第12話 『ソムリエ』にあこがれていたことがあるらしいゲーマーのおっさん。
メイド隊が商館を訪れただけにも関わらずこちらの無理を聞き届け、大量の鉱物資源――金と銅を仕入れ、わざわざこんな僻地まで運んできてくれたのは――
「ええと、確かメイ○リン――」
「エイヴリンです!
エイヴリン・ヨークです!」
……そんな感じの名前の商人さん。
もちろんうちに、数十キロ単位の金や銅を購入出来るような金なんてあるはずもないんだけどね?
そもそも、そんな金貨があったらわざわざ金の地金なんて仕入れなくても、それを潰して使えばいいだけの話だし。
で、彼女から渡された『納品書』の一番上に書かれた金額なんだけど――『総額、金貨二千枚』。
……ンシュ村からの税収じゃ千年かかっても払えないような、えげつない数字なんだけど?
「いかがでしょうか?
内訳といたしましては金がおおよそ二十五キロに銅が二百キロほど。
それらの輸送費と手間賃を加えた額となっております」
いかがも何も『べらぼうに高いですね!?』という言葉しか出てこないんだけど……それはあくまでも金額だけを見た感想。
この国で使われてる金貨って一枚がおよそ十グラムだからね?
普通に考えれば『二十五キロ』=金貨二千五百枚。
金の地金のほうが金貨より多少は安いとしても、
「……これ、普通に見積もりを出したらこの金額じゃ絶対に無理ですよね?」
「あら……納品書をひと目見ただけでおわかりになるとは。
ヒカルさんは貴族様じゃなくて、本当に商売人なんですね?」
商売人じゃなくてただの(元)営業職です。
もちろん値引きしてくれるのはありがたいことなんだけど……。
「初めての取引ということで、だいぶ頑張ってくださったみたいですね。
でも……商売っていうのは、お互いの利益があってこそ続くものですよ?
ということで、『お互いに納得できる金額で』納品書を作り直してもらえますか?」
もちろん作り直したからといって払えるとは言ってないんだけどな!
「……ヒカルさん……ありがとうございます」
いや、そんなウルウルお目々になっちゃうような金額だったなら最初から無理しなきゃいいのに……。
そこから小一時間。
新しく出てきた請求書の金額は――金貨三千二百枚。
六割増しである。
当然銅貨一枚持っていない俺は全額『物納』となるわけだが。
ヨーク商会が欲しがっているのは『チョコレート』、『ワイン』、そして『工芸品』みたいで。
「……工芸品ですか?
それって、あれですよね? スイカ熊じゃないほうですよね?」
「……工芸品ですね。
そうです、スイカ熊じゃないほうです」
「……使うんですか?」
「……売るんです」
顔を真っ赤にして視線をそらすエイヴリンさん。
……いやこれ、絶対使うやつだよね!?
なんだこの『飛び込み営業でバイ○レーターを売る営業マンと若奥さん』みたいな、企画モノAVでしか見ないシチュエーションは!?
「……ちょっとここから話とか足とか広げても大丈夫ですかね?」
「もちろん広げるのは構いませんけど……ちゃんと責任は取ってくださいますよね?」
「ええとこちら、ワインを大量にとのことですけど……赤と白以外にもロゼやスパークリング、たぶん貴腐ワインも用意できると思いますよ?」
「……逃げましたね?」
話を商談に戻したのに、何故か不服そうな顔をするエイヴリンさん。
いやだってほら。
俺の後ろで立ってるヴィオレッタから物凄い圧が……ね?
ちなみにもう一人の娘さんは今日も狩りの真っ最中である。
「別にいいんですけどね?
……いいんですけどねっ!?
といいますか、まったく聞き慣れない言葉が出てきたのですが。
何なんですかその『ろぜ』とか『すぱーくりんぐ』とか『きふワイン』というのは?」
「ふふっ、よくぞ聞いてくださいました!
ロゼというのは……バラ色をしたワインですね。
あまり熟成させないワインですので味にはそれほどの特徴はありませんが、その美しい見た目から女性に好まれます」
「なるほど、確かにご令嬢が好みそうですね」
「続いてスパークリングは発泡酒……炭酸の入ったワインです。
よく冷やして夏場に飲むと美味しいですよ?
グラスに注ぎ光に当てるとその泡がキラキラととても美しく……こちらも(ホストクラブでボトルを入れる的な意味で)女性に好まれます」
「炭酸といいますとエールやシードルと似たものでしょうか?
泡がキラキラ……ぜひ一度見てみたいですね」
「最後の貴腐ワインはワインの王とも言われる珍しいワインです。
濃厚な甘みが特徴の女性に好まれるワインですね」
「……もしかしてヒカルさんは女性にモテたい願望がおありなのでしょうか?」
「……否定はしない」
というか俺が読んでた週刊誌で続けてソムリエとかソムリエールな仕事のマンガが載っててね?
ワイン系の話って読んでたらむっちゃ美味しそうに見えて、ついつい勢いでそれなりのお値段のを買ってみたんだけど……酒を飲まない人間がワインなんて飲んでも味がわかろうはずもなく。
何あの腐ったぶどうジュース……。
あっ、シャンパン――スパークリングワインはちょっとだけ美味しかった!
でも普通にサイダーとかコーラの方が俺はいいかな。
ちなみにその日の夜、それら三種のワインを試しに出してみたんだけど、
「このピンク色をしたワインはとても綺麗なのです!」
「これがスパークリングワイン……。
グラスの中で踊る細かな泡がなんとも幻想的な……」
「ほう……昨日飲んだワインも素晴らしかったがこれはまた格別だな!」
どうやら気に入ってもらえたようだ。
「そういえば、これらのワインの『めい』は何というのでしょう?」
めい? 「ト○ロ見えるもん!」みたいな?
「ふふっ、このロゼワインは『ルミーナ』なのです!」
「ではスパークリングには『リアンナ』と」
「貴腐ワイン……ワインの王には『アレクシア』がふさわしいと思わぬか?」
「いや、本人がいいんだったら好きにしてもらって構いませんけど……といいますか、アレクシア様は他所の子ですよね?」
「お前、そういう仲間ハズレみたいなのはあんまり良くないと思うぞ?」
「仲間ハズレみたいなんじゃなくて仲間ハズレなんですけどね?」
残った赤ワインには『ヴィオレッタ』、白ワインには『ジーナ』と名付けることに――
「なるほど、ヒカルさんに食い散らかされた女性はお酒に名前を残せると」
「そういうシステムじゃねぇよ!」
ていうかそもそも一人も食ってねぇんだよ!!




