その1 死龍とミュウと
死龍が久弥に銃口を向けていた。弘士は慌てて腰の拳銃を抜こうとする。
「待て!弘士!」久弥がすぐ弘士止めに入った。
「なんの真似だ!死龍!?」弘士が叫ぶ。会議室内は緊迫した。
「ポリスは何を隠してるんだ!?」拳銃の口径を久弥の頭に狙いを定める死龍。
「隠してるじゃと?隠している事は何もない・・・銃を降ろすんだ死龍!」弘士が死龍を睨んだ。
「ここ数年、独自に調べてきた・・・重要資料はことごとく削除されている・・・ここのポリスにだ!!」
「どういう事だ?」顔をしかめ久弥を振り向く弘士。
「こちらのセリフだ!ポリスは何を隠してるんだ!?」
「・・・」下を向く久弥。
「そこまでだ!死龍!」
死龍の頭に銃口を突きつけたのは、腹部を押さえ息使いの荒いロクだった。
「ロク・・・!?」慌てて後ろを振り向く死龍。
ロクは額にあぶら汗をかき、撃たれた横腹を抱き抱えながら死龍の頭に更に銃を近づけた。
「銃を捨てろ!!死龍!!」
「ロク・・・」
死龍は冷静になり諦めて銃を降ろした。弘士はすぐ近寄って死龍の拳銃を取り上げた。
「どうしたんだ!?死龍!?なぜ親父さんに銃を向けたんだ!?」
「相変わらず、気配を消して後ろに回りこむ・・・さすがよね。でも今回の件はあんたには関係ないわ・・・」
死龍は崩れるように、その場の床に座り込んでしまう。
「助かったよ・・・ロク・・・」ロクの肩を叩き安堵する弘士。
「いえ、麻酔が切れそうで関根さんを捜しにたまたま通りかかり・・・死龍!どういうことだ?説明しろ!」
「・・・」久弥は黙って死龍を見つめる。
「何か隠してるのよ・・・ポリスは・・・」答えが一点張りの死龍。
「どういう事だ?死龍?何が・・・?」
弘士が呼んだのか、3名程の機銃を構えた若い兵が会議室に入って来る。
「取調室に、この女を連行しろ!」と弘士。
「司令!どういう事です?死龍の言い分も・・・」
「どんな理由でも、上官に銃を向けたのは重罪だ・・・」ロクに目を合わさず、死龍を見下ろす弘士。
「司令・・・」
「いいのロク。構わないで。こうなるのは最初から分かっていたから・・・」
「死龍・・・・・・おやじさん!?」
ロクは久弥に助けを求めた。
「連れて行くんだ・・・後はこちらで取調べる!」と弘士。
「おやじさん!死龍が何をしたって言うんです!?」
「それは、あとで調べる・・・」と久弥。
「おやじさん・・・?」
兵に連行される死龍。部屋から出る際、ロクの方を一度見つめ微笑んだ。
「死龍・・・」
P6ポリス専用食堂。キーン、バズー、ダブルが軽食を取っている・・・そこへ兵がやってきて3人に耳打ちする。
「何!死龍が!?」とダブル。
「拘束ってどういう事だ!?」とキーンも慌てた。
「高速ってなんだよ!何が早いんだよ!」状況がわかっていないバズー。
P6の指令室。人が続々と集まってくる。殆どがP5の兵士たち。その中には山中や富久の姿もあり、P6の兵の胸ぐらを掴む者までいる。ロクは桑田の席で頭を抱えていた。
「どういう事です!?」と富久艦長。
「会議室でおやじさんに銃を向けた。それで拘束されたと聞く・・・」
曽根が詰め寄るP5の兵らに説明している。
「我々が聞きたいのは、なぜ死龍さんが銃を抜いたかです!?」と山中艦長。
「それをこれから調べるんだ!!」曽根が困った顔で対応している。
そこにキーン、バズー、ダブルが入って来る。
「おい!?なんだこの騒ぎは・・・ロク・・・?」
ダブルは桑田の席で、頭を抱えていたロクに気づく。
「何があった!?ロク!?」
ロクが顔を上げると、3人を見つめる。
「死龍を拘束した・・・」
「どういう事だ?」とキーン。
その時、4人に指令室の我妻が近寄る。
「あの・・・」
「何だ!?」
「司令がダブルさんを呼んでます。」
「お、俺?」自分で自分の顔に指差すダブル。
「はい・・・死龍さんの取調べに立ち会って欲しいと・・・」
「す、すぐ行く・・・」
顔色を変えたダブルが、慌てて指令室を出て行く。
ポリス取調室前。部屋の前には銃を持った兵がいた。ダブルは部屋に入ろうとする。
「ここか?」
「ダブルさんはここをと頼まれております!」ダブルを制止する兵。
「ここって?廊下か?取調べを立ち会えって言われたんだ!」
「相手は、P5の四天王です。後方支援を!」
「死龍がそんな真似するか!?仲間だぞ!?司令は?」
「隣の部屋ですが、立ち入りは・・・」
「ふざけるな!来た意味がない。死龍に会わせろ!俺が話をする!」
「取調べが終わるまでは・・・」
「誰が取調べを?」
「前司令です!」
「くっ・・・」
ダブルは諦めて廊下に立ち尽くし、取調室のドアを呆然と見つめた。
取調室。死龍と久弥が向かい合っている。死龍の両手には手錠が繋がれ、後ろには機関銃を持った兵が2名いる。
「黙っていては、わからんぞ死龍・・・」と久弥。
「・・・」
「ポリスは何も隠してはせん・・・何を疑っておる?」
「信じられません・・・」
取調室の隣で、この2人のやり取りをモニターで見つめる弘士や兵士たち。
「死龍は何を疑ってるんだ・・・?」
部屋の内線が鳴る。弘士の隣の席の兵が受ける。
「司令、関根主任からです。」
「関根か?なんだ?」内線を変わる弘士。
『司令ですか?死龍から・・・ミュウ反応が・・・』
「死龍から?間違いないのか?なぜ検査した?」
『念の為というか・・・検査を勧めていたの・・・』
「そういう事か・・・分かった。この事は内密にしてくれないか?」
『分かりました・・・』
内線を切り、再び内線を掛け直す弘士。
「地下6(ロク)医務室につなげ。」
取調室。
「死龍?残された時間とは何だ?」久弥が死龍に問う。
「私は・・・ミュウです・・・」
「な、なんじゃと・・・!?」
「ミュウは、ジプシーからしか出ない。過去ポリスから出た例がない。私は色々なミュウを見てきました。みんな口から血を吐いて、最後は死んでいく・・・」
「その制服の血は・・・?」
「ここに来る際、吐血しました・・・」
「そうか・・・」
「吐血は、今回が初めてではありません・・・」
「いつからか?」
「4ヶ月前からです。」
「P5の医師は、なんと言ってる?」
「カルテがないの一点張りで、詳しい説明はしてもらえず・・・それで独自に調べました。ポリス側がカルテを削除していたのです!」
「カルテがないだと?ポリスが削除?向こうの司令は何と言っておる?」
「私の口からは・・・恐らく医師からは耳に入っていると思います。」
「治療はしなかったのか?」
「向こうは医療薬が乏しく・・・」
「なぜすぐP6に来なかった?」
「あのP5の状況では・・・みんな生きるか死ぬかの状況ですから・・・」
「こちらで、すぐ詳しく検査をしよう。」
「もういいです。ミュウは吐血してから半年も持たず死んで行きます・・・私も同じように・・・」
「勝手に判断するな!馬鹿もんが!」
「おやじさん・・・」
「お前を、死なせはせん!地下6に移させよう!」
「私も戦士です。ベットの上では死にたくはありません!せめて死場所は与えて下さい・・・」
「死龍、昔から・・・強情だな?」苦笑いの久弥。
P6指令室。指令室内は先程から比べるとやや静かになっていた。ロクらの姿はなく、指令室は正常に動いていた。
「ん?こ、これは?そ、曽根参謀!」柳沢が何かを発見する。
「なんだ?」
「北ゲートの監視塔からの赤外線映像です!」
「中央スクリーンへ!」
「はい!」
赤外線映像が中央スクリーンに映し出される。
「こ、これは・・・!?」 曽根が席から立ち上がった。