その20 イエスタディ ドリーミン
「ど、どうしてヒデの事を・・・?」ロクの顔を見つめる聖。
「あいつはここに居たんだ。第六ポリスにな・・・」
「ポリスに居たのは聞いたけど、まさかこのP6だったの?」
「もう6年も前の事だ・・・」
「元仲間を襲撃してたんだ、あいつ・・・あんたあいつを知ってるの!?」
「訓練校では先輩にあたる・・・」
「先輩・・・?」
「さてと・・・」
ロクは口に付けられた酸素マスクを外すと、急にベットから起き上がった。すると軽く背伸びや準備運動をしてみせる。
「あんた、大丈夫なの?」その姿に驚く聖。
「ここは息苦しい・・・上にでも行きますか?」
「同感ね・・・ここの天井嫌いよ。」
聖はロクの顔を見るとクスッと笑っていた。ロクはそのままベットの横に立つ。
「痛たた・・・」
ロクは腹を押さえやや屈む。顔もしかめっ面になり汗もかき出した。
「あ、あんた重症じゃないの!?」
「動いてないと体が鈍る・・・」
ロクは青白い顔で右腹を押さえていると、まだ左腕に付いた点滴を自ら外し医務室を出て行った。
「だからって・・・もう、根っからの戦士ね・・・」
地下3階のSC整備室。桑田がロクのジャガーの整備を終えてジャガーの助手席でうとうとし始めた。悪い夢を見ているのか桑田の表情は険しく、時折魘されている。桑田の幼い時の夢だった・・・
桑田は孤児だった。3歳の時、両親をジプシャンに殺され三日三晩歩いた。死に際に母親からP6に行けと言われた。そこからは彼女の“生きようという本能”が彼女を歩かせた。既にポリスの外壁に着いた時には意識がなく、やせ細って外壁に座ったまま発見された。桑田はそのまま街の中に保護された。名前が言えなかった彼女に付けられた名前は、唯一洋服に書かれた「桑田なつみ」の文字だった。
最初はジプシャンのスパイ扱いされたが、5歳まで孤児施設に監視を付けられ育った。スパイの疑いは子供だった桑田に執拗なイジメとなって返って来る。 同じ孤児施設の子らに、そしてポリスの子からも・・・
ある日、桑田はいつものように、ポリスの子供らにイジメを受けていた。裏路地の大人たちが目が届かない場所で、ポリスの子供らに囲まれていたのだ。
「こいつスパイらしいぞ!」
「こどもであの荒野を歩いて来れるはずがないじゃん!」
「街から出て行け!」
「スパイ!スパイ!」
小石をぶつけられ、泣き叫ぶ彼女に彼が現れた・・・
「お前・・・またイジメられたんのか?」
ゼッケン“421”。後のロク・・・たった一人で我武者羅に突っ込むロクだったが、4人相手じゃさすがに分が悪く、幼いロクは一方的に殴られていた。ポリスの子供らは殴り疲れたか、動かなくなったロクを見るなり帰っていく。桑田は泣いたままロクに近づくが、ロクはすぐに起き上がる。
「ふっー。あいつら・・・少しは手加減しろよな・・・?」
「だ、大丈夫?お兄ちゃん・・・?」
ロクは顔を腫らし唇を切っていたが、満面の笑顔で桑田に答えた。
「なんとかする!」
その笑顔を見た桑田は、再び泣き始めた。
「おいおい、泣くなよ・・・俺がイジメてるみたいじゃん!」
ロクのジャガーの中で寝ている桑田。桑田はさっきまでの険しい寝顔はなくなっていた。
「ふふふ・・・」
時折、声を上げ再び夢の中に戻っていく。
その事件があってから、桑田はいつもロクの背中の制服を握り締めていた。ロクが訓練校に行っている時は、孤児施設を抜け出して訓練校の門の前で待っている日々が続いた。
「421!」
桑田はロクに会えない日は、訓練校に忍び込んでも会いに行く。いつの間にか桑田はロクのクラス、3期生の妹分となっていく。この頃からよく笑い、よく大声を出す活発な女の子になっていく。しかし、ロクたちが訓練で遠出をすることがあり、何日も帰れない日々が続くと、桑田は訓練校の前の校門で一人泣いていた。雨の日も砂嵐の日も・・・
ロクのジャガーで眠る桑田から涙がこぼれている。
街にロクたちが現れると、どこからともなく現れいつのまにかロクの背中の服を引っ張っていた。ロクもいつも桑田が背中にいるのが当たり前と感じていた。
「なつみ、大きくなったら、421のお嫁さんになってあげるから!」桑田の口癖だった。
「勝手に決めるな!ちび!」
「なつみ、決めたから!」
桑田はいつも笑顔でロクの側にいた。桑田にとって辛い日々を忘れさせてくれたのはロクだけだった。
「どうしてここで寝てるかな?」
地下三階の車庫。その声にムクッと起き上がる桑田。車の側にいたのはロクだった。
「あ・・・?」
急に起き上がった桑田は、車高の低いジャガーの天井に頭をぶつけていた。
「イタタ・・・ロクさん?」目を擦るなつみ。
「無事だったようだな?」
「夢・・・?」
「何だ?また悪い夢でも見てたか?」
「ロ、ロクさん・・・?」
桑田はようやく自分の状況が分かったのか、車を飛び出してロクに抱きついた。
「痛っ!」腹を押さえるロク。
「えっ!?」
「ふ、負傷したんだから少しは加減しろよ。加減を・・・」
「す、すいません。大丈夫なんですか?」
「まだ少し痛むよ・・・車イス、取りに来たんだ。この辺にあっただろ?」
「あっ・・・はい・・・あります!」
桑田は慌てて車イスを持ってくると、ロクはすぐそこに座った。
「まずは指令室だ!」
「私に押せとでも?車イス地下6階にもあったじゃないですか?」
「そうか?負傷した時くらい、少しでいいから労わってくれよ。」
「もう!どれだけ、死龍さんやみんなが心配したのか分かってますか!?」
「全機無事か?」
「先に、死龍さんを心配したらどうなんですか!?」
「桑田がここにいるて事は、死龍も無事だろ?」
「もう!そんな言い方して!本当に・・・みんなロクさんの事心配・・・して・・・」
桑田は緊張の糸が切れたのか、ロクの後ろで泣き始めた。
「おいおい、お前すぐ泣くなよ・・・」
ロクは困った顔をして桑田の様子を伺った。
「本当に心配したんですから・・・」
「ごめん・・・」
「それと・・・私入れません・・・指令室!」強気のなつみ。
「そうか・・・俺のIDで入る。それならいいだろ?」
「もう!司令ら参謀に怒られるの、ロクさんですよ!」
「なんとかする!」
「出た出た・・・」呆れるなつみ。
その頃、P6北ゲート付近には、久弥の乗るレヴィア1番艦が到着していた。
「桜井!搬入等は任せる。わしは死龍の所に行く!」と久弥。
「任せてください!落ち着いたら、後で顔を出します。私も死龍さんとは、ガキの頃に一度お会いしただけですから・・・」
「わかった!」
ジプシャン軍古川基地そばの酒場。タケシとヒデ、丸田が飲んでいる所に石森が入って来る。
「タケシ様、船の艦長とは話を付けました。」と石森。
「よくついたな?」とタケシ。
「こいつとは同期で、なんとか・・・」
「今度は何を始めるんです?」とヒデ。
「雷獣と決着つけるんだよ!」
「め、命令違反になりませんか?」
「仲間を殺られたんだ!引き下がれないだろ!」と石森。
「しかしそれでは・・・」心配顔のヒデ。
「ふふふ、姉貴を・・・ジプシャン全軍を敵に回すかもしれないな・・・」不敵に笑うタケシ。




