった内容だ。

 こちらもその頃合いには公館にいるようにするという旨の返答をすると、使者は笑顔で一礼して王城へと帰って行った。

 シリウス号の見学も……歓待が終わってからという事になるだろう。


 というわけでそれまで時間もあるので、イルムヒルトの奏でるリュートに耳を傾けたり、公館の敷地から見える海の景色を楽しんだりと、のんびりした時間を過ごさせてもらった。

 アルバートとオフィーリアも公館の中庭を二人で散策して、一緒に花壇の草木を愛でたり、ヘルフリート王子とカティアもお互い離れていた時の出来事を話したり……それぞれにゆったりとした時間を過ごせたようだ。


 そうして時間は過ぎていき、王城から迎えの馬車がやってくる。


「それじゃあ行ってくる。留守中の事はよろしく」


 そう言うと、リンドブルムやベリウス、アルファ達が揃ってにやりと笑う。手を振るコルリスやティール。核を明滅させるマクスウェルといった面々やカティアと使用人達に見送られて公館を後にする。


 馬車に乗って王城へと向かい、宴会の会場となる広間へと通された。広間は柱や天井に細かな装飾が施された立派なもので。グロウフォニカの在りし日の繁栄と歴史を窺わせる風格のある場所であった。

 そこで用意されていた席に腰かけて宴会の開始を待つことになる。


 宴会に呼ばれた参加者達も先に会場に入っていた。貴族、武官、魔術師と立場は色々だ。

 宴会が始まる前なのでまだ挨拶回りがあるわけでは無かったが、視線が合うと会釈をされたりと、ヴェルドガルから来た俺達が主賓ということで、色んな層の面々から注目が集まっている印象だ。


「ああ、あれが伯父上よ。少し前に先代のバルフォア侯爵が引退して、家督を継いだらしいわ」


 と、ローズマリーが言う。視線を向ければ、モノクルに口髭の上品な紳士といった人物がこちらに丁寧にお辞儀をしてくる。俺達もバルフォア侯爵に一礼すると静かに頷き、柔和な笑みを向けられた。血縁ということもあり、少しローズマリーやヘルフリート王子に似た雰囲気というか、面影があるだろうか。


「どういった方なんですか?」

「わたくしはそれほど何回も顔を合わせているわけではないから、公的な場所以外での性格を知っているわけではないけれど、伝え聞いたところでは評判は悪くないわね」

「姉上より僕の方が接している回数は多いね。堅実で温厚な方だよ。カティアに聞いて地図で確認した限り、ネレイドの住む南方の海域はバルフォア侯爵の領地も近くになるから……今回の一件で接したり、話をする機会がもしかしたら増えるかも知れない」


 グレイスの質問にローズマリーが答えると、ヘルフリート王子も補足するように説明してくれた。


 バルフォア侯爵か。何やらこちらに対しては良い印象を持っている、という雰囲気ではあるが……まあ、宴会が始まって食事も一段落すれば、侯爵とは挨拶がてらに話をする事になるだろう。

 ローズマリーとヘルフリート王子の伯父だし、ヴェルドガル王国との橋渡しになる人物であるからして。


 楽士達が音楽を奏で、料理の香りが鼻孔をくすぐる。そんな調子で会場も大分賑やかになってきたところで、楽士達が一旦演奏を止める。

 ファンファーレが鳴り響き王妃を伴ってデメトリオ王が会場に姿を現すのであった。




「――東の海の向こうより、ヴェルドガル王国の名高き王族殿と英雄殿をお迎えし、こうして歓待の席を設ける事ができたこと、誠に喜ばしく思う。心づくしの料理と歓待を楽しんでもらう事で、今後も両国間の親善と交流が深まっていく事を願うものである」


 デメトリオ王はそうして酒杯を掲げ、乾杯の音頭を取る。


「我らの友情と繁栄に!」

「我らの友情と繁栄に!」


 そうして乾杯の声が重なり、楽士の明るい演奏と共に宴会が幕を開けた。テーブルの上に次々と料理が運ばれてくる。

 やはり海洋国家というお国柄か料理は白身魚やエビ、ムール貝などといった魚介類が主だが、ソースよりもスパイスによる味、風味付けを重視しているようで。

 魚介の旨味にピリッとした刺激やサフランやらニンニクやらの風味などが複雑に重なって……異国情緒をしっかりと感じられる割に洗練されているので抵抗なく食が進む感じだ。

 イカスミで味付けしたパスタのパエリアなどもさっぱりした味わいで、良い感じである。


「ん。美味」


 と、シーラはナイフとフォークを手に耳と尻尾を反応させてもぐもぐとやっていたが。

 そうしてグロウフォニカの料理を満喫し、腹も満ちてきたかという頃合いで、デメトリオ王がバルフォア侯爵と共にやってくる。アルバートやヘルフリート王子にも声をかけて挨拶をし、それから俺にも笑みを向けてくる。


「楽しんでもらえているかな?」

「はい、陛下。グロウフォニカ王国の料理は食が進みますね」

「ふふ、旅慣れているであろう境界公に、そう言ってもらえるのは光栄だな」


 そう言って頷き、デメトリオ王は少し後ろに控えているバルフォア侯爵を俺達に紹介してくれる。


「ヘルフリート殿下の伯父にあたる、バルフォア侯爵だ。境界公とは初対面、ということになるのかな?」

「はい、陛下」


 バルフォア侯爵はデメトリオ王の言葉に頷くと、こちらに挨拶してくる。


「お初にお目にかかります、境界公。クストディオ=バルフォアと申します」

「これは御丁寧に」


 と、こちらもバルフォア侯爵に礼儀に則り挨拶をするのであった。南方に領地か。ネレイドの住む海域とは少し外れるようだが、調べ物をして場合によっては相談に乗ってもらう事もあるかも知れないな。

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