第32話 動揺
『第一試練がクリアされました!! 第二ステージが解放されます』
聖暦905年6月7日(金曜日)午後9時に、ストラヘイムの上空から無機質な女の声が降り注いだ。
同時にストラヘイムの城壁の外、約1km南の大地が割れて巨大で光輝く塔が聳え立ったのだ。
ストラヘイム中の住民が外に出て、突如出現した夜空に光り輝く塔を見上げる中に混じり、二人の男もまた塔を眺めていた。
「第一試練の解放♬ ラーズっち、完璧に先をこされたにょーwww」
マスクをした茶色の髪の青年が、さもおかしそうに、闇色の髪をオールバックにした片眼鏡の男の肩に右腕を回す。
「クソがっ!」
片眼鏡の男――ラーズは悪態をつきつつも振り払った。
「多分、解放したのは、彼だろうねぇ♩」
「だろうな。この世界のゴミクズ共であのいけ好かない試練をクリアできるとするなら奴だけだ」
「うんうん、あのパズルだよねー♪ まさか、あのグリムでさえも解けないとは意外だったなぁ♬」
「だが奴には解けた。あの下らん試練をクリアするには、奴が必要ってわけか。殺すのは少し待ってもいいのかもな」
「なーに、心にもないこといってんのぉ? 元々、殺す気なんてこれっぽっちもないくせにぃwww」
マスクの茶髪の青年は、ラーズに近づくと、肘でその腹部を小突く。
「何言ってやがる。殺そうとしたら、お前が止めやがるんだろうがっ!!」
「当然さぁ、あの子供とは思えぬ強さに、狂気性、そして何よりあの偽善者共を死ぬほど憎んでいるぅ♪ 彼は僕ら側の人間さぁ♬ 引き入れる以外に選択肢などないからねぇ♪」
「けっ! 奴は危険だ。見る度に別人のように強くなってやがる。早く排除しておくべきだと思うがな」
「あんれぇ、闘争大好きっ子とは思えぬ発言じゃなーい?」
「誤魔化すな。ネロ、お前、どういう腹積もりだ?」
「うーん、ただ、最近さ――いや、少し疲れただけだよ」
初めてマスクの茶髪の青年――ネロからふざけた態度が消失し、ラーズからある商店の看板に視線を移すと首を左右に振る。
「お前――」
「大丈夫さ、僕は止まらない。いや、止まれない。そうする権利はもう僕にはないからね」
ラーズの発言を右手で制し、寂しそうにそして、力強くそう宣言する。
「ならいい。ちょっくら、俺はあのダンジョンへ潜ってくる」
「はいはーい。気を付けてぇ」
ラーズは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、紅の炎と共に姿を消失させる。
「ラーズ、僕はね、もう一度会いたいんだ。だって、きっと――」
ネロの小さな呟きは、路上の喧騒に遮られ消えていってしまった。
お読みいただきありがとうございます。
三章に入りようやく、アストレアに続きカーディナルシンズの面々もでてきました。三章は彼らもストーリーに深く食い込んできます。お楽しに!
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