影武者
セシリア達は会談の前に族長達への説明の為に地下迷宮都市へ戻る事にした
白旗山の林道に宮脇のランドクルザーを止め、満子がホームセンターで買い込んだ野菜の種を持てるだけ持ってシラハタヤマ出入口へと向かった。
ここまで協力して貰った事もあり今回は宮脇も一緒に地下迷宮都市へ戻った
「宮脇様、今回は時間に余裕がありませんので地下迷宮都市のご案内は出来ません」
「分かってますよ」
「宮脇殿、今は構いませんが地下では陛下に敬意を持った態度を取って頂かないと誰かに問答無用で斬られる可能性もありますのでお気を付けて下さい」
「ひぃぃぃ承知しました・・・」
地下迷宮都市に入ると多様な種族が闊歩しており目に入る物全てが信じられない物ばかりで宮脇の脳は処理の限界を超えてしまい観察する事も考察する事も出来ずただ口を開けきょろきょろと歩くしかなかった。
「族長の皆さまアニーとトニーを通してある程度の状況は伝わっていると思いますが、今回の日本政府との会談について説明いたします」
セシリアが話し始めるとそれを遮るようにボレリウス=ドラコニュートが一歩前に出て話した
「はっきり言わせて貰いますりゅ、陛下の独断で奇襲が難しくなってりゅ、考え直して頂けないでしょうか?」
それを聞いたセシリアは一呼吸おき周囲を見渡してから
「妾は数日間街で生活し日本人は攻撃的な種族には思えませんでしたので、どうしても話し合いで解決したいのです。その為ならこの命掛けても良いと思ってます」
しかし族長達はセシリアに同意する事がない様子で
「危険すぎるウォ!別に陛下直々に会談する必要はないウォ」
「ならぬ、殺されなくとも陛下が人間共の人質になってしまうアルよ」
「妾にはその覚悟は出来てます。」
「陛下が人質となってしまえば我ら手も足もでないりゅ」
「そもそも話し合いなど無駄でりゅ、話し合いで領土を分けてくれる者などいないりゅ」
ボレリウス=ドラコニュートの言葉に各種族長が同意しセシリアに詰め寄るが
「国は亡べば終わりです! 戦争はやり直しがきかない! それなのに皆は戦がしたいのですか? 何故解って貰えないの!」
「ですから相手の不意を突いた奇襲しか勝つ見込みがないのです」
「戦がしたいいんじゃないアル。戦するしかないアル。解ってないのは陛下アル」
「それでも陛下直々に会談する必要はないザンス」
セシリアの考えに対し穏健派強硬派の両方から別な反対意見があり結論を出せない状況の中、奥から男女二人のリリス族が入ってきた
「私が影武者として同行いたします人間には私と陛下の区別は付きません」
「シーリ姉さま・・・」
「無益な戦がどのような結果になるのか、先の戦で身に染みております。陛下のお命は私がこの身を盾にお守りしますので、日本人との会談をお認め下さい」
「アルベルト義兄さま・・・」
最後にヨエルが妥協案を提示する
「幸いにも会談の場所は真駒内駐屯地である、ここは既に奇襲の為の出入口の準備が出来てます。陛下に交渉をお任せしていざと言う時には用意した奇襲作戦を実行し陛下の救出も同時に行うと言う事でどうでしょうか?」
強硬派の族長達もこれには渋々了承するしかなかった
「陛下よろしいですね?」
「はい、奇襲の判断は誰がするのですか?」
「私ヨエル=エルフにお任せ下さい。日本人の事も札幌の街もここにいるどの族長より理解しております。ただ自衛隊が陛下に武器を向けるようなら直ちに作戦を実行します」
「ヨエルは残り奇襲判断を一任しますが、くれぐれも慎重な行動をお願いします。妾の命より1000万の臣民の命の方が大事です。」
「陛下、分かっております。私も日本人との争いを避けたいと言う気持ちは陛下と同じです」
「日本と戦になればどれほどの命が失われるか十分に考えて行動して下さい」
(妾が上手く交渉をまとめれば戦は始まらない。妾が失敗すれば戦が始まる。全て妾の責任・・・)
セシリアの心は困難で重大な役目に潰れそうになっていた
その様子を後ろから眺めていた宮脇は、言葉は理解出来ないがその雰囲気で話し合いではなく戦を求めているが解った
(これが現実か、精神的には戦国時代の武将か帝国陸軍士官に近い感じなんだな・・・これで上手く話し合いで解決出来るのだろうか・・・)