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番外404 未来へ託す想いは

 照明、風呂やトイレ、厨房や氷室などに魔道具を設置し、ミスリル銀線等も敷設する。個々の魔道具を使用する際に、個別の魔石に魔力を溜められるようにすると共に、地下のミスリル銀線とも接続して王城にある設備からの魔力供給も可能なようにしておく。


 転移門用の資材もシリウス号側に積んできているので、こちらも仕上げてしまう。

 神殿のような様式の広間の外周をみんなと共に作業して結界で覆い、中央に転移門を設置。門の意匠は……そうだな。片側の柱に始祖の女王。もう一方の柱に2人の巫女姫、というのはどうだろうか。


 と言っても、本人達の了解が必要だが。自分がモチーフになっているというのは些か気恥ずかしいというのもあるだろうし。


「門の意匠ですが……こういうのはどうでしょうか?」


 エレナとガブリエラ、パルテニアラに模型を作って相談してみる。

 片方の柱に手を差し伸べる始祖の女王。もう片方の柱に微笑んで手を組み、目を閉じている巫女姫二人の姿。


「ふむ。我らを意匠としたものか。ややこそばゆい気もするな。権力者の銅像というのはいかにも即物的で好きではないから……あまり写実的にせぬのなら妾は構わぬぞ。建国の理念と今回の出来事とを、記憶に留めておく、という意味では必要でもあると思うしな」


 パルテニアラはそれを見て冗談めかした口調で言った後、真剣な表情になってそんな風に分析していた。なるほど。モチーフにするだけで完全には似せない、と。


「そう、ですね。私も自分に似せられるというのは少し恥ずかしいですが……。ああ、これは……やはりバスカール様の杖なのですね」


 エレナは自分をモデルにした事より、片方の巫女姫がバスカール老の杖を持っている事が気になったようだ。


「それは……今回の一件で希望を繋いでくれた方でもありますからね」


 そう答えるとエレナは杖を握り、静かに微笑んで頷く。


「ありがとうございます。師も喜んでくれていると思います」

「私の……髪飾りも組み込んでくれたのですね」


 そう言うガブリエラは身に着けている銀細工の髪飾りに触れて言う。


「髪飾りも何か由来のあるものなのですか? バスカール師の杖のようなものがあれば意匠に、とも考えていたのですが」

「これは祖母が誕生祝いとして、手ずから作って下さったものなのです。こうした細工物が好きで、本当はそうした職に憧れていたそうですよ。入れ替わりが周囲に察知されないよう、新しく興味を持った趣味、という風を装って銀細工のできる環境を整えてもらったと仰っていました」


 入れ替わるために簡単な魔法や呪法も覚えさせられたそうだ。銀細工も工芸ではなく、身に着けた魔法による加工ということらしい。


「術の才能が全くなければ魔道具で誤魔化す、等の計画もあったようですね。秘密を明かした後、苦労話として聞かせてくれたのですが」


 ガブリエラが言う。

 なるほどな。ザナエルクとしても……そうした銀細工も魔法で加工してくれるのなら巫女姫らしくて丁度良いと自由を許してくれたのかも知れない。


「そういう事でしたら、転移門の意匠としても良いのかも知れませんね」

「はい。私からもよしなにお願いします。その……私も自分が元になるというのは些か気恥ずかしい気もしますのであまり似せない方が有り難いかなとも思います。けれど今回の事が後世に伝わるならと」


 俺の言葉にガブリエラは頷いてから小さく困ったように笑った。

 ガブリエラの髪飾りの装飾は細かなもので……術を身に着けた後も、ずっと腕を磨いてきたのだろうと思わせる品だ。きっとガブリエラにとっても、大切なものなのだろう。


 パルテニアラとガブリエラ、それにエレナもだが、三人とも柱の意匠を似せるのは恥ずかしいということなのであくまでモチーフに留める。

 女王と巫女姫というのが何となく伝わるデザインにして、杖と髪飾りだけは忠実に形を再現する。


 後は……そうだな。意匠が3人だけというのも味気ないし、もう少し細工を施してみよう。





 更に細かい意匠を施していくにあたり、ティエーラ達にも相談してみたが――。


「和解の意思を示すものですからね。私は構いませんよ」

「うむ。これから先々の為にでもあるからの」

「私達も否やはありません」


 ティエーラの言葉に、プロフィオンやマールも頷く。

 小さな精霊達も片眼鏡で確認してみると、ティエーラ達に同意するようにこくこくと頷いてくれた。

 そうして、精霊達からも同意を取り付けたところで、転移門の意匠の概ねの構想が出来上がる。

 草花や、踊る小さな精霊達の姿を門のあちこちに散りばめてみた。お陰で賑やかな物になったと思う。


「精霊との和解、ですか。門に込められた想いを忘れないようにしたいものですな」

「はい。これからもそうあり続けたいものです」


 クェンティンが転移門を見て言うと、エレナも頷く。


「門の意匠は……これで出来上がりというわけね」


 クラウディアが微笑む。


「そうだね。後は向こう側にも門を作ってくれば起動させられるかな」

「それじゃあ、行ってきましょうか」


 というわけで、クラウディアと共にタームウィルズに跳ぶ。

 通信機で連絡を入れて転移門の資材の用意はしてもらっているので、転移港側でも組み上げるだけだからな。こちら側の門の起動はお祖父さんや七家の長老達に任せておけば間違いあるまい。




 そうして、タームウィルズ側でも転移門を設置し、ベシュメルク側と連絡を取り合って起動させる。

 今度はクラウディアの転移魔法ではなく、転移門を使って向こうへ移動し動作確認を行う。光に包まれて……それが収まるとベシュメルク側にきちんと移動していた。


「おかえりなさい」


 と、グレイス達が微笑んで迎えてくれる。


「ん。ただいま」

「転移門も大丈夫のようね」


 クラウディアもそう言って頷く。


「これで……名実ともにベシュメルク王国の門戸も外に開かれたというわけですな」


 マルブランシュ侯爵が感慨深そうに呟く。エレナやパルテニアラもそれぞれに思うところがあるのか、その言葉に目を閉じたり頷いたりしている。


「門の移送についてはこちらの受け入れ態勢が出来次第、また連絡します」

「承知しました。その件については全面的に協力致しますので、何かお力添えできることがあれば、遠慮なく仰ってください」


 と、クェンティン。魔界の門に関してはフォレスタニアに戻ったら早めに仕事を進めていくとしよう。

 他には……バロメッツの苗木など、特産品を貰っていければと思うのだが。そのあたりの事を話してみるとクェンティンは頷く。


「では、それらは用意しておきましょう。それと、これは境界公のお話を皆様から聞いてマルブランシュ侯爵やバルソロミュー卿達と相談した内容でもあるのですが、門の管理や調査をお願いするのであれば、ベシュメルクの宝物庫にある品々や前王国の遺産に関しても境界公のお役に立つものがあれば活用して頂ければ良いのではないかという話になりまして。助けて頂いてばかりでは心苦しいので、御一考頂けますか?」


 クェンティンが言う。確かに……一方的に貸し借りがあり過ぎるのはお互いにとって健全ではないから固辞するよりも受け取った方がとも思うが。気を付けておいた方が良い事もあるのではないだろうか。


「それは……有り難い話ではありますが、外に出せないものもあるのでは?」


 そう言うと、パルテニアラに視線が集まる。


「では、妾も立ち会おうか。重鎮らが話し合って決めた事であれば妾の助言ぐらいは許されよう。死蔵しておいても持ち腐れであるしな」


 そんな風に言って、パルテニアラはにやりと楽しそうに笑うのであった。

 ベシュメルクの宝物庫か……。どんなものが収められているのかには興味があるな。

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