その10 真・四天王
第88エレベーター地下3階附室。拳銃を握りしめ、黒皮のライダースーツに狙いを付ける桑田。その者の顔を確認した桑田の握り手が震えだした。
「どうして・・・どうしてあなたが・・・?」
桑田が拳銃を構えていた先にいた人物・・・それはジプシー医療室勤務の関根女医だった。
「これが私の仕事なの。ここのスパイがね・・・」
「どうして?あなたは地下3階から下には入れないはず?それなのに・・・?」
「ポリス史上、完璧な要塞だけど、所詮人が作ったものよ。弱点はある。IDの偽装、電気シャフト、簡単に地下に行けるわよ。まあスパイは私だけじゃないしね。P6だけで何人いることやら?」
「ずっと・・・ずっと騙していたんですね?酷い・・・」
「お前らを騙したつもりはない。」
「そんな・・・」
するとエレベーターの方から“ドン”という音が聞こえる。桑田は慌ててエレベーターの方に銃を向ける。更に次の瞬間、エレベーターの天井部分が落ちてくる。すると砂漠用迷彩服を着たタケシが飛び降りてくる。
「敵!?」
タケシは関根と桑田をすぐ察すると、ポリスの軍服を着た桑田のほうに銃口を向けた。
「タケシ?」
関根はタケシの行動をいち早く気づき、桑田に向かって発砲した。
「うっ!」
関根の銃弾は、桑田の右肩に命中。桑田は拳銃を離し後ろに吹き飛んでしまった。肩口を押さえ蹲る桑田。そこへ桑田の拳銃を足で払いのけ、タケシが銃口を向けたまま桑田に近づいて来る。その様子を見て、慌てて関根が叫んだ。
「その子は撃たないで!!」
関根の声で、タケシは制止した。関根を見るタケシ。
「瑠南花か!?」とタケシ。
「そうよ。その子を殺したら、この下には行けないわ!」
「くっ・・・」
「なぜ地下なの!?こっちは、特命なの。迷惑よ!」
「家族を人質に取られてるんだろ?開放してやるよ。」
「その言葉に、二言はないよね?」
「ああ。」
「ふう・・・」溜息をつく関根。
すると、またエレベーターの天井から石森が降りてくる。
「タケシさま!」
「来たか・・・」
「まず・・・兵たちにこの子に手を出すなと命令して。」と関根。
「誰ですか?こいつ?」と石森。
「瑠南花だ・・・わかった。兵に伝えよう・・・」
「この女が・・・?スパイ?」
「で?何が目的なの?」と関根。
「本当の四天王に会わせろ!」
「本当の四天王?」
「真・四天王さ・・・」とタケシ。
桑田は肩を押さえながら2人の会話を聞いていた。
「本当の・・・四天王・・・?」
すると、次にエレベーターシャフトを降りて来たのはヒデだった。ヒデは関根を見つけると、顔をしかめた。
「随分と懐かしい顔がいるのね?」
「なぜあんたがここに?」とヒデ。
P6指令室。
「我妻!地下から出せる兵は、全員地下3階に集合!」
「了解!」
「兵を出したら、地下3階より下は封鎖する!」
「ま、待ってください。地下3には桑田や、曽根参謀、そして親父さんまで・・・」
「仕方あるまい・・・これ以上戦火を広げれない・・・」
「くっ・・・」
「なつみ・・・」と松井。
第88エレベーター地上付近。近辺にいたポリス兵は、どんどんこのエリアを囲み始めている。エレベーター付近を守っていたタケシの別働隊も、残すは丸田とタカが乗る装甲車だけになっていた。
「丸田!約束の15分だ!逃げるぞ!このままではこっちがやばい!」とタカ。
「分かった!敵が増えるばかりだ、逃げるぞ!」
装甲車は道を封鎖していたポリスのSCを蹴散らすと、北ゲートに向かって走り出した。
「逃がすか!」とダブル。
「待て!兵の数が合わない・・・」
そこへロクのインカムに無線が入る。ダブルも耳に手を当てる。
「こちら黒豹!」
『松井です。ロクさん、今どちらに?』
「地上のEV88だ。」
『敵の一部がポリス内に侵入!別エレベーターで地下3に戻って下さい。』
「奴ら、ワイヤーで地下に・・・わかった。今降りる。」
「こいつら・・・囮だったか・・・」とダブル。
「エレベーターって言われても・・・」
「EV87からまわったら遠回りだ。」
「奴らが通ったんだ。俺らも行くぞ!」
「ワイヤーでか?お、俺は階段で・・・」
「いいから!行くぞ!」
ロクは逃げ腰のダブルの首根っこを捕まえると無理やり第88エレベーターに連れて行く。
タケシらは、地下3階の第88エレベーター附室近くの、人気のない倉庫のような所に潜んでいた。負傷した桑田、後から合流したヒデや早坂たちもいる。
「なつみ、暗証番号を言いなさい。」
「絶対に言わないわ!」
関根が桑田に詰め寄るが、それを見ていたタケシが痺れを切らし、2人に割り込んだ。
「吐かなければ殺す!」
タケシは桑田の口に拳銃を突っ込むと、そう凄んでみせた。桑田はしゃべれなくなり、泣きながら顔を横に振った。
「仕方ない・・・」
「止めて!殺さないって約束でしょ?まだこの子は利用するから・・・」
「殺さないさ・・・ただ・・・」
タケシは桑田の左腕を押さえていた右肩から引き離し、足で左腕を踏みつけた。
「女!これでも吐かないか!?」
すると桑田は、タケシに唾を吐きかけた。タケシの顔色が変わった。
「そうかい・・・」
そう言うとタケシは桑田の左手に発砲した。桑田の左親指が吹っ飛ぶ。
「ぎゃぁー!」
声にならない断末魔の叫びをあげる桑田。
「指はあと9本ある・・・さあどうする?」
「なつみ!しゃべりなさい、暗証番号を!・・・ちょっと!殺さないでよね!」
「殺さないって・・・なあ?」
タケシは再び発砲した。次は左の人指し指に命中した。
「ぐぁー!」
「どうした?あと8本・・・」
「ちょっと!舌でも噛まれたらどうするの!?」
「死なねぇよ!見ろこいつの顔!隙さえ見せれば噛み付いて来る顔だ!」
桑田は指2本を落とされても、タケシの顔を睨み付けていた。
「ぜ・・・絶対に・・・言うもんか・・・」
「そうか、じゃあしょうがないな・・・」
タケシは桑田の左手の残り3本の指を一気に銃で吹き飛ばした。
「ぐわぁぁぁー!」
第88エレベーター地上部分。ロクとダブルが下に降りようとしていた。
「無理無理!」
「なら先に行くぜ。」
そこにバズーに肩を借り歩いてきたキーンら兵4、5名がやって来る。
「おい!お前ら!」
「バズー?どうしたキーン!?」
「情けない、足をやられちまって・・・」とキーン。
「言わんこちゃねぇ!先行くぞ!ダブル!」
「ああ・・・」
「・・・」
ロクはワイヤーを掴んで下に降りていく。
「敵は?」とバズー。
「一部ポリス内に侵入しているとよ!」とダブル。
「数は?」
「分からん。SCの数からして、そう多くないはず。」
「なら追おう!行くぞ!」とキーン
「お前はここまでだ。おい誰かキーンを下に運べ!」とダブル。
「しかし・・・」
「歩けない奴を連れて行けるか!」
「よし行くぞ!」とバズー
「俺・・・階段で行くよ・・・」とダブル。
「お前な!ガキの頃からの高所恐怖を克服しろよ。」
バズーはそう言うと、ダブルのマントを掴みワイヤーのとこまで放り出した。慌てたダブルは必死にワイヤーを掴む。それを確認すると、バズーはダブルを掴んだ手を離した。
「バズー!!お、お前ー!覚えてろー!」
ダブルはバズーに叫びながら暗闇のエレベーターシャフトに消えていった。
「ふふふ。さてキーン!行ってくるぜ。」
「ああ・・・」
ロクは既に第88エレベーター地下3階附室にいた。拳銃の銃口を上に向け、少しづつ警戒しながら前に進んでいる。すると薄暗い附室の床に白い拳銃を見つける。桑田の拳銃“ワイルドマーガレット”だった。ロクは急ぎ拳銃を拾い上げる。
「な、なつみの銃か・・・?」