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番外405 呪法王国の宝物庫

 パルテニアラ達と共に王城の一角にある宝物庫へと向かう。目録はあるが、ザナエルクが実権を握っていたわけだから、持ち出されている物もあるかも知れない。


「僕の経験から言うと、重要な品が外部に持ち出されていて後で大変な事になった、ということがありましたので、早い内に目録と所蔵品の確認を行っておく事をお勧めします」

「確かに、それも必要ですな」


 通路を歩きながら言うと、クェンティンが神妙な面持ちで俺の言葉を首肯する。

 シルヴァトリアの時の話だな。ザディアスが宝物庫からベリオンドーラを起動させるための鍵を持ち出して、魔人との交渉に使っていたという。

 結局月の船がイシュトルムの手に渡って、実際に月と地上が破滅寸前に陥ったのだから、大変と一口で表現したがこれ以上ない程の危機だったとも言える。


 とは言えベシュメルクに関しては秘密の保持をザナエルク自身が主導していたしな。魔人と協力していたというような情報も今のところは出てきていないので、外部流出については心配しなくても良いのかも知れない。代わりに離宮で研究用に使われていた、ということはいかにもありそうな話ではあるが。


 そうして宝物庫の扉の前に到着する。立派な装飾を施された巨大な扉がそこにあった。

 宝物庫の鍵を管理していたのはザナエルクだが……これについては奴の私室から回収されたとのことで。

 クェンティンが六角形のプレートめいた鍵を扉の窪みに嵌めると、魔力の光が鍵穴から扉の装飾に沿うように四方に走っていき――そうして巨大な扉がゆっくりと奥へと開いた。

 そうして内部が魔法の明かりによって独りでに照らされる。まず最初に目に入ったのは一体の呪法兵だ。

 構えるが、魔力反応はない。そもそも動きを停止しているようだ。これも……ザナエルクの手によるものか。


「呪法兵に魔力反応はありません。魔法的な罠も――なさそうですね」

「不自然な物品の配置はない。普通の罠も……多分ないと思う」


 俺の言葉に続いて、シーラも言葉を続ける。

 魔力の動き等々に注意を払ってはいたが、呪法兵以外に魔法や機械的な観点から危険そうな仕掛けはなさそうだ。ザナエルクが鍵を管理していたのなら……まあ、立ち入りに利便性を優先するか。呪法兵であれば罠より強力だし、正規の方法以外の侵入者を選別して排除可能というのもある。

 宝物庫に入ってすぐの部屋は、呪法兵が配置されているだけの、何もない六角形をした部屋で、正面と斜め前方の3方向に通路が続いていて、その先の、更に奥の部屋に宝物が安置されている、という作りになっているようだ。


「王城の宝物庫は宝物の種類ごとに区画分けをしている」


 と、パルテニアラが宝物庫の作りについて教えてくれる。

 なるほど。分かりやすい収納方法だな。


「では、目録に目を通して僕達に必要そうなものを見ていくというのが良いでしょうか」

「うむ。妾も古い時代の物なら相談に乗れるが、新しい時代に収められた物までは把握しておらぬからな。それにこの部屋や宝物庫の前は広々としておるし、ある程度なら試す事もできるであろう」


 というわけで、最初の部屋で話し合い、ある程度目星をつけてから目的の品を探す、ということになった。目録を見つつ話し合う。


「今まで手に入れてきた品々、開発してきた品々もありますからね」

「確かに、装備品に関しては今の環境でもかなり充実しているわね」


 グレイスの言葉にローズマリーも頷く。


「それに武器が変わると、慣れるまでは結構大変」

「その点で言うと、私達は工房で調整できるから楽よね」


 シーラの言葉にイルムヒルトが同意した。

 武器か。確かに、あつらえて作ったものではないからな。愛用の品と交換して使い出す事に利点を見出すのが難しく、それ以外の魔道具も戦闘中に扱い切れるかどうかという部分に焦点が当たってくるわけだ。


「となると、やはり穴埋めになるような物品でしょうか? 弱点と言っても自覚するのは中々難しいところがありますが」


 と、アシュレイが言うとマルレーンもこくこくと頷く。まあ、そこは確かに。補強もしてきたつもりでいるしな。

 例えばローズマリーならチャリオットを得て前線に出やすい防御力と機動力を得たし、マルレーンもガシャドクロを部分召喚できるようになったことで、疑似的にではあるが当人が状況打開力のある大魔法に近い攻撃手段を放つことができるようになっていたりと、また戦法の幅が広がっていたりする。


「穴埋めというか、対応力を増やせるようなものがあると良いね」


 そう答えるとみんなも頷く。


「魔界探索に便利そうな代物も使わせてもらいたいところね。戦闘用の魔道具も、扱い切れるかどうかという問題もあるし」

「自律して行動可能な魔法生物なら、そのへんの負担も減るけれど。後は……加工可能な素材や、新しい魔道具の元になりそうな魔道書あたりかしら」


 ステファニアとクラウディアもそんな風に案を出していた。ブライトウェルト工房の技術も上がっているしな。


「そのあたりの線で妾も案を出し、外に出して問題があるようならその都度除外していけば良いと言うわけか」


 パルテニアラも了解した、というように頷いた。




 そうして、意見が出揃って方向性が定まったところで実際のところを見ていく。パルテニアラがいるので色々相談できるのが良い。


「――変身とは。また面白そうな呪法ですね」


 魔道書の目録の中に面白そうなものを見つける。


「そうさな。元は対象を無力な動物に変えたりする呪法であったが……仮初の姿を得たり与えたりすることで、魔界の変異の影響や地形による制限を受けずに行動できるように、という目的で開発が進んだ。術の対象となる者の元々の能力に依存するところはあるが、変身後の姿の身体能力を引き出せるようになっている」


 と、パルテニアラが教えてくれた。

 身軽な者は獣になってもその俊敏さが反映されるという具合らしい。鍛えた者ほど高位の存在に変身が可能になる、とか。


 変身による肉体や精神への影響が出ないように安全性も高められているそうだが……欠点としては術自体がかなり高度なために習得が難しい事や、魔力消費も大きい事が挙げられるらしい。術が悪用された場合の危険性もあるか。


「そのあたりはテオドール様なら安心ですね」

「そうさな。諸問題は解決されるであろう」


 エレナの言葉にパルテニアラが相好を崩す。そうやって信頼してもらえるからには管理には気を付けないとな。

 変身に関しては……豆粒に変身したら食われて退治された、なんて昔話もあるし、そういう意味でも扱いは難しいな。だが……魔界でも役に立ちそうだし、他の場面でも使えそうだ。

 魔道書を貰うというよりは、借りていって、習得させてもらうか。


 他に気になる品としては、中から招かない限り、外部からは認識ができなくなる呪法の天幕というものがあった。


「これは……敵地や危険地帯での野営に備えて作られたという代物でな。隠密性だけでなく、小さくなるので持ち運びも簡単。寒暖を遮断するので過酷な環境でも内部は快適。体力や魔力の回復も早めてくれるという優れもので、妾も魔界で探索する時はこれの世話になっていた」

「至れり尽くせりですね」

「うむ。何代かに渡って改良を重ねてきた魔道具らしいからな。再び魔界探索で使われるというのなら、開発に携わった者達も浮かばれよう」


 パルテニアラはそう言って笑みを浮かべた。これも、ほぼ決まりか。色々なところで役に立ちそうだ。


 素材関係としては魔法流体の生成と制御理論を記した魔道書というのがあった。

 簡単に言うならカドケウスのような性質の魔法素材を作り出すことができる、という内容だ。魔力を込めると相当な強度で硬質化したり柔軟になったり……。パルテニアラによればかなり応用の利く魔道具を作れるらしい。


 ただし魔法生物ではないので生成した流体は、自身なり魔石なりで制御する必要があり、手元からは離す事ができない。どこかで繋がっていないと霧散する。

 魔道具に応用するなら伸び縮みするフックだとか、小型の盾から瞬時に展開させて防壁を作るとか……ある程度決まった動きをする品にするのが良いのだろう。


「これは……アルフレッドが喜びそうね」

「色々作れそうだものね」


 ローズマリーが言うと、ステファニアも笑って同意する。


「カードボックスね。……中々面白いわ」


 と、クラウディア。掌サイズの小さな黒い箱の中から一枚、青白く光るカードを取り出す。魔法のカードを生成する魔道具らしい。


「札には術を込めておいて好きな時に発動ができる。魔法や呪法を札にして好きな時に使えるというべきか。だが、大魔法は流石に込めることはできん」


 魔法を込めた札は投げるか翳すなどして、一度は使わなければ新しいカードの補充がされないらしい。翳せばその前方に魔法が放出され、投げつければ使用者が目標とした場所まで飛んでいってから術が発動するという特性を持つ。

 使用した札は無くなるが、一日一枚の間隔で補充され、最大30枚ストック可能ということで……弱点の穴埋めや対応力を強化する魔道具としては非常に便利そうだ。


「エレナには目録から見る限り、このあたりの防具がいいのではないか?」


 と、パルテニアラは楽しそうに目録の中からエレナに何やら物品を紹介していた。エレナも真剣な面持ちで頷いている。

 何でも呪法兵にダメージを肩代わりしてもらえるドレスらしい。確かに、呪法兵を作り出し、複数体使役できるエレナであるなら、有効だろう。エレナの場合、後衛からの支援をするわけだから流れ弾等から身を守る、という点で保険としての話になるだろうが。


「黄金の蜂の巣……これは?」

「養蜂球の中にいる女王蜂に魔力を与えると魔法のミツバチを生成してくれる。女王蜂以外は仮初の魔法生物であるが、雑用やら偵察は勿論、与える魔力の質によっては戦闘にも耐えうるぞ」


 それはまた……便利そうというか面白そうというか。現物を見せて貰うか。

 流石はベシュメルクの宝物庫だな。珍しいものが色々出てくるものだ。

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