想い
芽衣と得縷は草原で星空を見上げていた。草原には2人だけしかいなく、周囲に人はない。
期限まで残り数時間……。今から街にもどって能力を使い、誰かに感謝されればレベル100になることはできる。でも……私は迷ってる!!
芽衣はぎゅっと目を瞑る。
両親のこれまでの記憶、自分が神隠しとなったときの両親の悲しむ姿が思い浮かぶ。それと同時に得縷と過ごした楽しい日々、相談者から感謝される日々が思い浮かぶ。
芽衣は目を瞑ったままうつむき、苦渋の表情を浮かべる。
――どうすればいいのよ!?
芽衣の目からは涙があふれていた。
得縷はそんな芽衣を見つめる。
「芽衣さん……」
芽衣は顔を上げ、涙が零れ落ちている顔で得縷を見る。
「この3ヵ月間、俺は本当に幸せでした。こんなぎりぎりまで一緒に付き合ってくれて本当にうれしかった」
芽衣と得縷は見つめ合う。
「芽衣さんには本当に感謝してます」
得縷がその言葉を発した瞬間、芽衣と得縷の正面に真っ白な空間が出現した。
芽衣と得縷は驚いて、正面の白い空間を見る。草原と白い空間は芽衣の足のつま先を境界線として区切られている。2人は並んで草原に立っており、芽衣は一歩でも足を踏み出せば白い空間に入れてしまう。
ゲージの解説の音声が流れる。
「信頼度がレベル100になりました。地球へ帰るのであれば30秒以内に白い世界へ入ってください。芽衣さんだけが地球へ帰ることができます。30秒以内に白い世界へ入らなければ二度と地球へは帰れなくなります」
ゲージに30秒のカウントダウンが刻まれ始める。
得縷は一歩後ろへ下がる。
芽衣は振り返り、得縷を見る。
得縷は切なそうな顔で芽衣を見つめている。
芽衣は顔を白い空間に向ける。
――私は!!
カウントダウンが20秒を切る。
芽衣は苦渋の表情でカウントダウンを見る。
カウントダウンが10秒を切る。
芽衣は硬く目を瞑りうつむいて体を震わせている。
次の瞬間、芽衣は背中を押され、白い空間へと体が入る。
驚いて即座に芽衣は振り向くと、得縷が片手を伸ばして微笑んでいる姿が目に映る。
「得縷くん!」
芽衣は叫ぶ。
得縷はつぶやく。
「ありがとう」
得縷の言葉を聴きながら、芽衣は白い空間に落ちていく。
芽衣は気づくと、家の中に立った状態でいた。地球の自分の部屋である。
時刻は22時を回っていた。
芽衣はその場に崩れ落ちて涙を流す。
――3ヵ月後
芽衣は地球で以前と同じような毎日をOLとして過ごしていた。
両親をたまに旅行に招待したり、ごちそうしたりして親孝行をし始めた。
芽衣は椅子に座り、スマホをいじっている。
あれから3ヵ月か……。二度と会えないとはわかっていても、得縷くんに会いたいな。
――会いたい。
芽衣はため息をつき、お風呂に入ろうと、椅子から立ち上がる。
すると、真っ白い空間に立っていた。
芽衣は鳥肌が立つ。
美女が目の前に現れる。
「驚かれているようですが、二度と異世界に転移されないとは言っていませんよ」
「芽衣さんは一度地球へ帰られているので、今回は異世界への転移を断ることもできます。異世界へ転移する場合は前回のものが引き継がれ、能力はそのままでレベルも100のままです。地球へ帰るためには3ヵ月以内にレベル200まで上げる必要があります。そして地球へ帰ることができれば、また3か月後にこの異空間へ飛ばされます」
「どうされますか?」
「異世界に転移したいです! 得縷くんのところに転移させてください!」
「かしこまりました」
美女は微笑み、芽衣は半透明になっていく。
気付くと芽衣は得縷の目の前に立っていた。
得縷は突然目の前に現れた芽衣に驚いて立ちつくす。
「得縷くん」
「芽衣さん?」
2人は駆け寄る。
「得縷くん!」
「芽衣さん!」
2人は抱きあった。そして見つめ合い、笑う。




