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番外406 金色の蜜蜂

 黄金の蜂の巣というのが気になったので宝物庫の部屋を移動して取りにいってみたが。どうやら小さな家を模したような魔道具がそれであるらしい。小さいながら窓や扉等ついていて、こじんまりとしていたが中々立派な家である。


 家の模型の大きさは両手で運べるサイズだが、持ち運びするにはやや取り回しが悪いか。

 切妻屋根の軒先に、蜂の巣を模したのであろう蜜色の黄金の球体がついている。民家の軒先に蜂の巣がある、というような雰囲気だが。


「家は台座も兼ねていてな。軒先についている蜂蜜のような質感の球体があろう。これが養蜂球というわけだ。使役者は養蜂球を取り外して持ち運び、魔力を送る事で家屋から蜂を供給してもらうというわけだ」


 と、パルテニアラが解説してくれる。


「面白いですね。魔道具の設計に遊び心があると言いますか」

「比喩的に意味を与えれば与える程、魔法生物に神秘性を与えて強力にできると……まあ、そういう設計思想を持った魔術師が作ったものなのだ。魔界で討伐した蜂の魔物の魔石を核にしてだな。魔法生物自体も蜂の生態に近付けているように思うが、その分能力というか、利便性は中々のものだ。戦闘力や性質は……与えられる魔力の質次第だが、そなた達なら問題はあるまい」


 なるほど。パルテニアラが言うのなら間違いはなさそうだ。


「少し試してみても?」

「無論」


 ということで、蜂の巣と養蜂球を持って宝物庫入口の広場に戻り、起動させてみる、ということになった。

 養蜂球を手に取り、循環させた魔力を込めると……込めた魔力がどこかに吸い込まれていく。代わりに小さな家の内部にあった小さな魔力反応がかなり強いものになる。

 そうしてそれが移動して、家の中から扉を開けて出てくる。


「なるほど。女王蜂ね」


 と、ローズマリーが呟く。

 二足歩行する蜜蜂。形容するならそんな姿だ。小鳥ぐらいのサイズがあるが、頭部に宝冠を被っていたり、前足というか、手には蜜蜂の飾りがついた王錫を持っていたり、女王風のマントを羽織っていたりする。


 顔や首回りはふわふわとした金色の毛に覆われているが、後足が太く、関節の形も違う。直立に近い姿勢での行動ができるようで。

 戦装束なのか、白と金色を基調にしたドレスアーマー的な物を身に着けている。胸部装甲が六角形を拡大したような、蜂の巣をモチーフにしたもののようだ。それに伴い、蜂の腹部も尻尾のようにくっついていて、普通の蜜蜂とは体型の面で大きな違いが見られる。


 人間っぽい立ち姿と鎧を纏った王族風の出で立ち。もこもことした毛と相まって……中々愛嬌のある姿だ。


 目は複眼ではなく、光沢を放つ宝石のような質感である。

 女王蜂は家から顔を出すと、小首を傾げるようにして周囲を眺め、俺やパルテニアラを認めると、高周波の音をどこからか響かせながら、丁寧な仕草でぺこりと挨拶してきた。

 人語ではない。人語ではないが何となく言いたい事が理解できる。

 美味しい魔力をありがとう。パルテニアラ陛下もご機嫌麗しく、とそんな内容の挨拶だ。


「魔力供給をすると何となくの意思疎通ができるらしい。魔力を与えて目覚めさせた人物が使役者になるが、他の者の魔力も与えられる。魔力の質の違いによって、生成される蜂の能力も変わるらしい」

「なるほど……」


 女王蜂の挨拶の内容を伝えると、パルテニアラもにこやかに笑って挨拶を返していた。


「それにかなりの魔力を持っていますし、魔界探索等々も手伝ってもらえたら心強いですね」

「では、黄金の蜂の巣も決定か」


 俺の言葉にパルテニアラは頷くと、養蜂球に触れて、自身の言葉を女王に伝える。


「そなたを目覚めさせたのはテオドールという魔術師で、ベシュメルクの恩人でもある。よく仕えるのだぞ」


 パルテニアラがそう言うと、女王蜂はこくこくと頷いていた。


「ふふ。可愛らしいですね。これに触れて魔力を送れば、お話もできるようになるということですか?」

「うむ」

「そういう事なら、私達も魔力を渡しておきましょうか」


 グレイスの言葉にパルテニアラが頷くと、アシュレイ達も楽しそうに養蜂球に触れてそれぞれ魔力を送る。

 女王蜂は羽を広げて震わせ、こんなに質の良い魔力を持つ方達ばかりなのはすごい事です! というような感動の声を上げていた。


 そうして早速娘達を披露します! と意気込みを見せた女王は、前足と中足から魔力を放出して捏ねるような仕草を見せる。そうすると、黄金の輝きが女王の前に生まれて――やがて黄金の蜜蜂のような形状へと変化する。


 正確には蜂型のオーラというか。

 オーラ状なのではっきりとしないが、手に杖を持っているようだな。装甲を身に着けている風なのは女王と同じだ。だが……凝縮された強い魔力を宿していて、小兵だからと侮れないというのは間違いない。女王が命令を下すと働き蜂もぺこりと挨拶をしてくる。


「魔術師型か。やはり、テオドール達は魔術師が多いからかも知れんな」

「種類があるのですか?」

「うむ。戦士型も見たことがある。飛行速度が速く、接近戦を得意としている。その内それらも見られるであろう」


 なるほど。色々と面白い。


「この子の名前はあるのかしら?」

「決まっていない。魔法生物でありながら、活動を休眠する時は自己を卵の状態に戻して新生するとのことだ。妾の事は基本的な事柄として記憶していたようではあるが」


 クラウディアの質問に、パルテニアラはそう答える。

 名前も頂けると嬉しいです、と女王蜂は俺に視線を向けて言ってきた。


「んー……。アピラシア……っていうのはどうかな?」


 蜜蜂を意味する言葉を人名っぽくした感じだ。女王蜂はふんふんと頷いて名前を反芻していたようだが、やがて顔を上げてお礼の意思を伝えてくる。

 素晴らしい名前です! ありがとうございます! と、絶賛してくれているようだ。気に入ってくれたようで何よりである。


「よろしくね、アピラシアちゃん」


 アピラシアはセラフィナやマルレーンとも握手を交わしていた。


「ふふ、礼儀正しいのね」


 と、ステファニアもアピラシアと楽しそうに握手をする。

 というわけで、色々受け取ってしまったし、これで一旦宝物庫は閉めて場所を移そうということになった。


 黄金の蜂の巣本体――というか家に関しては、アピラシアによると働き蜂達に運ばせるということで。

 どうするのかと不思議に思っていると新たに作り出された働き蜂達が下から家の四隅を前足で支えて飛行するというような形で運搬していた。


 中々予想外の運搬法で見た目にも面白いが……ふらついたりしない力強い飛行を見る限り、運搬に関してはこちらの手間はかからないようだ。結構無茶な運搬法であるにも拘らず、一糸乱れぬ飛行をしているあたり、アピラシアの統率能力や働き蜂の精密性等も垣間見えるような気がする。


 注意点としては……小型の家については魔力を溜め込んだり働き蜂が内部で待機したりする役割を持つので、安全な場所に置いて欲しいというのが、アピラシアの弁だ。但し、破損しても自分が無事なら魔力を使って修復や増築、移住も可能という話である。


「ん。それなら普段はシリウス号があるから安心?」

「シリウス号はね、空を飛ぶ船なのよ」


 シーラとイルムヒルトが説明すると、アピラシアは「それはすごい」というような内容の、感動したような声を漏らしていた。


「でも、迷宮や魔界の探索に同行してもらうなら、家を防御する何かしらを考えないといけないかな」


 防御用のゴーレムとか。まあ、それらについてはアルフレッドと相談して追々考えていけばいいだろう。


「増築や移住、というのが気になりますね」

「城の模型のようなものにしたりもできるぞ。休眠中はこじんまりとした家に纏めてしまう方針のようだがな」


 エレナが首を傾げると、パルテニアラがそんな風に答えていた。

 家の中にも女王蜂とは別に魔石の核があり、それを移すことで働き蜂達の出撃拠点としての役割も移す事が可能、という話であった。家の模型自体は蜜蝋のようなもので構築するのだそうで。うん。色々と面白い。

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