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番外361 裏の魔術師

 結束を高めるため、という名目ではあったが、宴会は中々楽しいものになったと思う。エリオットやテスディロス、オルディア達も料理や演奏等々楽しんでいたようだ。

 子供達にカードやチェスを渡してルールを教えたところ、随分楽しそうに盛り上がっていたのも印象的である。


 そうして……宴会も終わって一夜が明けて。

 シーカーを王都内部に送り込んだり、各種魔道具を作ったり、空中戦用装備を試してもらったりと、作戦を継続していく。


 ベシュメルクの王都に関しては……実際に潜入して結界の種類であるとか街並みの細かな部分であるとか、色々と分かった事も多い。王城はともかく、街中であればシーカーを送り込んでも問題ないだろう、というのが今現在の判断だ。

 侯爵の処刑についての日程等々の情報を収集するには、街中や兵士の詰所などにシーカーを送り込んでいれば集まってくるという面もある。


 そうして情報収集もしながら、甲板で空中戦装備の訓練をしていたスティーヴン達が艦橋に戻ってきた。


「いや、素晴らしいな。空中を足場に動けるというのは、それだけで色々と幅が増える」

「テオドール公の動きには及ばないが、参考になれば幸いだ」


 と、スティーヴンとエリオットは笑顔で言葉を交わしている様子である。エリオットとも境遇が重なる部分があるからか、結構打ち解けたようで何よりだ。空中戦の訓練にしても、エリオットは討魔騎士団を率いていたから一日の長があるしな。


「術式の書き付けや魔道具作りが終わったら、空中戦の訓練も手伝うよ」

「それは心強い」


 反動の状態を探知する魔道具に関しては……試作品の完成までは大して時間はかかるまい。

 血液の状態を探ると言っても契約魔法で変化の度合いを魔法的に見るというものだ。つまり最初に「通常の状態」を登録しておけば、以後の採血は不必要で、装着者の負担も少なめなものになる予定である。

 スティーヴン達に使ってもらう魔道具としては、後は呪法への対策装備などもあるが、これは元々予備も用意してきている。


 そうして準備を進めつつスティーヴン達にも空中戦装備に慣れてもらう、と。ああ。訓練は良いのだが、注意事項は念のために伝えておこう。


「ああ、そうだ。街中に潜入したり、何かの作戦で動く場合は、空中戦装備を使うのはまだ隠しておいてもらう必要があるかな」

「あれを使っていると、ヴェルドガル王国が後ろ盾についたと敵方に気付かれてしまうというわけね」

「それは気を付けておこう」


 ユーフェミアの言葉にスティーヴン達が首肯する。理解が早くて助かる。

 だが、スティーヴン達にも空中戦装備に関して訓練を積んでおいてもらうのは、いざベシュメルク側と激突するとなった時に心強い。だから、手札として伏せておくにしても習熟しておいてもらうのは無駄にはなるまい。


 ふむ……。状況は少し落ち着いているし、今の内に聞いておきたいことを尋ねておく、か。


「少し聞きにくいというか……思い出したくないことかも知れないけれど、実際に研究を動かしていた魔術師連中について情報収集をしておきたいんだ。そのあたり、聞いても大丈夫かな?」

「確かに良い記憶ではないが……話したくない等と言っていられる状況でもないさ。気遣ってくれるのはありがたい話ではあるが、そこまでヤワでもないしな」


 そう言ってスティーヴンは肩を竦め、静かに笑う。一緒にやってきたユーフェミア達も問題ない、というように頷き、艦橋のテーブルを挟んで向かいに座った。


「ディアドーラ=ファルコナー。それが研究の中心に居座っていた女の名だ。多分、テオドール公が聞きたい人物の名でもあると思う」


 ……女の魔術師、か。エレナに視線を向けるが、首を横に振る。エレナは知らない人物ということか。エレナ達が出奔した後で招聘されたか頭角を現した人物、ということになるかも知れない。


「計画に対しては……熱意というよりは、一言で言えば狂気と紙一重なところがあったわね。容姿に関しては、夢の世界を通して正確なところを教えられるわ」


 ユーフェミアが目を閉じて言う。ああ。それは助かる。容姿について、きっちりと押さえられるならこちらとしても対処しやすくなるし、仮に逃亡されても胸像等々を準備して足取りを追いやすくなる。


「平気で魔物と戦わせたり、能力の限界ぎりぎりを引き出させるような試験をさせるような奴だったわ。結果を出せば……流石私の子達だとか、愛しているだとか言って笑っているような、そんな奴よ」


 イーリスが言うと、エイヴリルも眉根を寄せて言葉を続ける。


「性格もなかなかイカれていたけれどね。物心ついた頃と脱走した頃と比べても全然見た目が変わっていなかったから、何かしら魔法的な延命処置をしている可能性はあるわね」

「……吸血鬼や魔人の可能性はどうでしょうか?」

「それは……どう、かしら? 誰かの血を見たり、他の魔術師に恐れられても、そういうところでは全く感情が揺らいだりしなかったようだけど」


 グレイスが尋ねると、エイヴリルが答える。ふむ。その話を聞くだけだと違う、ように思えるな。エイヴリルの見立てなら感情の動きについては間違いないだろうし。

 というか……研究や計画に積極的どころか、随分とタガの外れた魔術師のようだ。人間だと仮定して分類するなら……マッドサイエンティストのそれか。


「他の魔法研究については僕達も良く知らないけど、多岐に渡って関わっているような会話をしている事もあったかな」

「多分、ベシュメルクの裏の研究全般に携わっているか、全体像をある程度知っているぐらいの立場にあるか……」


 レドリックが言うと、スティーヴンがそんな風に言って頷いていた。


「裏の宮廷魔術師筆頭、といったところでしょうか。そんな輩が王宮に出入りしているなんて……」


 エレナが目を閉じてかぶりを振る。


「いずれにしても……遠慮はいらない相手だな。他の魔術師達にとっても主導的な役割を果たしているようだし、今回の一件で叩き潰しておくべき相手というのは分かったよ」


 そう言うと、スティーヴン達が揃って頷いていた。


「街の外れの、あの建造物については?」


 ステファニアが尋ねる。


「あれは……よく分からないな。街中に魔力を供給しているというのは……まあ、間違いないようだが。内部への入口が見当たらないから、丸ごと何かしらの魔法的な装置であるようだが」


 と、スティーヴンが思案しながら答える。


「あの建物は――建築様式に魔法的な意味を持たせているのかな。魔力が上で発生して下に向かって流れるに従って増幅されていて……ミスリル銀線で王都のあちこちに魔力を供給している。それは潜入調査をした時に確認できた……けど。それだけでもなさそうな気もするんだよな」


 名目通りにインフラとしても使われているなら安易に破壊すればいいというものでもないが……。

 魔法的装置であり魔力を溜め込んでいるような代物なら、迂闊に破壊したら爆発……なんてことも有り得る。

 建造物ではなく装置としての機能を突き詰めたものであるなら、内部に潜入するというのもやや慎重にならざるを得ない。迂闊に行うと、それだけで装置として齟齬を来たす可能性がある。


 というより侯爵救出に向けて動いている今は……まだ慎重に動く必要がある。

 スティーヴン達も住民には反感を抱かれないように慎重に立ち回っていたし、インフラ破壊に繋がりかねない行動は控えるべきだろう。

 逆に侯爵救出を成功させれば、そこからベシュメルクの裏の情報を得たと主張することも可能になり、エレナの事を伏せつつもう少し大胆に動くことも視野に入れられる。案外侯爵が何か知っている可能性もあるしな。

 あの建物については通常の情報収集は継続しつつも、侯爵救出後に具体的な調査を行うような形が望ましいだろう。

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