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四天王  作者: 原善
第五章 カラー・フィールド
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その2 瓦礫の街

世に言うP4の激戦・・・ポリス最大の施設、第四ポリスは今から3年前に陥落した。場所は現在の防衛庁とも、皇居とも言われている。


 P4は高い崩れたビルに囲まれ、30年もの砂嵐でも砂に隠れなかった正に『瓦礫の要塞』だった。基地の100パーセントが地下に位置し、SCやサンドシップも近寄せないP4は、ジプシャンにとっては難攻不落の要塞と言ってもおかしくはない。しかし、補給も支援も出来ないという短所もあり、当時P5やP6の支援部隊の犠牲は計りしれない物があったと言う。しかし、ジプシャンにとってはP4を陥落すれば、P5、P6の平地のポリス陥落は容易なのは確かだったのだ。ジプシャンは全ての兵力を持ってP4攻めに注いでいた。



 3年前。P6北ゲート前。東の空が明るくなった頃、36名のプロジェクトソルジャーが最後のミーティングをしている。

「“陽”という奴はいるか?」

 ロクの周りには10名程の兵士がいた。半分は少女兵で、その中の一人が挙手する。


「はい・・・私ですが・・・」

 その者は、茶髪で眼光も鋭い12、3歳と思われる少女の兵士だった。髪の毛はくせ毛のようで決して綺麗と言えない風貌だった。

「女か・・・?」

 驚いたのはロクの方だった。しかし、そのロクの言葉に陽はムッとして噛み付いた。


「女じゃまずいんですか!?」

 陽は、ロクに少し歩み寄ってみせる。

「い、いや・・・てっきり男の名前かと・・・」

 ロクは、珍しくへの字口になり、ホーリーやキキの顔を見つめ助けを求める。すると、ロクの班にダブルが近寄ってきた。するとロクに耳打ちをする。

「分かってると思うが・・・」

「な、なんだよ?」と驚くロク。

「くれぐれも、キキに手を出すんじゃねぇぞ・・・?」

「お前と一緒にするなよ・・・」ロクも兵たちの手前、ダブルに小声で返す。


 ダブルは、そう言うと再び自分の班に戻っていった。

「・・・ったく・・・さて!・・・陽とか言ったな?お前にこの班のもう一人の副班長を命ずる!ホーリー?面倒を見てやってくれ?」


 ロクに呼ばれたホーリーはナビゲーションと格闘のプロ。身長は女では高く180センチ近くある筋骨隆々の風貌だ。夜空の星を見て隊をナビをする事が多いので、ホーリーと呼ばれていた。

「こいつに副班長?ちょっと待ってよ!キキの方が適任じゃないのかい?こんな若い新人に無理でしょ?大体・・・」

 不服そうなホーリーに対しロクは含み顔でなだめた。

「いいから、いいから・・・」

「へいへい・・・」不服そうなホーリー。

「同じく副班長のホーリーだ。いいなホーリー、陽?」

「へいへい・・・」陽のさっきの態度が気に入らないのか、陽にソッポを向くホーリー。

「は、はい・・・」

 陽は突然のロクの命令に戸惑っていた。


『こいつが・・・3期生唯一の四天王のロク?四天王には程遠い顔だな・・・?』陽はロクを睨んでいた。


「うちの班は1班、2班の後方支援に当たる。またP4までの突入道と帰り道の確保だ・・・いいな?」とロク。

「我々の班は、女性ばかりだからですか!?」

 突然、不服顔の陽がロクに口を挟んだ。するとすぐ傍にいたホーリーが陽に近寄り、無言で右頬を拳で殴り倒した。ざわつくメンバーたち。


「おいおい・・・殴るなよ・・・」とロク。

「何様か知らないけどね!!ここではロクの命令は絶対だよ!!聞けないというなら来なくていい!うちには置いておけないわ!!」

「ホーリー?それさっきのお前に言いたいよ・・・」ホーリーをなだめるロク。


 陽は倒れたまま、ホーリーを睨みつけたが、すぐ起き上がると直立でホーリーに対した。

「すいませんでした・・・」

「私がいる限り、男たちに女扱いさせないから!他の女子もいい!?」他の女子兵たちを言葉と態度で威嚇するホーリー。

「は、はい・・・」

 他の兵士も、ホーリーの圧倒的な言葉に反論の余地なかった。

「さ、さて・・・い、行きますか・・・?」とロク。


 ロクがそう言うと、一人一人トラックの後部荷台に乗り出した。トラックの荷台には12名分の席があり、ロクとホーリーが一番前に座った。陽は、一番後ろに座ったが、ホーリーに手招きされ、前にと移ってきた。

「あんたは、私の隣よ!」とホーリー。

「は、はい・・・」ホーリーの強い姿勢に恐縮する陽。


 ロクは座ったまま、運転席側の小窓を軽く叩くと、トラックは動き始める。それに続き、2台のトラックが走り始めた。

「今日も風が強いな?好都合だ・・・おい!少し急いでくれよ!!」

 ロクは小窓から運転席の窓を見ると、そうひとり呟いた。後部の荷台にも砂埃が舞う。ロクは首に掛けていたスカーフで口を覆った。


「陽って言ったな・・・専門は?」とロク。

「航海学を・・・」


 その言葉にトラック内のみんなは驚き、ホーリーが口を出した。

「おいおい、お前!プロジェクトソルジャーが、あのレヴィアに乗れると本気で思ってんのか!?」


 陽は、その先程の件もあり、ホーリーに反論する。しかし語尾になると言葉が弱くなっていった。

「教官は!我々でも船に乗れるように・・・そう言ってましたが・・・」

「確かに、俺らも近いうちそんな事になりうるな・・・」とロク。

「陸戦部隊の我々がですか?」とキキ。

「あたい、海嫌いだし・・・生きた魚は見るのも駄目だわ・・・特にイカとタコ・・・」とホーリー。


「くくく・・・ホーリーも弱点はあるんだな?うーん、時代だな・・・もう5期の訓練には、そのプログラムがあるんだろ?レヴィアも量産するらしいし・・・」とロク。

「選択出来るんですよ・・・私はそれで航海術を・・・」

「ああ、あたいには関係ない、関係ない!」と手を振るホーリー。

「陽は5期のトップだそうだ・・・高森教官からはそう言われている。」とロク。

「そうなん?すげぇー!あの手榴さん以来でしょ?」とホーリー。

「次期四天王候補ってとこね・・・?」とキキ。

「あたいらがいるんだからそれは無理無理!」再び大きく手を振るホーリー。

「あんた本気で四天王になるき?だったら、ここにいるロクやバズーに勝らないとね?」他の兵が陽を野次る。

「腕力だけなら、あのチビに勝てるんだけどよ~!」シャツを捲り、右腕に目一杯の力コブを作るホーリー。そのホーリーの滑稽な姿に、陽以外の車内の全員が爆笑する。


「ははは!まあそう言う事だ!キキ、ホーリー?こいつだけは命張って守ってくれよ!怪我させたら高森教官の怒られるぞ!」とロク。

「任せてよね!よろしくね!私はキキよ!」

 陽に手を伸ばすキキ。陽も恐る恐る握手を交わした。


「さて・・・P4の道程だが・・・」とロク。

「歩きって・・・我々もですか?」とキキ。

「以前使ってた、志村入口はどうしたんですか?」とホーリー。

「旧三田道か?ジプシャンに見つかり、自ら破壊したらしいと聞くが・・・」とロク。

「まだ地下鉄跡はあるはずです!」とキキ、

「だいぶ、崩れてしまい通行は不可らしい・・・」

「旧光ヶ丘からの13号はどうでしょう?ここ深いらしいし?」

「近くまでは行けるが・・・しかも、敵にこの辺は押さえられてるらしい・・・SCの乗り入れも不可だ!」

「八方塞がりですなぁー・・・それじゃあたいの出番ね?」とホーリー。


「そのためのナビだろ?その辺はホーリーに任すよ!なんせ俺自信P4は初めてだからな!」口を尖らすロク。

「頼りにならないわね・・・」嘆くキキ。

「地図は百万回見たさ!!」反論するロク。

「・・・旧都心から下に行く方法は?」

「P6の15倍の敷地に・・・わずか8つのエレベーター・・・それも今あるかどうか・・・?」


「馬鹿げてます!!」

 陽がロクとホーリーの会話に突然口を挟んだ。

「そうだな・・・」とロク。

「でもな、おいらたちは命令があれば行かなければならない・・・それがし・ご・と!」とホーリー。

「これじゃあ、全員犬死しますよ!!」と陽。

「それがおいらたちの仕事だ・・・」とホーリー。

「・・・」陽はその言葉に黙ってしまった。


「ふふふ・・・ホーリーも言うねぇ・・・」とロク。

「2期生だって・・・もう生きてないかもしれません・・・」と陽。

「そうかもな・・・」敢えて否定しないロク。

「・・・」

 陽は、ロクらの作戦を聞いて蒼くなっていた。トラックは南に向かって、荒野を走っていく。



 現在。ロクの独房。

「ホーリー・・・なぜあの時・・・?」

 ロクは床を見ながら一人嘆いていた。



 再び3年前。トラック3台は、ある荒野に止まっていた。所々、昔のビルの残骸が荒野から顔を出している。夕日は西に沈みかけていた。ホーリーは一人小高い丘から降りてくる。

「どうだ?」と話しかけるロク。


「凄い数ね・・・ジプシャンの総力って感じかしら・・・蟻一匹抜け出せないかも?果たして全員無事で基地まで辿り着けるかどうか・・・?」

「どれどれ?」

 ロクも身を潜めながら、その丘を登る。一番高い所では顔だけを出し、双眼鏡で覗き始めた。


「こ、これがP4・・・」


 ロクが見た物は、広い荒野の彼方に、夕日に作られた長い影を帯びた瓦礫の山々だった。

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