第48話 異世界で暮らす人々の強さにおののくゲーマーのおっさん。
侯爵家からやってきた、ルミーナ嬢の婚約者を筆頭とする使節団。
とはいえ、その実態は『侯爵家のほうから来た』だけの、粗暴な山賊集団みたいな連中だった。
上半身裸はまだしも(TPOに合っているとは言っていない)、中には下半身まで露出した変態泥酔者のような輩まで混じっていて。
もちろん、そんな手合いが近代兵装で待ち構えていた『ヒカル・コロニー』のメンバーに敵うはずもなく。
『対ネレイデス侯爵家・初戦』は、こちらの圧勝で幕を下ろした。
……までは、良かったのだが。
問題は、連中が引き連れていたおよそ五十人の女の子たち。
やはりというか、信じられないというか。
途中で立ち寄った村や町から、半ば力ずくで攫ってきた女性……女児たちらしい。
もちろん『一体何のために?』などと彼女たちに聞いたりはしない。
隊の中に下半身丸出しの男がいたくらいなのだ。
所構わず、そういう行為が繰り返されていたのだろう。
村で平凡に暮らしていたはずの、年頃……いや年端もいかない彼女たちががそのような目に遭ったのだし、その上で銃弾が飛び交う地獄にまで巻き込まれたのだか、精神を病んでしまう娘も出てくるだろう。
正直、何年も立ち直れず、言葉すら発せない子がいても当然だと思っていた。
……のだが。
「……いや、みんなメンタル強すぎじゃない?」
当日、その場では泣きじゃくっていた(一部サイコホラーと化していた)子たち。
元領主屋敷で保護されたその日の夜にはしっかりと、むしろ村の人間の倍ほども夕飯を平らげ。
汚れた体を少しでも清めさせてあげようと沸かした風呂に入り終わった頃には笑顔まで出ていたと、世話を任せていた村の娘が語っていた……らしい。
『らしい』とか、半分(戦闘)はお前がやらかしたことなのに他人事すぎる?
むしろ、男ばかりの集団に攫われた挙げ句、ひどい目に遭わされた子たちの前に男の俺が出ていかなかったことが気遣いなんだよなぁ……。
もっとも精神的に落ち着けば親を恋しがり、泣き出す子たちもいる……だろうと思っていたのだが、
「娘たちの半数以上がこのままこの村に置いて欲しいと懇願しております」
「……えっと、その子達は無理やり連れてこられたんだよね?」
「そのことに間違いはありませんが……彼女たちが暮らしていた村とて田舎の寒村。
ここ数日与えている食事にしても、他所では『ハレの日』に食べることが出来るかどうかという豪華な物ですし……。
年長の娘などは『鬼のようなあいつらから助けていただいたお礼を、ぜひ直接天使様にお伝えしたい』と申し出ているみたいですよ?」
「天使様? もしかしてルミーナ様のことなのかな?」
「いえ、ヒカルさんのことらしいです」
「なんでやねん」
とはリアンナさんの話。
どうやら彼女たちの世話をしていた村娘――通称『青ポーンちゃんズ』が俺についてあることないこと吹き込んだ結果らしく。
……後で知ったことだが、その彼女たちの情報の出どころはジーナさんだったんだけどさ。
何だよ、『空が光ったかと思うと、青き衣を纏ったパパが金色……白銀の地に舞い降りてきた』って!
『青いジャージのおっさん』が山の中に倒れてただけだわ!
「まぁ元気になったのはいいことだとは思うけど。
本当にみんなたくましいな」
「パパ、田舎ではジーナみたいな弱い人間は普通生き残れない」
「怖すぎだろ田舎!?」
あと、ジーナさんは明らかに『強い側』……でもないか。
俺が気づいてなかっただけで、ずいぶんと精神的に追い込まれてたみたいだし。
でも、サバイバル適性は間違いなくこのコロニーで一番だよな!
とまぁ、俺の想像の何倍も元気(カラ元気含む)な彼女たちが早くも日常を取り戻しつつあるなか。
「……なるほど、向こうに情報――派遣した連中が消えたと知られる前に、連中の領民に対する悪行を『侯爵家の非道』と『少女たちの悲劇』として広めるわけですね?
傷ついた少女たちを政治利用しょうとするとは……さすがルミーナ様」
「物凄く人聞きの悪いことを言うのは止めるのです!
……まぁ間違ってはいないのですが!」
俺の言葉にショボーンとした顔をするルミーナ嬢。
「申し訳ありありません、少々冗談が過ぎましたね」
やろうとしてることは確かに、現代の価値観で見れば非難されるような手法かもしれないけど……。
「いえ、彼女たちにとって不名誉な内容の話を広めようというのです。
それでも、こちらが先に動かなければ、
『侯爵家に恨みを抱き、自分の身体を使って虜にした婚約者を利用。
各地を荒らし回った、気の触れた先代当主の娘』
などという言いがかりを向こうからつけられてしまいますからね?」
そう、それでなくとも俺達がいるのは王都から遠く離れた北の僻地。
先に言いがかりを付けれれてしまえば、それに反論しようとしても取り返しがつかないほどのタイムラグが生じてしまう。
だから先にこちらから、
『何をトチ狂ったのか、領民の娘を攫い、凌辱していた侯爵家の使者。
そのような非道な連中でも、元は同じ旗を掲げた同胞だと心からの説得。
それでも聞き入れようともしない連中を涙を流しながら討伐した薄幸の美少女』
という『真実』を、手分けして広めているのだ。
「……泣いてませんでしたよね?」
「説得はしたのです!
距離が離れていたので相手に届いていなかっただけなのです!
それに涙は目から流れるものだとは限らないのですよ?」
つまり『顔で笑って心で泣いて』ってことだな!
もちろん、人数の少ない俺達なので、話を広めるための手間も最小限に。
攫われてきた子たちが暮らしていた村へと彼女たちを丁重に送り届け――ああ、しばらくは帰りたくないんだ?
……彼女たちを保護したと、暮らしていた村に連絡。
彼女たちの身に何があったかを『淡々と』語るだけ。
あとは、
「近くの村でも攫われた娘がいるかもしれません……。
手間をおかけしますが人助けだと思い、近くの村にも話を通しておいていただけませんか?
もちろん、我が主から手間賃は大いにはずむと聞いております」
などと伝えながら甘味を中心とした、持ち込んだ土産を渡せば、あっという間に周辺の村々にも話が広まるという寸法である。
……噂さえ広がれば、被害が出ていなかった村だって『今の侯爵家は何をやらかすかわからない』という危機感くらいは持つだろうし?
「別にこちらの味方にしようとまでは思ってはいないのです。
それでも、まともな貴族であれば、そのような噂のある家とは距離を取ろうと思うでしょう?」
そう語るルミーナ嬢の笑顔は実に楽しそうで。
「ふふっ。貴族の戦争は戦場だけで決着がつくものではないのですよ?」
一章『ゲーマーのおっさん、ンシュ村に立つ!! 編』ここまで~♪
引き続き二章『侯爵家騒乱編(仮)』もお読み頂ければ嬉しいです!




