番外362 侯爵救出に向けて
「何だか、悪いね。こういう実験めいた事は、拒否感のある面々も多いだろうに」
「いや、構わんさ。というより、子供らも含めて皆協力したいと言っている。それも人徳だろう」
と、スティーヴンが笑う。
スティーヴン達と連係するためと、薬の投与量関係のデータを取るため。侯爵の救出を行う作戦を立てるためにそれぞれの能力を甲板で見せてもらう、ということになった。
こうしてスティーヴン達に動いてもらっている間にも、並行してシーカー達に情報収集を行ってもらっているわけだ。何時状況が動いても良いように、連係の精度は早めに上げておく必要もある。
「能力の種類を把握しておくことで、スティーヴン達が取りやすい作戦、取りにくい作戦も見えてくるからね。相手の意表をつかないといけない」
「敵が僕達の力を知っているが故に、裏をかきやすくなる、というわけだね」
レドリックが感心したように頷く。まあ、そういうことだ。
反動の度合いを調べる魔道具についても、個人用ではなく不特定多数から微小な差異を測定するための試作型を用意してきているので、それを使って調べていくわけだ。
「というわけで、順々に行こうか。始める前に今の体調の自己申告と……それから血を一滴この金属板に付着させて欲しい。ゴーレムの種類は変えられるから不都合があったら教えてくれ」
というわけで甲板に標的用としてアクアゴーレムを作り出す。
「あれに能力を使えば良い、ということになるのか。ああ。この前の作戦の後に薬は服用しているから、普段通りと見てもらって大丈夫だ」
と、率先して動いてくれるスティーヴンである。
というわけで肘の内側と言えば良いのか、よく注射をする部分をまず水魔法で浄化。続いて静脈の位置をしっかりと確認しながら痛覚を一時的に麻痺させる闇魔法を狭い範囲に用いる。
土魔法を用いて生成した微小な針を打ち込み、風魔法を利用して、血液を微量だけ吸い上げれば採血完了だ。
「ん? もう終わったのか? 全く痛みが無いんだな」
と、不思議そうに腕を伸ばしたり曲げたりしているスティーヴンである。
「痛覚は麻痺させたからね。針も先端が見える、刺さる瞬間を見るのが怖いとか、小さな子には思われそうだし、筒に隠しているから採血の瞬間も見えない」
そういう細かい魔法制御なら得意分野だ。マルレーンがにこにこしながらうんうんと頷いているので笑って片手を上げて応えると、シーラやステファニア、それにコルリス達動物組も反応してサムズアップを返してくる。うむ。
ウィズもいるから針に関しても加工精度はさらに上がっている。これは無痛針の理屈に合わせたものであるし、自分でも試してみたが、闇魔法も併用しているから採血の瞬間さえ分からなかったはずだ。後は針を一度使うごとに別のものに変える等々、衛生面に気を付けていれば問題あるまい。
スティーヴンにそんな説明をしながら金属プレートの窪みに血を付着させる。
プレートをバングルに装着させれば魔道具側の準備は完了だ。アシュレイが腕についた微小な傷口を塞ぎ、スティーヴンは魔道具を腕に装着してからゴーレムの一団と対峙する。
そうそう。スティーヴンの能力も良く分かっていなかったのだったが。
「俺の能力は――自身を中心とするある程度の範囲内の空間に呪法で干渉し、自身の動作に連動させるようにして干渉した空間を起点に衝撃波を撃ち放つ、というものでな。ある程度攻撃の性質を変えたり、手加減することもできる。ただ……いざ技を放った場合の、細かい範囲という面で制御するのはあまり得意ではない」
そう言ってスティーヴンが裏拳を見舞うような動作を見せると、離れたところにいるゴーレムの頭部が白い靄のようなものの発生と同時に弾け飛んだ。
衝撃波――。なるほどな。
だから広場で戦った時は、余波が仲間に及ばないように間合いを取りながら踏み込んでくる兵士達を退けていた、というわけだ。
スティーヴンの場合は発現した攻撃能力が高いものであったため、更なる調整によって能力を強化……というよりは扱いやすくした、らしい。
例えば衝撃波の基点を自身ではなく空間にする。動作に連動する。それらは衝撃波を制御しやすくするためのもので、作戦に兵士として従事しやすくするためのものであるのだろう。衝撃波の制御を誤って自分や仲間も傷つける、などということも減らせる。
手刀を放つように連動させることで、斬撃を飛ばしたりすることも可能になるわけだ。
だから、スティーヴンは計画初期段階の世代では、兵士として高い完成度を誇るとして後に続く世代のお手本のように言われていたそうだ。
「ま、連中に褒められても嬉しくはないがな」
そう言って、肩を竦めるスティーヴンである。
火力の強化や底上げよりも、制御に重きを置いたということで、限界値を引き出さなければ反動も緩やかであるそうで。経験を積んでいる分、どのぐらい能力を使えば、どのぐらいの薬が必要になってくるのかというのも十分に分かっているそうだ。それだけに、魔道具の反応に対する比較等々のデータ収集もしやすいというわけで……。
そうして少しの間、ゴーレムに能力を行使して、ようやく魔道具が初期段階での反応を見せる。何種類かの色で反動の度合いを教えてくれるというもので……スティーヴンによればこのぐらいならまだまだ薬は飲まなくても大丈夫、であるらしい。
そうだな。蓄積して体調不良を起こさせるというものだから……あまり強力で急性な毒や欠乏症を起こしても目的に沿わないということか。
だが、微量なら微量なりに体調に影響も出るだろうということで、進行度合いに合わせて微量の薬を摂取してもらう。それで魔道具の反応を落ち着かせ、そこからの比率で投与量を考えていくというわけだ。
後は薬が効いてくるのを待ち、投与した薬の量を名簿に書きつけていけば完了というわけだ。そちらは艦橋でローズマリーやクラウディアが準備を進めてくれているはずである。
「何というか……。兵士としての測定ではなく、これからの健康や暮らしのためという目的だと悪い気はしないものだな」
「そう言って貰えると助かる」
俺としては必要な情報収集とはいえ反動のある能力を行使してもらうということに申し訳なさのようなものを感じてしまうところがあるのだが。
「ふふ、そうやって気遣ってくれるから私達も協力できるのよ」
と、エイヴリルが微笑む。まあ……うん。不快じゃないというのなら、このままデータ収集を進めていくとしよう。
そうして、一通りスティーヴン達の能力把握や反動の個人差等々を調べ終わった。金属プレートには名前を刻んでおいて、完成型の魔道具に装着させればそのまま使えるという仕組みだ。後は数を揃えればいい。
まだ把握していなかった能力についても、色々と教えてもらった。レドリックの炎もそうだが、影を生み出して刃のように扱うとか、周囲の温度を低温にするとか、単一の何かを操るという能力を持つ面々が結構多い。
レドリックの炎操作にしても、単一の事象を操る能力でありながら色々バリエーションが出せるあたり、炎の術に熟練した魔術師に匹敵するぐらいの戦闘能力はあるだろう。
「このあたりは時間と共に、反乱防止の技術の完成度が高くなったから、なのよね」
「後方支援担当も、多く作り出す必要はないって言ってたものねえ」
と、イーリスとエイヴリルが言う。
なるほど。精神支配の技術、逃亡や反乱防止の技術も確立し……魔界に対応するため、戦闘向き能力を持つ者を増やす方向にシフトしたわけだ。
代わりに対応の幅を広げられるように色々なものを操って戦えるように目指していった結果、ということのようだ。
つまりそれは、新たに生み出す異能をある程度コントロールできる技術がある、ということだな。
施術の段階で何かしら、寓意を仕込む等していけば……。召喚をコントロールするように能力を引き出す結果に方向性を定めるようなことは可能、か?
そんな話をしていると、シーカーから聞こえてくる情報をチェックしていたシオンが言った。
「侯爵の処刑についての話が聞こえてきました……!」
そんなシオンの言葉に、みんなの視線が集まる。
どうやら兵士の詰所からの情報で、その際の日程や警備関係についての話をしている様だ。こちらも……動いたか。では、俺達も日程に合わせる形で動いていくとしよう。




