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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
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その9 第六ポリス

 この世界は、雨は滅多に降らない。

降ることはあるが、そう長い雨ではない。雨が降らないという事は、虹を見るのは奇跡に近い。


またいかづちも同じである。


初めて虹を見たものは、それを神の恵みといい。


初めて雷を見たものは、それを神の怒りという。


 これはその雷の名を継ぎ、人々から恐れられたある男の物語である。



 先程、戦闘があった槻木地区。ヒデは呆然とし、地べたにあぐらをかいて座っている。たまに空を見上げては溜め息を漏らす。そこに丸田がやって来た


「おい!ヒデ!」と丸田。

「・・・」

「ヒデ、どうした?」

「聞こえてるよ。」

「なら返事くらいしろよ!」ムッとする丸田。

「ああ・・・」

「8台が廃車・・・怪我人が数名だ!死人が出なかっただけでも運がいいかな?」

「そうか・・・」

「それと、気づいたか?」

「なんだ?」

「さっきの黄黒、リキを倒した奴じゃない。」

「ああっ!?どういうことだ!?」

 ヒデは急に立ち上がり丸田に詰め寄った。


「少しだがリキの時の奴と違うような気がする・・・タイヤや形とか・・・」

「今更っ!!あんな派手な車が2台あるというのか?ふざけるな!」

怒りで荒野の砂を蹴り上げるヒデ。少しだが砂が舞った。

「すまん・・・」

「すまんで済まんよ!」


「で?これからどうするんだ?」

「わからん・・・が・・・一度ジプシャンに行こう・・・」

「なぜ?」

「装甲車は一度ジプシャンに返さなくてはならない。それがリキとの約束だ。」

「律儀に返さなくていいだろ?ジプシャンから分捕ってしまえよ!」

「ポリス不利の中で今、ジプシャンを敵に出来ないぜ。そこまで仲間を危険にさらせないな・・・」


「行くのはいいが、四天王の首はどうする?それが条件だったろ?」

「しょうがないだろ?正直に話すさ!」

「こんな話はしたくはないが・・・この間、戦死した誰かの首でいいじゃねぇか?誰も四天王の顔は知らないんだろ?」

「馬鹿言うな!仲間の遺体の首を取るのか?だったらリキの遺体を掘り起こしてリキの首をお前が持って行けよ!」

「じょ、冗談だよ。冗談、冗談・・・そう怒るなよ。」

キレたヒデを両手でなだめる丸田。


「秀則!そこにいるの!?」

 二人の会話中に、一人の女性が大声をあげ二人の前に現れ近づいてきた。頭にはターバン、タンクトップは短くヘソが見え、半ズボン姿。年齢は20歳前後に見える。

ひじりだ!ヒデ、今の話は嘘だからな。聖には・・・」

 そう言うと、丸田は聖が来る前にその場を離れて行く。


「丸田はどうしたの?」と聖。

「なんでもない。今後を話していたのさ・・・」聖と目を合わさないヒデ。

「そう・・・どうするのこれから?みんな不安がっているわ・・・」

「一度、ジプシャンに行こうと思う・・・」

「また?・・・どうして?もう戦いを止めたら?」

「どうしろと?ポリスに投降でもするのか!?」

「それは、分からない・・・」

「リキの事・・・か?」

「それも・・・ある・・・食料もやばいし、SCがないのにもう無理でしょ?これでジプシャンに入っても、前線に送られて犬死するだけ・・・」

「ジプシャンにいいように使われるのは俺も嫌だ。だが仕方がないじゃないか?生きる為だ!」


「こんな時代だもん、仕方ないよね。でも自分らしさってあるでしょ?ポリスにもジプシャンにも就かず自由に生きる。それが死んだリキの言葉だった。だから私はついて来た。秀則もそうでしょ?」

「秀則って言うなよ!いつまでもガキ扱いしやがって!もう俺がリーダーだ!」


「わかってる。でも弟はもう帰ってこない・・・悲しいのはあんただけじゃないの!みんな悲しいの・・・私もよ・・・」


 そう言うと聖は怒り震えるヒデの元を去って行った。

「くそっ!どうすればいいんだよ!?」



 ロクの車の中。ロクはポリスに向け、無線を放った。

「こちら黒豹。ポリス聞こえるか?」


 ロクのフロントガラスには映し出されたのは桑田ではなく、ロクと同世代の男が映し出された。

『こちら、P6の我妻。ロクさん!ご無事で!!』

「我妻か?あれ?桑田は?」

『今夜、ロクさんのカストリーの整備らしいので、今ちょうど休んでます。』

「そうか・・・ああ、ジプシーだが男2名、女2名確保。ゲートはどこから入るんだ?」


『すいません。北ゲートも東ゲートもまだ不具合で、西ゲートを使用してくれませんか?』

「あらら、この時間の西ゲートかよ!?車専用の通用口は?」

『先日の戦闘でどこも不具合ばかりで・・・』

「あらら・・・こっちの中央突破の方が大変そうだな・・・?」溜め息のロク。


 大場はさっきの件もあり“中央突破”という言葉に過敏になった。

「また中央突破か!?」と大場。

『はぁ、中央突破ですか?』と無線の我妻も問う。

「い、いや、こっちの話だ。まもなく到着する。警戒がなければ、もうゲート開けてくれ。そうだ一人敵の捕虜もいる。手の空いた物に迎えに来させてくれないか?」

『了解です。では47番シャフトを使って下さい。保護の方々は、北の軍エリアまでお願いします。』

「了解!」


 無線が切れ。後部座席で無線を聞いてた、大場が口を挟む。

「なんだ?また中央突破か?また座席の下に伏せてなきゃいけないか?」

「いや、しなくていいですよ。着けばわかります・・・」

「怖い怖い・・・そういや、あんた?ジプシー出なのか?」

「ああ、そうですが!」

「なぜ、ジプシーがポリスに手を貸す?」

「なぜって?・・・親が死んで、物心ついた時からポリスにいたんだ。仕方ないな。選べた立場ではない。」

「そうか・・・親はジプシャンが?」

「話ではね。俺が保護された時には死んでいたらしいがね・・・」


 直美は無言でロクと父親の会話を背中で聞いたいた。

「5才から銃を持たされ、7才の時には戦場に出された。まあ補助的なものばっかりだったけどね・・・ポリスはジプシーのガキから育った俺らみたいな兵士を、プロジェクトソルジャーって呼んでるんだよ!」

「プロジェクト・・・ソルジャー・・・?」

「さあ、着いたよ。あれがP6だ!」ロクの目線の先には今朝の廃墟街が姿を現す。



 大場の家族を乗せた、ロクの隊の4台はP6に到着する。朝に出てきたゲートと同じ西ゲート前。ゲートの上の塀には朝よりも多い兵の数が見え、ゲートは既に開きかけていて、徐々に中の様子が伺える。


「意外と塀が低いんだな?」と大場。

「ここは初めてか?」

「ああ、ポリスの中に入る事態がな・・・」

「お嬢さんも?」

背を向けていた直美にも問うロク。

「ポ・リ・ス・キ・ラ・イ・な・の・で!」怒った口調の直美。そんな直美の口調に、無言で頭を掻くロク。


 ゲートの中には朝と違って、たくさんの人が道に埋め尽くしていた。何かの作業をする者。道で追いかけっこをする子供たち。道端で魚を並べる者。夕食の支度だろうか?何か料理をしている者と様々である。道は人という人で埋め尽くされていた。

「こういう事か・・・」納得した大場。


 ロクの隊は、その人が溢れる道を、ゆっくりと車を進めて行く。大半は、道端に避けてはくれるが、老人で耳が悪い者や、足の悪い者を、時折クラクションを鳴らして退かしていた。また子供たちはロクの車が珍しいのか、窓を叩き車中を覗くものまでいる。ロクは子供らに笑顔で手を振った。それを真似して後部にいた大場の子供たちも、外の子供たちに手を振っている。

 大場や直美たちは、物珍しいのか窓の外ばかり見ていた。よく見ると建物の中にも人が見え、その上には南向けに、ソーラーパネルを貼ってある建物が多い。


「予想よりも人が多いな。しかも子供が多い・・・」

「今、日本の人口の9割はここだと言われているからな。」

「誰が言った?ジプシャンも入っているのか?」

「そ、それは知らん・・・」厳しい突っ込みに慌てるロク。


 街の中を暫く走ると、街から倉庫街に変わる。そして横に長い建物の前に着いた四台は建物の入口前で停車した。その施設前には街の人々がいなく、銃を持った数名の兵がいた。その建物の中からロクと同じ格好の小柄の男が、慌ててロクの車に近づいてきた。


「あっー!!俺のジャガーじゃないか!?お前、なに勝手に乗り回してんだよ!!」


「ジャガー?名前あるじゃないか?この車?」怒るこの男の言葉を聞いてロクに問う大場。

「え、ええ・・・ジャガーって言うのは基本のベースの事で・・・あの・・・その・・・」なぜか慌て始め、言葉が出ないロク。

「彼の車なんだろ?」ピンと来た大場がロクに問う。

「えっ?ええ・・・まあ・・・簡単に言うとです・・・ああ、ここで降りて下さい。俺の担当はここまでです。後は彼が担当しますので・・・」苦笑いのロク。


 車外では、先程の彼が、ミラーがないとかライトがないとかを大声で叫び、車の周りをぐるぐる回っていた。ロクは意を決して車内から降りてみせる。

「お前なっ!!」

車を降りたロクに、その男はいきなりロクの胸倉を掴んできた。

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