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チート転生者に最愛の妹は娶らせない!  作者: 千早一
第1部:【FATE】恋愛は運命から始まる。物語は因縁から始まる。そして兄妹は……
22/42

第6章:その5

1章が長いため、分割しています。

今回は2000字くらいになっています。

次回からバトルに入っていきます。


「で~も~僕にはちゃんと嫁が居たんだよなぁ~プププ!」


「……嘘つけ」


「違うんだなぁ~それがぁ~エルシィちゃんにも負けぬ素晴らしい嫁が居たんだよぉ! 現実離れした最高の嫁がねぇ~」


「………………嘘つけ」


「本当の本当なんだよなぁ~テヘペロ♪」

 

 ザクズはペコちゃん顔を披露する。

 ――巨大ヒルのようなモノが口から出てきている。

 グールたちが「グロロォ!」と嘔吐する真似をし出す。

 信じ難いが、とりあえずシークはザクズの自己申告を信じてみることにした。


「……そんな人が居たなら、〈転生者〉になるなよ。幸せだった人生を大切にすれば良」


「2次元だけどねぇ! リアルじゃないから、満足できなかったけどぉ! やっぱ現実で何かできてナンボよぉ! デヘペロ♪」


 ザクズはアヘ顔ダブルピースをさらけ出す。

 ――巨大ヒルがブルンブルンと動き、あまりにも醜悪過ぎて、数人のグールが「オエエェ!」とリアルにリバースする。


(『2次元』……王都で話題になってる、第666世界から輸入された概念……)


 シークも「ウプッ……」とこみ上げてきた溜飲を堪えていた。

 ザクズは満足気に「可愛いのも罪だな……」と自画自賛した後、話を続ける。


「あんな2次元とかいう妄想の産物に依存してた時期もありましたぁ……ですが、今となってはこう言えるようになりましたよぉ……『2次元はバカがすることですね』ってねぇ……プププ!」




「……いちいち鼻につくクズ野郎だな、お前は」


 シークはザクズを非難する――堪忍袋の緒が切れた。


「かつてのお前も2次元に想いを馳せ、夢を抱いてた。少なからず、生きる気力をもらってたはず。それでも、昔の自分を……今も信じる者たちを愚弄するのか?」


「当たり前だろぉ! 今の自分が恵まれてるから、他人を嘲ることができるんだよぉ! マジでざまぁああああああああ!」

 

 ザクズは「当然のことを聞くなよぉ~」と人を小馬鹿にする態度で答える。

 それでも、シークは説法を止めない――彼の本性は不器用な熱血漢である。


「現在の自分がマシだと思った途端に、過去の自分を捨て去る。そして、あたかも自分とは無関係のように振舞い、他人をクソだと貶す。力に溺れた愚者がやることだな。だから、今のお前がいるんだ、過去を省みなかったからな」


「君みたいな偽善者よりは愚者の方がマシだと思うけどなぁ! お前はエルシィたそみたいな妹が現実にいるから、そんなキレイごと言えるんだろぉ?」




「エルシィが2次元の存在だったとしても、俺は一生愛する」




 シークは真剣に答えた――嘘偽りの無い本心だ。

 対して、ザクズは大袈裟に驚いた表情をしている。


「ヒ、ヒエェ~。こ、怖いわぁ~。さすがキ〇ガイシスコン……でも、冷静に考えてみろぉ? 2次元とかいう実現可能性0のボッタクリ創作物なんて無意味だろ! そう思うだろぉ?」


「思わない。人は夢見ることができるから、0を1の世界に変えれるんだ。そして、何度も不可能を可能にしてきた。想像するだけでも、意味は生まれてるんだ」


 

 ――シークの眼には一点の曇りもない。自分の言葉〝正義〟に責任を持つ。



「何もしなかったクズのお前が実現可能性0と断言する資格は無い」


「たしかにぃ~。君の言う通りだねぇ~。だって、僕は〈転生者〉として異世界オタクの夢とやらを実現してるもんねぇ~。コレってアイロニーに溢れてるよねぇ~むしろユーモア? プププ! 僕は〝クズ〟じゃなくて〝選ばれし者〟って現実なんだよねぇ~」



 ――ザクズの赤い瞳に光は宿らない。自分の居場所が分からない浮遊霊のよう。



「僕が選ばれたのって、神……いや、女神の悪戯ってヤツぅ? プププ!」


「……だから、俺は〈女神〉の出てくる話は信じないんだよ。ってか、お前は〈転生者〉になれたから、手の平を返してるだけだろ? なれてなかったら、どうせ今も2次元信者のままだ」


「そうだけど……それの何が悪いのかなぁ? 自分にとって都合良く生きることが最善の人生でしょ? ……僕みたいに〝選ばれし者〟になれないゴミたちは可哀想だねぇ~一生、2次元で我慢するしかないとか……マジワロス……プププ!」


「…………正真正銘の〝選ばれ死者〟だな」


 シークは諦めた


(『変わらねぇクズはただのドクズだ』か……これ以上は時間の無駄)


 ――〝ドクズ〟と断定し、救いようがない人間だと認定した。


(俺はエルシィのヒーローであって、世界のヒーローではない)


 彼は『誰でも救う』スーパーヒーローではない。

 ――本来は『誰も救えない』凡人。


(エルシィがいなかったら、〝クズ〟だった俺は、こんな〝ドクズ〟になってたのかな……だからといって、コイツを許すわけにはいかない)


 自分の〝正義〟の拠り所が思い浮かぶ――それだけで『頑張ろう』と思える。


(偽善かもしれない。けど、俺は『自分よりも大切な人』を守れることを、幸せに思うよ。ザクズ、俺はお前にならなくて良かった)


 シークはザクズを可哀想だと思った――ただ、すぐに同情の念は捨てた。


「……とりあえず、お前は2次元世界愛好家の皆さんに謝罪しておけ」


「NANANANA~NANANANA~まことにすみまメ~ラ♪」


「……おい」


「お詫びに……吟じますッ!」


 ザクズは大分前に流行った『ジョイ男踊り』を終え、凛とした立ち姿になる。

 ゆっくりと深呼吸をしてから、詩吟を詠い出す。


「エルシィちゃん~~~♪」


「……」


 シークは指輪を薬指にはめ、ブツブツと唱えた――〈無詠唱モード〉となる。


「ロリカワJS~~~♪」


「…………」


 指輪に口付けをし、またブツブツと唱える――〈ウルトラシーク1〉となる。


「……何だか今日ヤレそうな気がする~~~!!!」


「………………」


 ――勝負開始まで、残り1秒。


「あると思いま」




「『聖なる光が降り注ぎ、裁きの雷が共に下り、潜む刃は闇を切り裂きたり。十字の駒が再び成らんとするは悪を滅ぼさんとする正義の鉄槌。〈トール・イチイ・バル〉』!」




~つづく~

次回、5月3日23時までの投稿予定。


ご愛読ありがとうございます。

多めの分割になってしまい申し訳ございません。

次回から本章の後半部分に入ります。


できれば、GW中に終わらせたいなと思っています。

外出が厳しい現状ですが、皆さん良い連休を過ごしてくださいね。

もし本作で少しでも楽しみが提供できれば、本望です。


では、失礼します。


蛇足:

「縛り」とは、「パワーアップ」と換言できますね。

枷を掛けるとは、つまり制限。制限とは、転じてストレス(緊張、圧迫感、重圧、強制etc.)。ストレスとは、後の解放。解放とは、すなわちぱわ~うぷ。

よくある設定です。

「自分ルール」が良い例ですね。「テスト終わるまでゲームしない。できたらご褒美」とか。普段は勉強できないのに集中力が増す。いわゆる「背水の陣」です。枷を掛けることに失敗すれば死ですが(笑)


言葉遊びも一緒です。だから、詩や和歌で韻や字数で「縛り」を課しているのだと思います。しかも、昔の時代で既に世界中で共通した考えです、すごいですね。この「縛り」の中で上手にできるからこそ「趣」「おもしろさ」などが出て、自由に振舞える作品よりも逸脱したモノが現れるのだと思います。まあ、それに対抗して、自由度が高い小説などもあるのでしょうが……。それに私の元先生が言っていましたが(略)


要するに、魔法の詠唱で言葉遊びをするのは楽しいです。力が入ります。一方、下手です。難しいです。もっと上手くなりたいですね。

……後書きがながいっ!

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