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番外468 グロウフォニカへの旅路

 海の都を出て、シリウス号は西へと進路を取る。

 青く澄んだ海原に浮かぶように点在する島々を空から眺めるというのは……心躍る風景だと俺は思う。生態系も豊富なようで魚群を見つけてシーラがティールとハイタッチしたりなどしていたり、すっかり海が気に入ったらしいカルセドネとシトリアがモニターにかじりついていたりといった具合で、艦橋は和やかな雰囲気だ。


 まあ……風景としてはドリスコル公爵領とそこまで大きく変わる事はないが、そろそろヴェルドガル王国の勢力圏から出ようかという頃合いだろうか。


 目指すはグロウフォニカ王国の王都だ。まずはメルヴィン王からの書状をグロウフォニカ国王に見せて、王国内の観光許可を貰うということになるだろうか。


「もう少し進んで、グロウフォニカ王国側に入ったらシリウス号の速度を落とす必要があるかな。それでも星球儀を使って最短距離を移動するから、王都まではそんなに時間はかからないけれどね」


 飛行船の実際のところを見たいので、移動する際も飛行してきて構わないと、グロウフォニカ側からの連絡を貰っている。民に混乱を招かないようにしてもらえれば、という但し書きもあったが。


 要するに国旗や家紋を掲揚してこちらの身元を明らかにし、更に目につく形での高速移動だとか戦闘機動等を披露しなければ問題ないわけだ。

 姿を消して速度を上げて、王都が近くなったら姿を現す、という手もあるが……これはまあ、こちらとしては円満な訪問をしたいので止めておいた方が賢明だろう。

 周囲に人目がないか毎回確認して姿を消したり出現したり、速度を上げ下げするというのも、作戦行動でない以上はそこまでやる必要がないし。


「となると、グロウフォニカ王国に到着した後も、同じような移動方法ということになりますか」


 俺のティーカップにお茶を注ぎながらグレイスが尋ねてくる。ありがとうと、礼を言いながらお茶を受け取り、それから答える。


「緊急性が無い場合はね。一応、速度も出せる事はグロウフォニカ側にも伝えるけれど、魔力光推進までは見せなくてもいいと思うし」


 グロウフォニカ側にシリウス号のスペックをある程度伝えておけば何かの折に速度を出しての対応も可能だろう。魔力光推進は……一般に知られていない秘術ということになるので、伏せておいても問題はない。

 平常時の移動速度はやはり控えめにということになるか。


「ただ、到着してからどう動くことになるのかはまだ何とも言えないかな。案外王都から動かないで良いかも知れないし」


 そのへんはネレイド達の用件次第というか。ヘルフリート王子の調べ物とミリアムやエルドレーネ女王といった面々の人脈や情報網によって、あちこち動かなくても解決してしまうような話なら、それこそ王都に留まったままでも大丈夫……かも知れない。


「すまないね。僕としても彼女達の動きがどうなるか、まだ見通しが立たなくてね。事情を僕から明かせないまでも、そのへんの方針ぐらいは予想を立てて伝えられたら、手間が省けたと思うんだけど……」


 と、ヘルフリート王子が申し訳なさそうに言うが。


「大丈夫ですよ。移動速度の件も含めて食糧も多めに積んであるわけですし。時間が余るようならそれこそ、本当に観光旅行に目的を変えてしまえばいいわけですから」


 そんな風に冗談めかして笑って答えると、ヘルフリート王子からも笑顔が漏れる。


「そのネレイドは、今は王都のヴェルドガル公館にいるのよね?」

「そうです。現状動いていないようですね」


 ステファニアの質問に、ヘルフリート王子が頷く。

 つまりはグロウフォニカ王国に話を通すのも、ネレイドに会って話を聞くのも王都で、ということになる。あちこち移動しなくて済む分手間がかからないし、グロウフォニカ王国の王都には王立図書館もあるそうだ。立場上閲覧可能なもの、できないもの等々もあるからタームウィルズでも調べ物をしたらしいが、そう言った設備の充実ぶりも含めて王都から動かない方が都合の良い面もあるだろう。


 というわけで……到着してからの予定、動きについては問題なさそうだ。

 アルバートとオフィーリアは公館に滞在する予定だが、俺達と別行動になる場合はシオン達がアルバート達の護衛として公館に残る、ということになっている。


「そう言えば――エリオット様はかつて、グロウフォニカ王国の北方の海洋国家に留学なさっていたと聞きましたが」


 話が一段落したところでオフィーリアが尋ねると、アシュレイが頷く。


「はい。西方海洋諸国としては括られない立ち位置ですが……シルヴァトリア王国からは南西の海に位置する島国で、地理的にも近いので魔法の研究も進んでいるそうです。エリオット兄様の留学に関しては、旅行に来ていた父様の友人が、エリオット兄様には剣だけでなく、魔法の才能もあるから是非指導させて欲しいということで話が纏まったらしいですよ」

「なるほど。西方海洋諸国とは繋がりが薄いのですわね」


 そんなアシュレイの説明にオフィーリアは納得したというように頷く。


 だが、小国とは言え海洋国家である以上、グロウフォニカや西方海洋諸国と接点がないとまでは言えない。だからエリオットは、自分も何か協力できることがあれば、と言ってくれた。


 とはいえ……エリオットもベシュメルクに行ってカミラと離れていたからな。

 何かの折に情報提供や昔の知り合いを伝手として頼らせて貰えたら嬉しい、という事で話が落ち着いて、今回の同行はしていない。


 目的としても相談事の解決だし、ネレイドの暮らしている場所がグロウフォニカの南方だから、ということもある。それでもエリオットの少年時代の人脈が必要なら、水晶板越しに色々話を聞けるだろう。




 グロウフォニカ王国の勢力圏に入ったところで航行の速度を調整する。

 グランティオス王国の海の都から出発するのがやや遅い時間帯だったということもあり、あまり速度を出せない事情も加味して考えると、到着してからスムーズに動ける時間帯に調整する方がいい。


 早い時間に城への挨拶を済ませてから、ネレイドに話を聞きにヴェルドガルの公館へ。

 グロウフォニカにはこちらが訪問するという事は伝えてあっても具体的な日程は打ち合わせていない。歓迎するとグロウフォニカ側も言ってくれているので、歓待の用意は俺達が到着してから公館に留まって連絡してくるまで待つ、という形になるだろう。


「――だから今日は、移動しながらシリウス号に一泊する形になる。出せる範囲の速度で急いで向かうと、夜中に到着するようなことになって、向こうも対応に追われて印象が良くないからね」


 と、今日、明日の日程について大雑把ではあるがみんなに伝えておく。俺達もグロウフォニカ側も、お互い慌ただしくなくて丁度良い頃合いというのが望ましいだろう。


「夜間の見張りは、ティアーズ達にやってもらっていいかな? シリウス号に何か合図を送ったりとか、こっちに用のありそうな面々を見かけたら、起こしてもらって構わない。夜間だからわざわざこっちを停めたりとか、そういう事もないとは思うけど」


 ティアーズ達に方針を伝えると、頷くように縦に身体を動かしていた。では、見張りに関しては問題ないな。


「シリウス号の船中泊……結構好き。揺れないし、快適だから……」

「船室でカードとかチェスとか、楽しいよね!」


 シグリッタとマルセスカがそう言って頷き合う。


「エレナ様達も、夜お暇であれば一緒にいかがですか?」

「ふふ、私で良ければお相手しますよ」

「うんっ、遊びに行くね」

「よろしくね」


 シオンが誘うとエレナとカルセドネ、シトリアがそう言って応じる。カルセドネとシトリアはマクスウェルやアルクス、アピラシアといった魔法生物組も誘っていて。


「それは楽しそうだな」

「不肖ながら、お相手致しましょう」


 と、マクスウェルとアルクスが答え、アピラシアがこくこくと頷いていた。うむ。ティアーズ達が見張りを担当してくれるから船中泊等々も楽しんでもらえればというところだ。

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