その3 ひそやかな反乱
ジプシャン軍最新戦艦が、夜中にP6に向かって走行している。全長は200メートル強。幅は40メートル程。前方に主砲を3門、後方に2門。機銃は左右に50機程装備している。中央に高さ30メートル程の艦橋がそびえ建つ。下部にはエアーブースターを装備し最高速度35キロで荒野を走る、まるで砂漠の海を走る戦艦である。その小高いブリッチ中央に石森の同期の鈴木艦長がいた。歳は20歳前後だろうか?
『敵偵察SC逃がしました!』ブリッチに流れるスピーカー音。
「くそ、勘付かれたか・・・なぜ逃がした?」
『敵SCの足、意外と速く!』
「雷獣ではないのか?」
『違うと思われます!ポリスの屋根付きタイプです!』
鈴木は無線を乱暴に切る。
「我が護衛部隊が突破されるとは・・・くっ!ストラトス部隊がいて若い兵の士気が高まると思ったが、こんなものか・・・」
鈴木は2時間前の事を思い出していた。
ジプシャン軍古川基地のある個室。
「お前には、援護射撃をして貰いたい。」とタケシ。
「SCの数は30台程。作戦と呼ぶには厳しいですな?」慎重にタケシに返答する鈴木。
「戦いは数ではないぞ!鈴木!」と石森。
「我々は元は陸戦部隊。白兵戦はお手のもんだ。」
「ポリス相手に白兵戦?しかし総帥の命令を無視するのは・・・」
「姉貴に言われたら、俺に脅されたと言え!」
「タケシ様・・・」
「船の主砲でP6のゲートの一つを破壊すればいい。」
「しかし、この船のクルーはテスト航海もまだでして、それを兼ねてのP5の出撃でしたから・・・」
「お前は、次期総帥にあのツヨシになってもいいのか?」
「私は軍人です。政には関心がありません。」
「このまま、ツヨシが幅をきかせてくると北の我々より南の部隊ばかりがいい目にあう・・・」タケシが鈴木を睨む。
「わ、我々は、先程石森に言ったように協力はいたします。しかし、それ以上は・・・」
「姉貴の独裁ぶりに危機感を覚える幹部もいる・・・」
「あの船と、P5にいる死神がいればジプシャンではツヨシより優位に立てる。タケシ様が総帥になられた際は、お前を軍師として迎えようと言うのだ。不服か?」
「ぐ、軍師ですか?」
「事実上のナンバー2だ。このまま一生、船の艦長として終えるか?」
「そ、それは・・・」
「石森、あまり無理を言うな。鈴木も困っているだろうが。まあ、P6に着く頃までに決めるがいい。」
「は、はい・・・」
ジプシャン軍最新鋭艦ブリッチ内。
「軍師か・・・悪くない!進路P6!全速だ!」
「了解!」
「艦内の兵に告ぐ!本艦はテスト航行を兼ね、これより1時間後、第6ポリスを攻撃する!これは訓練ではない。実戦だ!特に砲撃手!お前らの砲撃で、仲間のSCの援護が左右される。そのつもりで行って欲しい!」
ジプシャン軍小牛田新本部基地。寛子の新しい部屋に、参謀の犬飼が慌てて入って来る。
「タケシ様がやはり動きました。」と犬飼。
「動いたか?ふふっ、これでタケシを失脚させる理由が出来たではないか?どうだ犬飼?」
「先の松島湾2基地陥落でも十分な理由に・・・」
「奴は失敗を認めんだろ。しかし命令違反をこうも繰り返せば、タケシ派の幹部も黙らせれる。」
「しかし、船一隻無駄にする可能性も?しかし、こちらに向かって来る可能性もありますが・・・」
「ならばあのポリスの新兵器を試せばよいではないか?」
「恐ろしいお方です・・・」犬飼は
「ツヨシも母違いなら、タケシも母違いだ・・・」
「席はひとつ・・・」
「ここは、ツヨシを味方にしてた方が利口だろ?」
「確かに・・・」
「タケシは追撃するな。このままP6に行かせろ!」
「それで、もしP6が落ちる事になれば・・・」
「船一隻、SCが40弱・・・この戦力のどこにタケシの勝機があると言うのだ?最弱のポリスとはいえP6を侮ってはないか犬飼?」
「しかし、タケシ様も侮ってはなりません。P3、P4の戦いぶりは尋常ではありませんでした。」
「お前は随分タケシを高く買うな?だがあの時と状況がまるで違う。今のタケシでは、P6は落とせんよ。ジプシャンが初めて奇襲されたのだ!向こうに勢いというのがある・・・」
「戦略だけではありません。奇襲や行動力、兵の信頼も厚いのがタケシ様かと・・・」
「確かにタケシは恐ろしい男よ・・・しかし、我が軍有利の戦況・・・戦が終わればこの地にタケシは不要だ・・・」
「はい・・・」
「問題はタケシにどう後引きさせるかだ・・・」
警戒体勢のP6指令室。
「黒豹より入電!」我妻が叫ぶ。
「スピーカーに繋げ!」弘士が顔を上げる。
「はっ!」
『こちら黒豹山口。敵のSCが前方に展開しつつ・・・』
「で?」
『大型の砂煙を上げてる奴に近づけません。』
「そうか、迂回しつつ再び様子を探れ。無理をするな。」
『了解!』
無線が切れ、席に座る弘士。
「わしはレヴィアに向かおう!」変わって席を立つ久弥。
「しかし・・・」
「艦同士の戦いとなるだろう・・・慣れないクルーばかりで、こちらは艦隊戦は不利だ。」
「策士ロクを欠けた作戦になるはずです・・・ここにいては貰えませんか?」弱気な弘士の声。
「うむ・・・後は桜井にでも任すか・・・我妻、桜井に連絡!レヴィアはポリスの北東3キロに待機だ。」
「了解!」
「夜明け前だが、街に避難警報だ!いいな弘士!」
「え、ええ。」
「敵SCの数によっては、風神隊も出すぞ!」
「キーンは実は今・・・」
「分かってるよ。わしもその方がいいと思っていた。」
「前司令・・・」
「バズーは西に待機だ。街のジプシーの避難急がせよ!」
夜明け前の街に避難警報が高らかに鳴り響いた。北ゲート近くの塀の上には、兵士が集まり機銃を北に向かって構え始める。バズーの乗るアシカムが大型エレベーターによって地上に上がって来る。北ゲート前にはダブル率いる山猫隊のSCが集まり始めた。時同じ頃、同じ軍事ゲートである東ゲートには、キーン率いる新生風神隊のバイク部隊が集まってくる。
「懐かしいメンバーだな・・・?」キーンは笑顔で皆を見渡す。
その頃、太平洋上に停泊していたP7より、レヴィア2番艦から5番艦がP6に向かって出港しようとしていた。
2番艦レヴィアブリッチ。
「5番艦はどうした?なぜ遅れてる!?」佐々木艦長が叫ぶ。
「楠本さんより、もう少し時間をくれと言ってます!」と無線兵。
「訓練兵ばかりだからな・・・テスト航海もなし。仕方ないな。5番艦は遅れて来させろ。P6の戦力では、今は少しの火力が欲しいはずだ。1番艦は主砲は一門しかないんだからな!2番から4番艦だけで出発する。各艦急げよ!敵は待ってくれんぞ!」
3隻のレヴィアはP7を離れ、海水に潜行する。
ポリスの街。一つのエレベーターの扉が開く。するとそこから現れたのは、ロクの乗るジャガーカストリーだった。ロクは既に軍服に着替えハットとコートを纏っている。
「さーて・・・行きますか?」
ロクはギアを入れアクセルを踏んだ。