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四天王  作者: 原善
第一章 プロジェクトソルジャー
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その7 嘘とうそ

 太陽はいつの間にか真上に来ていた。ロクたちは北に向かって走っている。追手と出くわさないため、内陸ルートを選び基地に向かう。しかし、内陸ルートは道幅が狭く山に挟まれていて起伏も多いルートだった。ロクたちのように車体の低い車ではやや走りにくい道となっている。


 激しい揺れの中、先程の辛い出来事も忘れたように、目を輝かせて車内を物珍しげに眺めていた子供たちが、シートとシートの間から可愛い顔をのぞかせて、今度はロクの運転を眺めている。そんな中でのロクの一言だった。


「ああ・・・俺が四天王だ!」

「!」

「なっ・・・」と直美が声を上げた。


 大場も驚いた。お世辞半分、探り半分で問いかけた返事にロクは簡単に答えてきたからだ。二人とも四天王をもっと鍛え抜かれた年配の者だと想像していたのだ。この少年が四天王とは・・・?二人の疑いの目が続く。


「・・・って言ったら、俺はこの隣のお嬢さんに首を狩られてしまうのかな?」

 そう言うと、隣に座る直美に目を向けた。ロクと直美はこの日初めて目を合わせた。間近に見たロクの顔に慌てて目をそらし、再び背を向けた直美。


「首を狩るなんて、そんな野蛮な事しないわよ!ばっかじゃないの!」背中で怒る直美。

 ロクはその様子に笑いながら前方に目を戻すと、再び話し始める。


「大場さんは四天王狩りって知ってますか?最近ジプシャンにもポリスにも属さないジプシーらが、よくP6に襲いに来るんですよ。ジプシャンが四天王の首を持って来た者には幹部のイスを用意するとか、一生分の食料を出すとか噂を出したんです。なんかすごい待遇らしいですよぉー!」

「へぇ、ジプシャン軍がねぇ・・・」重い顔の大場。

「昨日も60台近いSCにうちは襲われました。今、俺らを追っている装甲車も昨日の奴らだと思います。そんな中で四天王“さま”が直々にポリスから外に出て、危険を承知でジプシーの家族を保護しにこんな遥々遠くまで来ると思いますか?しかもこの人数で・・・?」

「そう言われればその通りだな。あんたはあんたで人も殺さない、四天王には程遠い優しい顔だしな・・・」


「わははっ、褒められてんだか、けなされてんだか分かんないが、まあいいように受け取りますよ!」

「ははは、そうだな!」と大場。


「で、どうして俺が四天王だと?」今度はロクが男に問う。

「うん・・・先ずひとつ。さっき言ったがあの拳銃の腕だ。あんたが足に隠していたのは、小型で狙いも難しい。また弾は一発しか入らない隠し銃タイプ。それであの男に怪我をさせずにたった一発だけで、銃だけを狙うのは至難の業だ。とても人間業じゃないさ・・・それとふたつめはこの車だよ!」

「こいつ?」ロクが目を丸くする。


 大場は手の甲で後部座席の窓ガラスを、コンコンと軽く叩いてみせた。

「これ防弾ガラスだろ?それにこの車の装甲はドアの厚さを見れば一目瞭然だ。最新のSCだな?ポリスは余程あんたに死なれたくないらしいな。それと・・・」

「まだあんの?」少し呆れるロク。


「みっつめは、あんたの銃の数だ。俺に見せたのは右足の隠し銃を入れて5丁の拳銃・・・確認はしていないが、あんたは左足の足首にも隠してるだろう?」

「ああ、あるよ!」

「噂では、P6には六丁の銃を持つポリス最強の四天王がいると聞くが、あんたも六丁だろ?違うかい?」

「ふふふ、ではひとつ目の答えです。俺は人を撃ったことがない。奴の銃だけを狙ったんじゃない。臆病で奴の銃しか撃てなかったんだ。」

「えっ!?」


 直美はロクの意外な答えに驚き、再びロクの顔を振り返った。

「ふたつ目の答えは、俺らは偵察部隊だ。まして俺は隊の責任者なんでね。こうやってジプシーを保護するのが俺の任務なんです。せっかく保護したジプシーを危険に遭わせたくないんで、こんな厳つい車になってるんですよ。まぁ銃を撃たなくていいので、俺には好都合なんですがね・・・」

「それで、みっつ目は?」と大場。

「みっつ目は、ポリスでは死んだ兵の拳銃は部下や同僚が引き継ぐ。鉄や武器不足はどこも一緒ですからね。それと死んでも一緒に戦うという意味もあるんですよ。だから、十丁位身につけている奴もいるよ。俺の銃・・・たった六丁だけだと思いますか?」

「おいおい、まだ他に隠しているのか?怖い怖い・・・」と呆れる大場。

「ははは、さあどうですかね・・・?それでは、こっちから質問なんですが・・・宜しいですか大場さん?」大場の顔色を伺うロク。

「な、なんだい?」ロクの質問に改まる大場。


「大場さんは、ジプシャンの脱走兵では?」


 攻守が逆転し、車内の空気が変わった。一瞬顔をしかめた大場だったが、すぐにこう答えた。

「ああ、俺は脱走兵だ!ジプシャンのな!」

 バックミラー越しに、ロクの目を見て真顔で答える大場。しかしロクは笑顔のままSCを運転している。


「・・・って言ったら、俺ら家族はP6の秘密の地下室でキツイ拷問に遭うのかい?」


 大場はわざとロクの口調を真似て返す。直美もこの時ばかりは後部座席を振り返り、父親を厳しく睨んだ。

「はははっ!今どきポリスは拷問なんてしませんよ・・・まあちょっとはするのかな?聞いたことないですけど!」とロク。


「怖い怖い・・・で?あんたはどうして俺が脱走兵だと思ったんだ?」

 ロクと同じように質問をしてくる大場に、敢えて同じように答えるロク。


「まずひとつ、それは張っていたテントの張り方です。あのロープの張りは軍で教えていたものです。訓練された方の張りですね!」

「ほう・・・」驚く大場。

「ふたつ目はテントとトラックの位置。風が強かった昨日、普通ならトラックのそばの風下にテントを張るんですが、トラックとやや離れた位置に張っていた。これは二手に分かれた際、最悪どちらかが生き延びるための配置・・・かな?」少し自信がない様子のロク。

「ふふふ・・・」


「何かに警戒してたんじゃないんですか?でも結果は出来なかった・・・さっきの様にね?」

 直美の肩が少し震えた。

「それとみっつ目は、大男の目だし帽を外した時・・・」

「おっ!」

 顔をしかめる大場。

「彼は顔見知りでしょうか?そしてよっつ目は・・・」


「もういい!もういい!確かにいい読みだ!あんたには負けたよ。」

 大場は大げさに両手を上げ、ロクに降伏する。


「お褒めの言葉ありがとうございます。詳しくは向こうに戻ったら話してください。拷問・・・?俺はしたくないので。まぁ俺は担当外ですがね・・・」

「わはははっ!わかったよ。拷問は勘弁してくれ!・・・じゃあ何かい?あんたは俺が脱走兵だと知っていて、わざわざ自分の車に乗せたのかい?ろくすっぽ俺たちの身体検査もせずにか・・・?」

「お子さんたちの前では、この事は言いたくなかったんですが・・・念のため、腰の二丁の拳銃はあなたに向いていますから・・・」


「えっ・・・!?」

 大場と直美はポンチョ下にあろうロクの拳銃を見つめた。

「それで車内でもポンチョか・・・?用心深いんだな?だが人は撃てないんだろ?」と大場。

「まあ・・・臆病なだけですから・・・」ロクは笑ってみせる。

「怖い怖い・・・時代って奴だな・・・?あんた賢いよ・・・」


 その時、車のフロントガラスにアキラが映し出された。

『隊長!最後尾のアキラです。まだまだ射程外ですが、こちらから肉眼で後方の装甲車の車体が見えるようになってきました!』


「あらら、あの装甲車ってデカイ割りには意外と足早いんだな?悪路では向こうの方が上かよ?だが間もなく悪路を抜ける槻木だ。平地になる。抜けたら全車ポリスまで全速で飛ばすぞ!いいな!?」

『了解!』とアキラ。


 すると映像が突然、山口に切り代わった。

『ま、待って下さい隊長!前方にも砂塵確認!かなりの数のSC確認!!』

「あらら、敵の待ち伏せか?・・・装甲車の追手は・・・こういう事ね・・・?」

苦笑いをするロクがいた。

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