その8 砂漠の雷獣
ここは、旧宮城、槻木地区。ロクが走っている内陸ルートとしては、悪路が荒野に変わる所で、また一番山間部分が狭い箇所でもある。ヒデはここに目を付け、残りの仲間を待機させロクたちを待ち伏せていた。
ヒデのSC本隊約25台。ジープタイプを中心とするヒデの部隊は、コの字の陣形を組み、南へと移動していた。ヒデは中央のジープ系の助手席に立ち、無線のプレストーク部分を持ち進行方向を見つめていた。するとヒデが乗る後部座席に設けてある、機銃を構える男がヒデに向かって叫んだ。
「前方来ます!砂煙確認!」
「来たかっ!?」とヒデ。
「ややスピード落としています!警戒してるようです!」
ヒデは各車に、無線を飛ばした。
「左右の隊は、展開して待機!中央の隊は正面を前に向けたままここで待機!丸田頼んだぞ!」
『了解!奴のケツあおって、そっちに追い込むぜっ!』
「了解!・・・リキ!見ててくれよ!」
ロクの車内。
「後ろには20ミリ弾の装甲車。左右は山、正面に本隊。槻木からはP6に無線も届かなから助けも無理・・・うーん、なるほど敵ながらいい作戦だな・・・」
ロクが余裕で一人呟いてるのに対し、山口が慌てて無線で口を挟んだ。
『こんな時に、敵を褒めてどうすんですか!?隊長、左右の隊は数が少ないようです。足が遅くなりますが、二手に別れて山側に逃げましょう!』
「駄目だ!遅くなればタイヤを狙われるな・・・それが敵の狙いだ!」
『なら隊長だけでも逃げて下さい。ここは我々が・・・』
「山口言うねぇ~だが・・・」
『だが・・・?』顔が引き吊っている山口。
「・・・中央突破する!!」
『は、はい?』声が裏返る山口。
その言葉に大場と直美は驚いた。
「怖い怖い・・・」
「えっ!?ち、ちょっと・・・」
「隊!縦一文字態勢!いいか?最後尾以外ライト点灯、前のバックライトだけを頼りに俺の少し後を走れ!」
『しかし・・・た、隊長?』慌てる山口。
「大丈夫!同士撃ちを避け、左右からは奴等は撃ってこないさ!後は・・・なんとかする!」
『ひっー!出た出た・・・』
「ふふふ、逃げ切るぞ山口・・・みんな行くぞ!」
『了解!!』
ロクはギアをトップに入れアクセルを更に踏み込む。するとロクはギアの前の二つのスイッチをポンポンと上に上げた。なにか接続音が響き、大場の座る後部座席の下から空気の流れる音がし始め、その音は徐々に大きくなる。大場や子供たちはその音に驚き、大場は子供二人の肩を両手で抱き寄せた。
「な、なんだ?この音は!?」
大場は聞かれない異音に、ロクの運転席を覗き込んだ。
「ふふふ・・・」不敵に笑うロク。
ロクの車は巨大な砂煙を上げていた。
『後ろの20ミリ銃を避け、奴は道を戻ったりしない。正面に20台!左右の隊はわざと少なく配置している。奴等は2台に別れて左右に分かれるはず。山に入れば足は遅くなる。側面になり弱い部分を晒す。その側面のタイヤに銃弾を撃ち込めば・・・足が早くいくら装甲が厚くたって、タイヤさえ撃ち抜けば・・・』
ヒデは、心の中で自分なりの方程式を作り、勝利を確信していた。すると部下の一人がヒデに向かって叫んだ。
「や、奴らっ!つ、突っ込んで来るぞ!」
「なっ・・・馬鹿なっ・・・」驚きで声にならないヒデ。
ヒデは双眼鏡で確認すると、ロクの黄黒の車が、高さ幅とも10メートル近い巨大な砂煙を巻き上げ、こちらに向かっているのを確認する。砂煙を高く上げているのは黄黒の車だけで、他の3台は、かすかに確認できる程度であった。その砂煙はロクの車の後ろをどんどん左右に広がって行く。
「なんだ!?車の砂煙じゃないぞ!」それを見ていたある兵が叫んだ。
「な、なんだ!?風を味方に付けてるとでも言うのか?各車銃撃用意!!」とヒデ。
「万が一がある。頭を伏せていてくれないかい?」
ロクは笑顔で助手席の直美と後部座席の大場らに、伏せるように説得した。4人はロクの指示通りに頭を座席の下まで下げた。直美はかがみながら、自分の肘や手で自分の頭を覆いかぶせていた。ロクは首に巻いていたスカーフで口元を被う。
ロクは昼間なのに、車のヘッドライトを点けた。ライトはボンネットから90度の角度で迫出し、正面に赤い不気味な光を放った。
山口やアキラの車も同じようにライトを点け、ロクの車が作った巨大な砂煙の中に入ると、ライトが放つ光りさえも見えなくなり、砂煙の中にスッポリ消えてしまった。
更にロクは、コクピットのあるボタンを押すと、タイヤのホイル部分の中心部分から銀のパネルのようなものが、花咲くように広がってきた。横から見るとタイヤの全部ではないが、約9割近いタイヤの部分を隠してしまった。
するとロクの車はグングンとスピードを上げてヒデの本隊正面に突き進む。
「先頭!キグロっ!まもなく射程距離です!!」
ジープ後部の機銃を構えるヒデ隊に緊張が走る。
「左右の隊は後ろに合流し発砲はするなよ!同士撃ちになるぞ!丸田何してる!?どんどん引き離されてるじゃないか!?」
『馬鹿言うな!奴等この荒野で300キロは出してるぞ!まして砂煙でこちらの視界がきかなくなっている!追いつけないぞ!』
「敵、来ます!!」
「くそがぁ!いいか全車、黄黒のタイヤだけを狙えよ!後は構うな!・・・てぇーっ!!」
爆進してくる、ロクの車。ヒデ率いる本隊の機銃砲が一斉に火を噴く。数十発、数百発の銃弾がロクの車に集中し火花を散らしていた。
ロクの車内は、鈍い金属音と高い金属音が入り乱れ、子供や直美らが悲鳴を上げ、パニックを起こしていた。しかしそれも最初のうちで、その音に慣れてきた直美は、ふと運転席のロクに目をやる。するとロクは笑ったまま、楽しそうに車を運転していた。直美はその姿をを見てゾッととした。
「く、狂ってる・・・」
ジャガーのスピードメーターの針は385キロを指していた。
ヒデは助手席で指示をしていたが、歯がゆいのか自分の車の後部席の機銃担当を蹴散らし、自ら機銃でロクの車を狙った。
「どけっ!!・・・くそっ!くそっ!くそっ!」
ヒデが放つ弾は、確実にロクの車に当たっているが、ロクの車は真っ直ぐヒデの正面に近づく。この時、ヒデは運転席のロクと目が合う。ロクは運転をしながらニヤリと笑っていた。ヒデはゾッとした様子で、ロクの車のフロントガラス目掛け更に銃を撃ちまくった。
ロクはヒデの隊、ギリギリまで近づくと、ヒデ隊の陣の僅かな隙間を見つけ、そこを全速力で突破してしまった。ヒデの隊はロクの車が舞い上げた砂煙で一瞬の内に視界を奪われた。
ロクの車と思われるエンジン音が徐々に遠くなっていくなか、更に3台のエンジン音がそばを通過して行った。
「ごほっ!ごほっ!す、砂煙が・・・な、なんなんだ?どうした?奴らにここを突破されたのかぁ!?」
しかし、まだ一部の仲間が機銃を撃ちまくっていた。
「撃ち方止めろ!同士撃ちになるぞ!奴等がここを突破したぞ!Uターンして追う!ポリスには一台とも帰すなぁ!」
視界が晴れないまま、ヒデの命令で本隊の20台のSCはUターンを始めた。すると、再びエンジン音がヒデの隊に迫ってくるのが分かった。
「な、なんだ?この音は?」
その音は、更に大きくなってきた。すると丸田が運転する装甲車や左右に展開していた仲間のSCがヒデ隊に突っ込んできたのだ。気づいた時は、すでに仲間同士接触、衝突、中には車を乗り上げられた車もあった。特に丸田の乗る装甲車に体当たりされたのは火まで吹き上げている。ヒデ隊は一瞬で壊滅状態に陥った。
「や、奴め・・・こうなることも計算してやがったな・・・?」
ロクの車は、戦場を脱出していた。ロクはギアの前のスイッチ2つをポンポンと下げると、ギアも1つ下げた。すると後部座席から聞こえていた空気の流動音も小さくなり、車体から出ていた砂煙も徐々に無くなっていった。すると砂煙の中から他の3台が現れてきた。ロクは口元のスカーフを首まで下ろすと、すぐ無線を飛ばす。
「山口?大丈夫か?無事か!?」
『な、なんとか生きてますよ・・・』と山口。
「アキラ?シンは?」
『大丈夫です。シンは?』
『正直、小便チビりそうでしたよ・・・』とシン。
『隊長こそ大丈夫ですか?後ろから見たらドえらい事になってますよ!!』
「そ、そうか?まあ、走行に問題ないし・・・」頭を掻くロク。
よく見るとロクの車は、フロントガラスのワイパー、右側のサイドミラー、バックライトを点けるために点灯した、赤のフロントライトが無くなり、左側のサイドミラーはブラブラと取れかかっていた。また防弾仕様のフロントガラス、ボンネット、ドアの所々にいくつかの銃弾が突き刺さったままでいる。また黒の塗装の所は目立たないが、黄色の部分には無数の焦げ痕があった。
「あらら、また技師長にどやされるな。あっ!もうみなさん大丈夫ですよ!」
ロクは後部座席と助手席の大場や直美に声を掛ける。みんなはようやく顔を上げたか、みんなは呆然となっていた。
「し、死ぬかと思った・・・もう何て無茶な作戦なのよ!?」
直美がロクを横目に怒り始めた。すると後部座席の大場がロクに問う。
「なあ?あれはなんだったんだ?」
「あれ?・・・とは?」
「あれだよ。俺の尻の下で鳴っていた音と、あの砂煙?」
「ああ、ジプシャンにも船はあるでしょ?それを動かす装置ですよ!」
「んっ?ま、まさか・・・船などに使う空気圧縮装置か?」
「そう!その小型版。ポリスではエアーブースターって言ってますが・・・まだテスト中でね、なんか使用中に亀裂が入って大爆発すると、乗ってる俺らは骨も残らない程ぶっ飛ぶらしいけどね。わははは・・・」
「はははって・・・そこ笑うとこじゃないでしょ!?そっちの話がゾッとしたわよっ!!」とツッ込む直美。
「ああ、ごめん!これ話さない方が良かったな?はははっ!でもうちのメカニックたちはこれで近い将来、車で空を飛んだり、海面を走らせるんだって毎日頑張ってるよ。まあ、夢見たいな話だけどね・・・」
「ほぉー!空をねぇ~?まさに時代って奴だな・・・そう言えば、この車なんて名前なんだ?」
大場が尋ねた。
「・・・あれ?そう言われるとこいつに名前は・・・?なんせ、こいつに今日乗るの・・・初めてなんだよね?」
「は、はい?」驚く直美。
「まだこいつに名前はありません。ははは・・・」
「まさか、俺たちをテスト走行の車に乗せたのか?」と大場。
「はぁ・・・そう言う事ですか・・・?」体を小さくして頭を掻くロク。
「もうイヤーだぁー!こんなのぉー!!」
「怖い怖い・・・」呆れる大場と直美。
「す、すいません・・・」とロク。
戦闘の興奮冷めやらず、大場は時折見せる、ロクの明るさと子供っぽさに正直呆れていた。
『しかし・・・こいつはあの包囲網を一台も犠牲を出さずに突破しやがった・・・敵が弱すぎたのか?イヤ違う!自分を囮にして仲間までも全員救いやがった。しかも銃弾も発射せず、戦わずに勝利するなんて聞いたことない・・・やはり、こいつは・・・?』
後部座席からロクの様子を伺う大場。
ロクたちは再び、ポリスに向かって帰路に就いていた。
ロクにとってこれは小さい戦いの1つに過ぎなかった。しかし、これがのちに全ジプシャン軍を震え上がらせた『砂漠の雷獣』と呼ばれた男の伝説の始まりだと、彼自身知る余地もない。




