第42話「日本人として」
9月24日 ガダルカナル島 マタニカウ川付近
司令部テント
飯島少佐「この米軍搭乗員が落下傘にからまって動けなくなっていたところを捕虜にしたと?」
飯島少佐はそう出水中尉に問う。
なぜなら彼は小嶋が殺そうとしていた現場を収め、ここまで米軍パイロットを捕虜として連れてきたからだ。
出水中尉「はい、小嶋上等兵曹が見つけたのを私が捕虜にしました。」
出水中尉はそう言う。
中尾大尉「ハハッ、今の時期に"捕虜"か…」
岩吉大尉「あぁ…本当に今かって感じだ…」
2人はそう言って出水中尉の連れてきた捕虜に対して少し嫌な目をする。
出水中尉「な、なぜそんなに捕虜が嫌そうな顔をするんですか!この者はもう武装解除させてます!」
出水中尉はそう言う。
しかし、彼らが危惧していたのはそんな簡単な問題ではなかった。
飯島少佐「そこではない!」
出水中尉「っ!」
飯島少佐に怒鳴られて少し出水中尉は驚き、縮こまる。
飯島少佐「貴様のしたことは我々現在のガダルカナル島防衛隊としてはとても面倒なことをしたんだ!わかっていないのか?食料もまともにないんだぞ!」
飯島少佐は国際法の中の捕虜に対する扱いなどに関して悩んでいたのだ。
国際法では捕虜は大切に扱われなければならない存在であり食料ももちろん対等に分けなければならなかった。
しかし、当時の日本軍にはそんな余裕はなかった。
特に、"餓島"とまで呼ばれたガダルカナル島では…
そのことを踏まえた上で、一人の陸軍の少尉が言った。
とある陸軍少尉「処刑しましょう。」
出水中尉「は…?そんな、そんなことが許されるわけないだろう!」
とある陸軍少尉はそう言って処刑することを勧めた。
しかし、処刑などすればもちろん国際法には違反してしまい日本の立場を危うくしてしまう可能性も高い。
だが…そんなことは一人の上等兵曹の言葉でかき消されることだ。
「なんで破ってる側がそんなこと気にしないといけないんだ。」
実は小さい声でしか聞こえなかったが出水中尉にもこの言葉は聞こえていた。
だからこそこの現状に彼の言葉はとてつもない深さで心に刺さった。
出水中尉「…」
そう黙りながら隣に地面に座らされている米軍パイロットの顔を見つめる。
彼の顔は少し美しい顔つきだったが、その目にはもう光は灯っていなかった。
まさに、殺されることを確信した顔だった。
出水中尉「し、しかし!」
飯島少佐「処刑は!三十分後に行う。解散。」
そう飯島少佐はその場で決定し、司令部テントから解散するように命令する。
もちろん、中尾大尉も岩吉大尉もとても暗い顔で出ていった。
自分たちのせいで一人の捕虜が殺されることになったかもしれないのだと思うと、あの世で謝ろうとしても謝りきれないことだったからだ。
飯島少佐だって、やりたくてやったわけではなかった。
出水中尉「はっ…」
そうして、出水中尉は司令部テントから出ていった。
小嶋はその頃、一人で道を歩いていた。
新藤の崇拝する国際法と我らの軍規や身命のどちらが大切なのか、まだ彼にはわからない。
中尾大尉「よ、よぉ…小嶋上等兵曹…」
小嶋「…なんです」
中尾大尉はなんとか小嶋の中の張り詰めた心をほぐそうとしたが、今の小嶋にはそれはまったく通用しなかった。
中尾大尉「はぁ…まぁ冗談は置いといて実はお前の見つけた"捕虜"が処刑されることになった。」
小嶋「…」
小嶋はまだわからない。
はたして敵を殺すことこそがすべての正義なのか。
それはまた、悪に回ることなのか。
それは、誰にもわからなかった。
中尾大尉「と、とにかく今から陣地中央に行くぞ。すでにだいたい集まっている。」
そうして、2人は歩き出す。
たしかに陣地の中央の方にはすでにたくさんの人だかりができておりそれはまさに捕虜を囲む形でできていた。
草薙「あ、分隊長も来たのか。俺は正直処刑に反対だけどな。」
隼斗「私もですよ…」
新藤「…」
そこにいた3人のうち2人は処刑に反対する意見を口に出すが新藤ただ1人は何も言わなかった。
小嶋にあのようなことを言われて反対!と唱えられるわけがないのだ。
小嶋「…」
岩吉大尉「よく聞け!」
そうすると、岩吉大尉たちがきてついにざわざわした空気感をシーンとさせる。
すると、飯島少佐が口を開く。
飯島少佐「これより、処刑を執り行う。処刑人は誰だ。」
そう飯島少佐は聞く。
どうやらまだ処刑人は決まっていなかったらしい。
だから、緊急できまった。
とある陸軍少尉「貴様でよかろうそこの上等兵曹。」
その陸軍少尉は小嶋を指さしていった。
殺そうとして殺せなかった張本人に殺させようとしたのだろう。
俺、か…
あまり乗り気ではなかったが小嶋は返事する。
小嶋「はっ…」
そうして小嶋は銃剣を持っていた三八式歩兵銃の先端に取り付け、構える。
米軍パイロット「ぅ…うぅ…」
米軍パイロットは口に巻かれた布越しに訴えてきているように小嶋には見えた。
ただ"助けてくれ"と。
草薙「やめろ!分隊長!あんたはそんな人じゃなかったはずだろ!」
隼斗「小嶋さん!」
とある陸軍少尉「黙れ貴様らぁ!」
そうして陸軍少尉たちに地面に突き倒され、2人の頬に土がつく。
草薙「やめろぉ!」
隼斗「や…め…」
「…」
もはや小嶋には何も聞こえなかった。
心臓の鼓動がドクンドクンと響き続ける。
だけど…
だけど、あの人なら…
あの人ならどうするんだろう…
山田兵曹…
「お前は、日本人として生きろ。」
ただ小嶋には、その言葉が心にふたたび響いた気がした。
新藤「やめてください小嶋さん!…国際法などではなく、人として…人としてやめてくださいよぉ…!」
ふと隣を見ると、そう言って泣いている新藤の姿が目に入った。
あれ…?なんで視界がぼやけてるんだ…
小嶋の頬に、水のようなものが流れていく感覚がする。
俺…泣いてんのか…?
ハハッ…俺ってやっぱり…
小嶋「俺ってやっぱり…できないよな…アハハッ」
小嶋はその場で涙を流しながら三八式歩兵銃を落とし、膝まずいて言った。
第42話「日本人として」




