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四天王  作者: 原善
第四章 住所のないラブレター
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その15 直美・・・紅涙

 桑田は這い上がりたがったが左の手は止血の為、既に神経がなく、右手は肩を撃たれていたせいか力が入らなかった。仕方なく体を仰向けにすると、桑田は後方を見た。黒い影が背を向け立ち去っていくのが見えた。


「だ、誰・・・?」


 桑田は腰のベルトからワイルドマーガレットを取り出し、その影に狙いを付ける。しかし、右肩の痛みに耐えられず構えることが出来ない。そのうちに黒い影は消えてしまう。


「こ、ここで・・・わ、わたし・・・死ぬんだ?・・・さ、最後に・・・ロクさんに・・・逢いたかったな・・・」

 桑田は小声で呟く。



 地下3階SC倉庫。

「早く銃を置け!雷獣!」とタケシ。

「くっ・・・」


 ロクはタケシに向かって拳銃を構える。タケシは更に直美の影に隠れて、ナイフを付き立てた。

「ロク!言うことを聞いて!」

「さっき、その子を殺すって言ってなかったか?」

「!」

「ロク!」叫ぶ関根。


「何だと!冗談ではない!本気で殺すぞ!」

 しかし、ロクは銃を下げる事なく、タケシに狙いを付ける。

「ロク!?お願い!銃を降ろして!」


 だがロクは、微かに手が震え始めていた。

「ん?」

 ロクは腹の傷口を押さえた。タケシはロクの異変に気づいた。

「ふん・・・どうした雷獣?震えてるじゃないか?」


 ロクは再びタケシに狙いをつけるが、目が霞み始め直美とタケシの様子が見えなくなっていく。

「くそ・・・こんな時に・・・」

 やがて、ロクが見ていた2人の姿が、あの時の、ヒデと死龍の姿に見えてきてしまう。


「死龍・・・」



 ロクはあの時の死龍の言葉を思い出していた。

ヒデに羽交い絞めにされ銃を突きつけられている手榴。

「撃ちなさいロク!!」と手榴。

「黙れ!こいつは撃てねぇよ!」とヒデ。

「くっ・・・」


「昔からな!こいつは肝心な時になると逃げるんだよ!」

「うるせぇ・・・」


「お前はな!人を撃つ度胸もないうじ虫なんだよ!」

「ロク!あなたなら、ロクなら出来るわ!撃ちなさい!」

「こいつは撃てない・・・」

「うわっー!」

 ロクの撃った銃弾が手榴の左目に命中してしまう・・・



「銃を降ろせ!降ろさなければ・・・」

 タケシは直美の首部分にナイフを寄せ、微かに切り込み始める。

「お願い・・・やめて・・・」

 ロクは関根の声で再び正視した。


「くっ・・・」

 直美は痛みに耐えていた。

「どうした!?銃を置け!こいつの首を切り裂くぞ!」

 ロクは銃を下ろし、直美とタケシの前に放り投げた。

「ふっ・・・」

 タケシはやや安心したのか、直美の首につけていたナイフを緩めた。それと同時にロクの投げた拳銃をナイフを持ったまま床に拾いに行く瞬間だった。


「直美!」

 ロクは直美に大声で叫んだ。直美はロクの声に気づき、自分の後頭部でタケシの顔を叩いて見せた。

「くそっ!」

 面を喰ったタケシは、羽交い絞めをしていた直美を離してしまう。

「このアマっ!」

 タケシは持っていたナイフで直美の背中を刺そうとした瞬間だった。ロクが腰の銃を抜き、タケシのナイフを撃ち落とした。

「がぁ!野郎っ!」

 手の甲を押さえるタケシ。するとロクはもう一つの腰の銃を抜き2丁拳銃でタケシに近づく。


「こいつはキーンの分だ!」

 ロクはそう言うと、タケシの右膝を撃ち抜いた。

「くっ・・・て、てめぇー!!」

 タケシは絶叫しながら、右足を押さえ床に跪いた。するとロクは更にタケシに発砲する。

「ぐわっ!く、くそが・・・!」

 ロクが撃ったのは、タケシの左手の指5本だった。


「こいつは、なつみの分・・・」

 ロクは更に、右手の指5本も撃ち落してしまった。

「ぐわっー!」

 タケシは指のない両手を目の前にすると、目を見開き絶叫する。ロクは弾がなくなったのか2丁の拳銃を腰のホルダーに閉まってしまう。

「ら、雷獣は人を殺さないって聞いてたぜ・・・」


「拳銃ではな・・・」


 そうするとロクは、タケシのサバイバルナイフを拾いタケシの前に立った。

「ま、待て・・・」

「これは、お前に首を切られたトリプルとダンの分だ!」

 するとロクはそのナイフで、タケシの首を力一杯切りつけた。タケシから大量の血が流れ出す。


「こ・・・ごっ・・・こっ・・・」

 声にならない声を出し、タケシは前のめりに倒れる。

「動くなよ!」

 ロクは肩を撃たれた早坂を一喝する。


「ロク・・・」

 関根は気力が尽きたか、腹部を押さえながら倒れてしまう。直美が関根に近づき抱き寄せる。

「お、お母さん・・・」

「私を・・・お母さんって呼んでくれるんだ?ありがとう・・・」

「お母さん・・・」

「ご、ごめんね直美・・・こうするしかあなたを助けれなかったの・・・」

「お願い・・・もう・・・誰も死なないで!」

「ずっと・・・あなたの事を思っていたわ・・・」

「・・・」ロクは二人を見つめる。


「最後に逢えて・・・うれしかった・・・」

「お母さん・・・ヤダよ・・・」

「ロク・・・そこに居て?」


 関根は、敵兵を警戒しているロクを呼んだ。既に目が見えない様子だ。

「ここだ!」

「桑田を撃ってしまった・・・ゆ、許して・・・」

「あんたが、手当てもしたんだろ?」

「あ、謝っておいて・・・それと・・・」

「もうしゃべるな!今、人を呼ぶ・・・」


 関根はインカムを使って、無線を使おうとしたロクの手を必死に掴んだ。

「関根さん・・・」

「聞いて・・・おやじさんとなつみは・・・」

 急に関根の様子が変わり、声が出なくなり始めた。

「なつみ!?おやじさんとなつみがどうした!?」

「何か・・・な、何かを・・・か、隠してい・・・」

「おい!しっかりしろ!なつみがどうした!?」

「お母さん!?」


 関根はロクの腕を掴んだまま、再び目を開ける事はなかった。

「関根さん!?」

「お、お母さん・・・!?」

 直美は関根を抱きかかえながら号泣した。ロクは2人を無表情で見つめていたが、やがて自分も腹を押さえ倒れてしまった。



 たくさんのポリス兵が車庫内に入って来る。その中にはダブルの姿もあった。撃たれた早坂は拘束され連行されて行く。直美は関根の遺体の側を離れなかったが、数名の兵に説得されようやく車庫内から出て行く。するとダブルがロクの側に近寄って来た。

「やったなロク!」とダブル。

「ん・・・?ああ・・・」放心状態のロク。

「平気かよ?」

「ああ、これくらい・・・大丈夫だ・・・」


 すると倉庫内に顔を腫らし、制服や手が鮮血にまみれたバズーが入って来る。2人を見つけるとバズーも近寄ってくる。

「どうした?バズー?その顔、その血・・・?」とダブル。

「ロク・・・実は・・・」

「!!」 ロクはバズーの顔を見て驚いた。

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