その3 ロク班の鉄則
バズーが武器を背負い始めた。ブイ、ライ、キーンも出撃の準備をしている。それを見守る、ロク、ダブル、キキ、ホーリーたち。日は完全に暗くなっていた。ロクらは崩れかかったビルの中でキャンプを張っていた。明かりは、微かに光るライトが一つ。
「夜になると流石にこの辺でも冷えるな?毛布だけで大丈夫か?」とロク。
「間違っても火なんか起こすなよ?向こうも熱感知くらい装備してるぞ!」とバズー。
「ああ・・・それでどこから、侵入するつもりだ?」とロク。
「そうだな?やはり志村口かな?」とバズー。
「あそこはP4が封鎖したのでは?」とホーリー。
「SCは無理としても、人ひとりくらいなら入れるんじゃないか?なあキーン?」
「そうだな。まあ入り口に行けば分かるよ。なんせそれしか手掛かりが無いんだからな?」とキーン。
「俺はいつ出ればいい?」とダブル。
「朝まで取り付けばいい。」とバズー。
「わかった!」
「なら行くぜ!後は任せたぞロク!」とバズー。
「そのセリフ嫌いだ!」困惑するロク
するとバズーら12名は暗い荒野に消えて行った。
「頼むぞ・・・バズー・・・」バズーらを見送るロク。
「あいつが陸戦で死ぬ奴かよ?」ロクの肩を叩くダブル。
「それにしても、多すぎよ。ここのジプシャンの数・・・異常よ!」嘆くホーリー。
「なぁ~に心配するな。それより飯にでもすっか?」とロク。
「そうだな!」
ある廃墟の一室。無線機が置いてある机が一つ、男がイスに座っている。薄暗い部屋にライトは一つだけ。男は机を背に微動だにしている。その部屋にある男が入ってくる。
「タケシ様!」
イスに座っていた男が、イスごと振り返るとそこにいたのは二十歳頃のタケシだった。入ってきたのは当時の嶋。
「何だ?」
「北25キロ地点で、トラックを確認しました。我軍の物ではありません!」
「P5かP6か・・・」
「恐らく・・・」
「どうやら、他のポリスはここを陥落させたくないようだな?」
「はい・・・」
「しかし、さすがP4・・・一筋縄ではいかんな。今回はどうするか?」
「ここを孤立させる為に、全ての援軍は潰すべきかと・・・」
「まあ待て。死神が焦って、前の隊を全滅させたのは誤算だった・・・今回は入れてやろう。」
「敵の入口ですか?」
「そうだ、未だ突破口が開けないんでは、埒が開かん。こいつらには案内役をしてもらえ。」
「なるほど・・・」
「死神にはそう伝えろ。あいつはそういう駆け引きには慣れてないからな。」
「すぐ死神隊に使いを出します!」敬礼をして部屋を出る嶋。
「頼む・・・」
ロクらが張ってる廃墟のベースキャンプの一室。キキと陽が他の兵士の食事を用意していた。
「あ、あの・・・」と陽。
「なんだい?あんたもさっさと・・・」とキキ。
「うちの班長は、四天王で間違いないんですか?」
「しっ!今度その質問したら、今度は私がぶっ飛ばすわよ!」拳を振り上げるキキ。
「す、すいません・・・」
「まあいいわ。教えてあげるわ!」
「はあ・・・」
「本当は、あの人は四天王になりたくはなかった・・・」
「う、嘘です!ここにいるみんなは四天王になりたくって・・・」
「しっ!声大きいって!」人差し指で静かにのポーズをするキキ。
「あっ・・・」
「3期はバズーあっての3期でしょ?それを差し置きロクだけが四天王になったのが、本人には嫌だったみたいよ。」
「そんな事って・・・」
「戦闘能力っていうか、なんだろう?どっちかと言うと策士なんだよね、あの人?」
「そうですか・・・」
「ああ、ロクの前では今の四天王の話は禁句よ。それと・・・」
「それと・・・?」
「ここでは彼の命令は絶対なの。バズーですらロクの命令を聞くからね・・・それと、ロクは殺しはしない。だから彼が躊躇したら私たちが迷わず拳銃を抜く。そして撃つ!それと彼の後ろでは銃は抜かない。撃たれるわよ。それと・・・」
「ま、まだあるんですか?」
「もちろん、彼の“何とかする”は絶対に宛にしちゃ駄目。それと・・・ここ重要!!」
「は、はい・・・」キキの言葉に陽は直立した。
「彼を好きになっては駄目!」
「ま、まあ、それはないですな・・・」安堵の陽。
「それならいいけどね・・・さあ仕事仕事!」
「はい!」
夜の荒野を移動するバズー班。時折遠くにSCのライトが見え隠れする。その都度バズーらは崩れた建物に身を潜める。
「簡単過ぎないか?」とバズー。
「そうだな。敵の動きが妙な気がする。」とキーン。
「罠臭いか?」とブイ。
「そろそろ、敵と遭遇してもいい頃だが・・・」辺りを警戒するバズー。
ロク達がいるキャンプ。ダブルとモスキートらが出撃準備をし始めた。第2陣部隊である。そこをキキが遠くから、ダブルを見つめている。ダブルもキキに気づき、みんなに気づかれないようにキキに近づく。
「もう行くの?」とキキ。
「バズーらが心配だ。」
「気をつけてね。」
「キキもな・・・」
「あれ?心配してくれるんだ?」
「心配してねぇし・・・ロクのとこじゃ大丈夫だよ。」
「あんなに私がロクの班にいる事、嫌がってたくせに・・・」
「戦場じゃあいつを信用してる。悔しいがな!」
「うふふ、その辺は男同士しかわからない絆ね。」
「ああ、それじゃあな!」
「うん・・・」
ダブルが、周りの様子を伺いながらキキに顔を近づける。キキもそっと目を瞑る仕草をする。
「あらあらお二人さん。勤務中よ!」
慌てて離れ、声のする方に振り返るダブルとキキ。そこにはニヤニヤした顔で二人を見つめていたホーリーとロクがいた。キキは赤面になってその場を走り去って行く。
「お、おい?キキ!・・・な、なんだよ!デカ女!ロクも・・・いつからそこにいた?ほんといつもいい所を・・・」
「あれ?私たちの気配が気づかないほど油断してたのかしら?」
「ソルジャーとしては失格だな・・・」とロク。
「お前ら、いつもいつもいつもいつも・・・」
「デート気分で、戦場に来てんじゃないわよ!まったく!」
「最後かもしんないんだぞ。いいじゃないか、ちょっとくらい!」
「ちょっとで済むかしら?規則ばっか破る常習犯が!」
「おいおい、ホーリー。もうそのへんにしなよ。今回は未遂という事でだな・・・」とロク。
「うちの班長が、こんなに甘いからキキは罰せられないわ!女の身にもなりなよ!このチビすけ!」
「うるさいな!俺は規則なんか怖くないからな!デカ女!」
二人が言い争っていた時、モスキートが準備を終えこの輪に入ってくる。
「準備はいいんだけど・・・後はうちの班長待ちなんだがなあ?」
「はいはい、今行く・・・いいか、ホーリー!いつかぶん殴ってやる!」とダブル。
「いつでも相手してやるわよ。おチビちゃん!」胸を寄せ、わざとセクシーに挑発するホーリー。
「こ、こいつ・・・ロク!ちゃんとこの女、躾しとけよ!」呆れるダブル。
「はいはい・・・」二人に呆れるロク。
「それと、キキに何かあったら俺様が許さんぞ!」
「心得てますよ!」とロク。
「それじゃあ、ダブル隊!行くぜ!」
ダブルの班は真っ暗な荒野へと歩き始めた。ダブルは最後尾につき、キキが走り去った方向を向きキキを捜す。するとトラックの陰からちょこんと顔を出してダブルを見つめるキキを見つけた。ダブルはキキに敬礼すると、キキも敬礼をする。荒野の東側には丸く大きな月が昇り始めていた。