その22 ガラスの天井
P6地下指令室。久弥、弘士が談笑していた。
「傷口は針金を使い自分で縫ってたらしいですから・・・」と弘士。
「そうか。そんな技術、訓練校で教えていたか?」と久弥。
「さあ?高森さんでしょ?彼なら・・・」
「違いない。まあ後でロクの所にでも顔を出そう。しかし、あの重症で病室を抜け出すとはな・・・」
そこへ死龍、山中、富久の3名が入って来る。
「おやじさん!」死龍が真っ先に久弥に近寄った。
「死龍か!?」
「ご無沙汰しております。」
「元気そうだな皆!」
久弥は皆の顔を見渡した。
「松島奇襲作戦、聞かせて頂きました。」と山中。
「まさか、湾の中に侵入して攻撃するとは・・・」と富久。
「P5支援に開発したレヴィアが初めて役に立ったばい!」と久弥。
「これで戦況が変わってくれれば良いのですが・・・」
そこへバズー、キーン、ダブルも指令室に入って来る。
「変わるさ!俺たちの手でな!俺たちが未来を守らなきゃ誰が未来を守るんだよ?なあ?」とバズー。
「うんうん。ロクにばかりいいとこは取らせない・・・だろ?ダブル?」とキーン。
「そうそう。あいつはいつもいい所を・・・」とダブル。
「親父さんはいつまでこちらへ?」ダブルの会話に割り込むバズー。
「明日の昼にはここを発つ。P5のジプシーをP7に連れて行かなければならない。」
「死龍はいつ北に発つんだ?」
「明日の予定だが、2番機だけ修理が掛かりそうでな。」
「1番機、3番機だけ先に帰えれと言うのですよ、ウチの四天王様が・・・」横目で死龍を見る山中。
「なんなら死龍の護衛、俺がやってもいいぜ!」とダブル。
「ロクを欠けたP6からダブルまで、借り出したらP5四天王の名が泣くわ!」
「しかし、虹1隻では・・・」
「護衛は1と3に付けてください。よくて?加藤司令?」
「こちらは誰を出してもいいが・・・3隻が揃ってからでもいいじゃないか?数が少なければ少ないで狙われるぞ!」と弘士。
「P5にはP5の都合もあるのよ!飲料用の水不足もそう!事態は一刻を争うの!」
「まあ、そう言うな死龍。実は虹について頼みがあるのだが聞いてはくれんか?」と久弥。
「2番機ですか?あの大型砲台の件・・・直接砲台にする?とかでしょうか?」
「ふむ・・・さすが死龍に交渉は無意味なようだな?相変わらずこちらの心を読む。」
「いえ、あんなポンコツでよければ使ってください!」
「そう言ってくれると助かるよ・・・」
「はい。私がP6の指揮を取るのであれば、私もそうしてましたし・・・」
「しかし、砲台を降ろせないのは1番機でな。」
「必要なのは1番機・・・」と死龍。
「そういう事だ。」
「仕方がないです。元々虹はポリス共有の物ですから。」
「承知してくれるか?ならば高橋にすぐ伝えよう。」
「高橋技師長、まだおられましたか?」
「元エースも、今はP6に無くてはならないメカニックだ。」
「出来ればその現場、後で立ち合わせて下さい。技師長にも久しぶりに会いたいので!」
「よかろう!」
「では我々は予定通り、修理後に出発します。いいな山中艦長、富久艦長?」
「分かりました。」と二人。
「で?護衛はどうする死龍?」とダブル。
「うーん・・・ダブルは悪いわね。バズーのアシカとかオットセイがどうのこうのってのでいいわ。」
「アシカムね・・・」と寂しそうにバズー。
「あら失礼!うん、それそれ!」
「ダブル、見事に振られたな!」とニヤつくキーン。
「ちぇ!」
「うふふ・・・やっぱりP6はいいな・・・」
死龍は久々の里帰りに笑みが絶えなかった。
P6地下6階ポリス専用医療室。ロクがベットに寝て天井を見ている。天井はガラス貼り。ガラスの向こうに証明があり、ロクの部屋を微かに照らしている。ロクはぼんやりその天井を見ていた、そこへ聖が入って来る。
「寝れなそうね?添い寝をしてやろうか?」
「間に合ってるよ・・・」
「うふふ・・・あの娘と何かあった?」
「あっ!?」
ロクは慌てて飛び起きようとする。
「隠し事は苦手のようね?それも恋愛も?」
「ああ、迷ってますよ。真剣にな・・・」
「そうなんだ。本気なんだ・・・」
「あんたにはヒデがいるんだろ?」
「あの人はね。あの人は・・・」
「手が届かない、ガラスの天井だろ?」
「え?」
「ここの天井、ガラスなんだぜ。あいつはそんな奴だ。手が届きそうで届かない。そして人一倍壊れやすい。」
聖はロクの見ていたガラス天井を見上げた。
「ここの憧れだったんだ?ヒデって?」と聖。
「ガキの頃はな。みんなあいつが目標だったはずさ!」
「SCの運転、統括力、銃の腕前、仲間を思う心・・・確かにそうね・・・」
「なんせ、1期生では死龍と並んで主席だからなー。」
「死龍?P5の女四天王?」
「よく知ってるな?」
「有名じゃない!あいつそんな中で生きていたんだね?」
「なんだ、何にも知らないんだな。奴の事?」
「そうだね。はるかに遠い存在なんだね。あいつは・・・」
「かもな・・・」ベットの天井を見上げるロク。
P6地下3階ジプシー専用医務室。書類整理に追われる関根。
「なんでカルテがないのかしら・・・?」
するとそんな中、一人の医療服を着た女性が慌てて入って来る。
「関根主任!大変です!」
「どうした?慌てて?」作業を止める関根。
「こ、これを!?」
関根は黒いボードを手渡された。その中に目を通す関根。
「こ、これは・・・死龍が・・・まさか!?」
ポリスの地下通路を一人歩く死龍。しかしその歩きはおぼつか無い。時折、壁にぶつかり咳き込んでいる。
「ふう・・・まだだ・・・まだ終われない・・・こいつの運命を見届けなければ・・・まだ終われないのだ・・・」