第47話 作戦は成功! なれど地獄絵図……。
「いや、いくらなんでも遅すぎだろ!!」
ルミーナ嬢の『押し付け婚約者』――男爵家三男の某が王都からンシュ村に向かっているという話を聞いてからすでに一ヶ月。
ようやく南の峠を越えたらしい連中がマップの索敵範囲に入る。
途中どこで、どのような寄り道をしていたのかは知らないが……まぁ、そいつらの到着が遅れたおかげで、こちらとしては悠々と準備が整えられたのだから文句は無いんだけど。
ルミーナ嬢の隠し財産――見た目はただのゴツいだけの盾だが中身は金塊――のおかげで、全員分のアサルトライフルを揃えることもできたし、村の手前には高台を利用して簡易の『トーチカ』も複数建設できた。
もちろん『マジノ線』並の防衛施設などとは言えないが、ちょっとした隠れ要塞である。
「にしても……こちらが想定していた数より随分と多いな」
俺と同じようにマップを確認していたアデレードさんが、表示されたポーンを数えながら小さく呟く。
確かに、五十と予想していた人数が百二十ほどもいるからな?
「ヒカルの話だと『敵意のある人間』は赤く光るんだよな?
それなのに、どうしてこいつらは白いままなんだ?」
「それは……たぶん、向こうが俺たちを敵視していないからでしょうね」
俺はマップ上に表示されている大量のポーンを見ながらそう答える。
「連中はンシュ村のことを『敵地』ではなく、『保養地』だとでも思ってるんでしょう」
「……なるほど。自分たちが好き勝手に振る舞える村を敵視する理由はないということか」
「そういうことです」
「……しかし、そうなりますと逆に気にかかるのが」
リアンナさんが、不思議そうに俺の開いたマップの一点を指差しながら首を傾げる。
「マルコ・フォン・ロウリーユ。
この男だけが真っ赤に表示されているのはいったい何故なのでしょうか?」
「さあ、さすがにそこまでは……」
ルミーナ嬢の婚約者で、話を聞いただけでも色々とやらかしている男である。
それも、これまで十数年ほども、どこぞで隔離されていたとなれば……ねぇ?
それこそ『人類全てを恨んでやる!!』みたいになっていても不思議ではないわけで。
「といいますか、あちらこちらに混ざっている小さなポーンは……」
俺を挟んでリリアナさんの反対側、今度はルミーナ嬢が声を出す。
「……小さいポーンは……子どもですね」
それらのいつくかを順番にタップしながらそのステイタスを確認。
「五歳から十五歳の少女ばかり。
全員に状態異常の『衰弱』や『空腹』が付いてますね……」
「……なるほど、そういうことですか。
連中の足が遅かったのは道中で村や町に立ち寄っていたから。
そこで子どもを『道案内』などと称して連れてきたのか、あるいは無理やり攫ってきたのか、それとも……さすがに『村ごと焼き払った』とまでは考えたくありませんが」
「なんですかそのたちの悪いイナゴみたいな盗賊集団は……」
いや、こいつらって一応『侯爵家からの使節』として行動している連中なんだよな?
いくらなんでもそんな人間が、そのような悪評を振りまくような行動をするものだろうか?
「チッ、クズどもが……。
ヒカル! とっとと出向いて皆殺しにしてやろう!!
……と言いたいところだがどうする?
これでは予定していた『十字砲火』という戦術が使えそうにないが?
まさか、『子どもごとまとめて撃て!』などとは言わないよな?」
「言いませんよ! ルミーナ様じゃあるまいし!」
「ミーナだって、そこまで非情ではないのですよ!?」
「フッ、男だけ狙い撃ちすればいいだけ。ジーナなら簡単」
確かにその通りなんだけどさ!
言うは易く行うは難し……でもないか。
うちにいるメイド(アサシン)のみんな、数週間の射撃訓練でオリンピック選手並みの狙撃の腕前になってるし。
「――よし。今回はジーナさんの戦法を採用で!」
そのままテキパキと指示を出していく俺。
「配置は当初の予定通り、三人一組で!
赤薔薇隊は正面トーチカ、
白薔薇隊は右翼トーチカ、
黒薔薇隊は左翼トーチカからの狙い撃ち!
青薔薇隊は先発して森に潜み、逃亡兵の処理を担当。
俺とジーナさんは敵軍の別行動……している兵はいないようなので同じく先行して森に入って待機。後方からの奇襲と援護を担当!
戦闘開始の合図は、アデレードさんにお任せします!」
「「「「「了解!!!」」」」」
「……俺にとって大切なのは今この場にいる『家族』のみんなだけです。
少しでも怪しい動きをするようなら、子どもであろうと容赦なく処理してください。
後の責任、悪名などはすべて――」
そこで言葉を止めて部屋の中の全員を見渡し。
「ルミーナ様が持ちます!!」
「ミーナなのです!?」
だってほら、この場で『公式に責任が取れる貴族様』って、あなただけですし……。
* * *
――戦いすんで、日が暮れて――
「わかっていたことだが、鉄砲というのは本当に恐ろしい武器だな……」
「戦闘と呼べるものではなかったのです……」
まあ……ね?
相手は、鎧すらまともに身につけていない連中だったし。
なかには下半身丸出しの、どう見ても頭のおかしな男まで混ざっていたしね?
そんな彼らが、用意周到かつ士気旺盛な、近代兵装を備えた俺たち相手に勝てるはずもなく。
剣を抜く間もなく、何が起こったのかも分からぬままに、次々と撃ち倒れていった男たち。
さすがに数が多く、狙撃の必要もあったから「一瞬で終わった」とまでは言えないけど……それでも戦闘行為は、わずか一時間ほどで終了した。
「残った者たち……子どもたちに死者はいないようですが……」
奇跡的にというか、皆が気を配ったおかげというか。
跳弾での負傷者すら出なかったのは、不幸中の幸いだった。
とはいえ……目の前を銃弾が飛び交い、血を撒き散らしながら人が倒れていくという惨状。
そんな地獄のような状況に、いきなり巻き込まれた子どもたちはといえば……。
腰を抜かして座り込む子。半狂乱でうわ言を喚き続ける子。
一見取り乱しているようには見えないが、その辺に転がっていた石を拾い、無言で男たちの死体を殴り続けている少女までいて。
飛び散った返り血で真っ赤になった顔に髪を張り付かせ、何も言わず死体を殴り続けるのその姿……。
あれはヤベェ……ちょっと俺ではどうすることもできそうにないんだけど……。
「えっと、ルミーナ様……このあとの処理はお願いしてもよろしいですか?」
「逆に、あなたはどうして『よろしいと』思ったのです!?
……とはいえ、このまま放っておくのも忍びないですね。
かといって、彼女たちは私たちの三倍以上。
可哀想ではありますが、信用できないこれだけの人間を屋敷に連れて帰るわけにもいきませんし」
というわけで結論。
俺たちだけではどうしようもないので、村の全住民を呼び出して、彼女たちが落ち着くまで面倒を見てもらうことにした。
もっとも、現場の光景を目にした村の連中が『地獄絵図パートⅡ』を演じる羽目になるのだが……。




