世論の悪化
自衛隊との戦闘により停電していた地域も、住民の依頼により電力会社が復旧したが、都市ガスに関しては供給が停止されたままである。
それでも驚く事に、市内のホテルは全て営業しており、割り増し料金を設定してもほぼ満室であった。
これは、日本国内のマスコミだけではなく、世界中のマスコミが札幌へ押し寄せ様々な取材を行っており、札幌駅前に国際メディアセンターが開設されるほどである。
昨日の交通事故の対応をめぐって、占領下と言う事で控えめであるが、マスコミが取材をしていた。
果敢に、日本語の話せるカバラ皇国兵士にインタビューすると、彼らは口々に「当然」「当たり前の事」と語っていた。
現場では、淡々と報道しているが、スタジオではカバラ皇国の蛮行に対して
右派っぽい人:「まさに蛮族! 共生など無理! 殲滅しろ!」
歴史家 :「日本で言えば平安時代にも劣る!共生は難しいだろう」
宗教家 :「宗教観が無い事が原因、共生するには宗教・道徳の育成が必要」
人類学者 :「現代で言えば、アマゾンの少数民族と一緒に暮らすような物」
社会学者 :「恐怖政治の一端と言えるでしょう。この政治体制での共生は困難を覚悟する必要がある」
教育学者 :「子供の教育に悪いです。やられたら同じ事やり返すなんて野蛮な考え、共生するなら教育から改革が必要」
左派っぽい人:「これは矢部総理の失政の被害者と言えます、矢部総理の元での講和には反対です! どう共生していくか道筋を示す必要があります」
普段は異なる意見で対立しているコメンテーターが、この件はある程度同調し、激しい非難が繰り返し放送されていた。
普段はカバラ皇国寄りのネット上も、交通事故で即死刑と言う事でドン引きである。
カバラ皇国との早期講和交渉の開始を望む声も、ほとんど聞こえなくなってしまった。
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宮脇は、死亡事故とは言え、交通事故で即刻斬り殺した件に関して、セシリアを咎めた。
「運転者もわざとやった訳ではないのに、その場で斬り殺すなんてやり過ぎだよ!」
「宮脇様、妾達は、魔法も使え剣や弓を常に手にしております。それで、間違いで何も関係ない人を殺めてしまって、お咎めなしとはなりません。車と言う、人を殺す事が出来るものを操っているのですから、責任は取って貰うのは当然です」
「殺すのはやり過ぎだよ、刑務所に入れるなどやりようはあるだろ」
「刑務所と言う物はカバラ皇国にはありません。仇討ちであれば、その真偽を確認しますが、仇討ち以外で人を殺してしまったら、死んで貰います。腕を斬ってしまったら、腕を斬りおとします。与えた事と同じ罪を償って貰うだけです。」
「目には目をってやつか・・・これ以上話しても無駄なようだ。しかし、今回の事件でせっかく良い方向にあった世論が、最悪の状態になっているぞ」
「世論と言うものは、そんなに大事でしょうか?」
「民主主義政治と言うのは、一般国民が選んだ指導者により政治を行うんだ、世論を無視した政治家は、次の選挙で落選してしまう。世論は大事なんだよ」
「どうすれば世論が味方してくれますか?」
「カバラ皇国のありのままの姿を、マスコミを使って伝えれば、日本国民はきっとセシリア達を支持すると思う。実際、僕や満子さんもそうでしょ?」
「ありのままの姿をどうやったら伝わりますか?」
「僕はマスコミを地下迷宮都市へ招待しても良いと思うけど、色々と難しいかい?」
「妾達の秘密のひとつですから・・・しかし、それしかありませんね」
「何度も言うけど、和平となった場合には、誰かが責任を取らなければならない。君達がやった事は、この世界では許される事じゃないんだ」
「宮脇様、妾はその覚悟は出来ております。臣民が幸せに生きて行く事が出来るのであれば、妾や各族長達は、どのような処罰も受ける覚悟です。」
「そうか・・・処罰で済めば良いが、カバラ皇国の政治体制そのものを否定される可能性があるけどいいのか?」
「はい、多くの臣民が平和に自分らしく暮らして行けるのなら、構いません」
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札幌に自由が戻り数日間、カバラ皇国と自衛隊の間で戦闘は発生しなかった。
空爆も市民からの要請と、カバラ皇国側が地上に兵力の集中地点を作らなかった為、実施されず、戦車や装甲車に関しても一般車両が市内を通行している事で、札幌への侵入は控えており、こう着状態に陥っていた。
そして、セシリアの許可がおり、MHKが撮影する、地下迷宮都市内部の生放送が始まった。
遂に、地下迷宮都市の全貌が明らかになる時、世界はどう反応するのか・・・