第03話 予定からは外れてしまったが結果オーライなルミーナ嬢。
そんなホラー少女改め『闇の聖女様』の説法のような長い話が終わったかと思えば、今度はまた別の少女が自分の身にふりかかった不幸を語り始め、さらにまた別の子が自分が暮らしていた村にあったろくでもない因習を話し出す。
「(なにこの重すぎる不幸自慢合戦……)」
「(田舎にはろくでもない風習が多すぎるのです……)」
目と目で通じ合う俺とルミーナ嬢を他所に、ジーナさんの不幸とはまた違う方向性の話が百物語のように次々と語られてゆく。
「誘拐婚はこの村の男連中もやらかしてた……いや、あいつらのはただの強盗殺人、略奪行為だったけど」
「初夜権というのは、随分前に廃れた税制のはずなのですが……」
「夜這い……ひ、ヒカルはその、屋敷で暮らす誰かの部屋を、お、訪れたことはあるのか?」
「村の外へ山菜を採りに出たら、そのまま知り合いの男に山奥へ連れ込まれ……それはただの犯罪なのです!!」
「父親に無理やり……パパもジーナとそういう……」
「俺は絶対にそんなことしないからね?」
「フッ、ジーナにしないということは他の家族にもしないってことだよね?」
なんかこう、昔話というか都市伝説というか、地球でも聞いたことのあるようなないような話が出るわ出るわ……。
ていうかジーナさん、色んな意味で恐ろしい言質を取ろうとするのやめよ?
そこから小一時間。
ようやく少女たちの話が落ち着いてきたと思ったら――
「……今度はそれを聞いていた村の人たちが泣きながら自分の過去を話し始めたんですけど」
「予想外の展開すぎてミーナも困惑しているのです……」
いやね?
今回の大幅な『ンシュ村のテコ入れ話』なんだけどさ。
男爵家の三男が常識で考えればありえないような暴挙に出たこともあって、侯爵領――少なくとも北部の領民の関心がこっちに向いちゃったじゃん?
だから、そんな他所の人たちが不安を持つような行動に出るのは今は不味かろうという話になってさ。
当初の筋書きとしては、俺やアデレードさんが少し強引に事を進めようとするところに、ウルウルお目々のルミーナ嬢が胸の前で手を組んで涙ながらに、
「待つのです!
確かに、これまでその者たちは善良な民とは言えなかったかもしれません!
あなた達の言うこと、その行動……統治者としては何も間違ってはおりません!
でも……それでもです!
彼らは今でも、我がネレイデス侯爵家の民であることに変わりはないのです!!」
――みたいな?
『みんなに優しいお姫様』演出で場を収め、それでいて『次は無いぞ』と釘も刺す。マッチポンプな小芝居で丸く収めるつもりだったんだよ?
それが、いざ蓋をあけてみれば……。
『おかしな少女』が歴戦のアジテーターよろしく場を掌握、そこに過去に似た経験をした女たちが次々と乗っかって、気がつけば妙な団結ムードが出来上がっているという。
「……もうこの場はルミーナ様にお任せして俺は帰ってもいいですよね?」
「どうしてそれでいいと思ったのですか!?
そもそも『あの娘』はあなたに懐いているのですから、あなたが責任をもってどうにかすべき案件ではないですか!」
「死んだじいちゃんに遺言で『宗教と○○と○○には関わるな』と言われてるので嫌です」
「『無理』なのではなく『嫌』なだけならば何の問題もないですね?」
問題しかないんだよなぁ。
てかマジで、宗教とか自称活動家とか、他人の話聞かない連中に関わると俺の柔らか仕上げのハートがシリシリと削られちゃうんだよ!
「……今日の晩御飯はタコライスにするか」
「タコ!? このような内地にあの赤い悪魔がいるのです!?」
いや、そのタコじゃねぇよ。
* * *
そんなこんなの『村の再編成計画』の結果であるが。
「パパ! おっきいちびっこは、ちびっこであってちびっこじゃないから!
くっつくのも一緒に寝るのも禁止だから!」
「おねえちゃんはどうしてそんな意地悪を言うの?
それに私は『お父様』の部屋の床で寝るのであって、おねえちゃんのようにずうずうしく寝床に入れていただくようなつもりは最初からありません。
もちろん、お父様がこちらへおいでと呼んでくださるのなら……」
ジーナさんをおねえちゃんと呼ぶのはヴィオレッタ。
……いや、今はそんなことはどうでもいいんだよ!
君たちはどうして二人して俺の部屋のベッドの前で睨み合っているのかな?
というかヴィオレッタってそんな子どもっぽい話し方じゃなかったよね?
「俺は女の子を床に転がすとかしないけどね?
……だからといって、ベッドに入れるわけでもないから毛布をめくるのはやめようね?
あとジーナさんも人のふり見て我がふり直そう?」
「フッ、ここはパパの部屋、つまりジーナの部屋でもある」
「おねえちゃん、お父様のお部屋はお父様の部屋だよ?」
うん、女の子が二人してちょっとアホそうな会話をしてるのとか、見てるだけでほっこりする。
誰だ! 『本当はほっこりじゃなくてもっこりしてるんだろ?』とかくだらないことを言う奴は!!
もちろんそれも否定はしないがな!
いや、さすがにあのような目に遭った女の子に対してそんな不謹慎なことは考えてないんだけどね?
あと、不謹慎とおち……今回は自重しておこう。
というわけで!
『彼女』が屋敷にいることからも分かるとおり。
村の外から連れてこられた少女たちの中でもやたらと友好度というか忠誠心というか『もしかして:信仰心?』が高かった女の子。
ヴィオレッタを筆頭に合計五人の少女と、先に決定していたアニスとコリンの二人がメイドさん候補として『屋敷の仲間入り』を果たしている。
もちろん他にも『それなりに友好的(薄い青色ポーン)』な女の子たちから二十二人と、先にンシュ村から選抜されていた十七人は、新たに発足する『府都』の住民として受け入れることに。
ここまでが『新生ヒカル・コロニー』の新たなるメンバーとなる。
もっとも、その他にもおおよそ五十人。
「これからは心を入れ替えてご領主様に従います!!」
などと今さら調子の良いことを口にしてはいるが、おそらく反省もしていないであろう元村人たちと、
「村に戻ればまたどのような目に合わされるかわかりません!
何でもいたしますので、どうかこのままこちらに置いてください!!」
などと泣いてはいるが、こちらに協力しようという気も無さそうな少女たちが残ってしまったのだが。
「正直どうでもいいに一票」
「まったく、あなたは相変わらず投げやりな……。
ミーナもどうでもいいに一票――とも言っていられませんね。
どうせ村には空き家も多いですし、多少荒れてはいますが畑だってあるのですから適当に振り分けておけば良いでしょう」
というような首脳部のハートフルな会議の結果。
元のンシュ村の家を自由に使っていいと許可を出すことで、とりあえずの収まりをつけたのだった。
これでも当初予定していた『面倒だからアニスとコリン以外は全員追い出してしまえ!』という少々乱暴なモノに比べれば随分と温情のある沙汰だからな?
「あとは、村に帰ると言っている娘たち……たしか十人ほどでしたっけ?」
「正確には九名ですね。
全員、年少の子どもたちですので家が恋しいのでしょう。
もっとも、中には親を連れてこちらに戻ってこようとしている子もいるみたいですが……」
「今のところ、これ以上の受け入れ予定は無いのです!」
きっぱりと断言するルミーナ嬢。
ここを出た時点でただの他人である彼女たち、あまつさえその家族のこととか知ったこっちゃないんだよなぁ。
「それにしても……これだけの数の若い娘が戻らないとなれば、暮らしていた村の連中が黙ってるとは思えませんね」
リアンナさんの言葉に皆がため息をつく。
「今回……あの連中と一緒にやらかしたことで味をしめたゴミもいるだろうから『娘を戻せ』と言い出す奴も間違いなくいるだろうな。
そうでなくても親兄弟は当然のように騒ぐだろうし」
「……もしもそれで、こちらに高圧的に出るようなことがあれば――その時は『彼らが何をやったのか』を大々的に。被害のなかった村や町にまで事細かに広めてやればいいのですよ?」
不快そうに顔を顰めるアデレードさんに、ルミーナ嬢が目を細めて口角を上げる。
「ふふっ、おバカな人たちは村八分ならぬ『村村八分』にしてやるのです!!」
……悪巧みをしてる時はとても楽しそうに、そしてとても色気のある表情をする幼女様であった。
Q:どうしてヒカルはいきなりタコライスが食べたくなったの?
A:ほら、(にんじん)シリシリから沖縄料理つながりで?




