その2 こだわり
17:33 地下3階検視室。
直美は黙っていた。ロクは大場の言葉に嘘がある事を見抜いていた。自分が命を危険にさらしてまで、脱走など有り得ないと感じていた。直美は一度ロクの顔を見るが、再び父の遺体を見つめた。
「今は話せない・・・時が来たらじゃ駄目かな?」
「構わないが・・・」
「ごめん・・・あの・・・」直美は何かを言い掛けた。
「いいんだ・・・ちびっ子らはどうする?」
「私が話すわ・・・」
「そうか。しばらくは地下3階で過ごしてもらうぞ・・・」
「なぜ私たちも?」
「脱走兵は家族も銃殺、ジプシャンの掟だったはずだ。」
「そうだよね・・・忘れてた・・・」
「君らも狙われる可能性もある。護衛は俺の手の者にさせる。部屋も特殊な所だ。しばらくは我慢してくれ・・・」
「わかったわ・・・」
17:55 P6指令室。弘士が慌ただしく指揮を取っていた。
「夜になっても復旧作業は続行!救出作業はどうだ?」
「被爆したところを中心に、確認作業になっています!」と我妻。
「手の回らない所は海兵を回す。負傷者は?」と弘士。
「増える一方です。子供、年老いが多いようです。」と柳沢。
「素直にシェルターに入っていれば・・・」
「司令。黒豹の山口からです!」
「中央に映せ!」
中央のスクリーンに黒豹隊の山口の姿が映し出された。
『こちら黒豹。山口!』
「どうした?」
『敵のSCですが、浜田、松島、手樽の三基地に分かれています。各50くらいでしょうか?』
「三基地にか・・・?」
『宴会などを催しています。もう今夜は襲っては来ないと思われますが・・・』
「山口・・・勝手に判断するな!」
『す、すいません・・・』
「わかった。そのまま偵察だ!」
『了解!』
映像無線が切れる。
「おい柳沢?松島湾の地図を出してくれ!」と弘士。
「了解!」
「三隊に分かれたと言うのか?タケシと言う奴・・・用心深い奴だ・・・」
中央スクリーンには松島湾の地図が映し出される。弘士はそれをじっと見つめていた。
18:15 外は既に暗く、ロクは南側ゲート近くの塀の上に立って街の中を見ていた。
「こんなんじゃP5も持たない・・・時間の問題だ!どうすれば・・・?」
そこに息を切らした桑田が登ってくる。
「捜しましたよ。やっぱりここだ・・・」
「どうした?桑田?」
「どうしたも、こうしたも・・・山口さんから連絡があり敵の本隊が海岸の三基地にいるとの事!」
「海岸の基地に・・・」
「一度地下に戻って下さいと司令が・・・」
ロクはポリスの反対側を見る。海側にはレヴィアが3隻、陸上に停泊している。桑田の言葉が耳に入らず、ロクはその向こうの海を見ていた。
「なぜ敵は海岸線の基地に・・・?」独り言を呟くロク。
「もしもし?ロクさん!?」
「海から・・・レヴィアで・・・海岸を・・・?」
ロクは何を思ったのか急に走り出し、なつみを置いて塀の階段を降りていく。
「もう、どこへ行くんですか?」ロクの背中に叫ぶなつみ。
「レヴィアだ!大場の家族を地下3階の特別室に保護している。後は頼む・・・」
「は、はい・・・って・・・もう、命令無視ばっか!」
18:20 レヴィア1番艦ブリッチ。ロクが急いでブリッチに上がって来る。ブリッチには桜井他3名の兵がいた。
「桜井!聞きたいことがある!?」
「な、なんでしょう?」突然ロクが現れ驚く桜井たち。
「松島湾の水深はどのくらいある?」
「深い所で30メートルでしょうか?それが何か??」
「こいつで湾内に入れないか?」
「レヴィアでですか?以前から作戦としてはありましたが・・・入口の島々の狭い所には敵の機雷があり無理なんです。」
「機雷?機雷って水の上だろ?潜って湾に入るんだよ。」
「こいつ高さが12メートルです。機雷が集中してる所って湾の真ん中にある桂島近辺なんですよね。その辺って水深が12から13メートルなんですよ・・・」
「機雷か・・・レヴィアじゃ無理か・・・?」
「この艦橋がなければ余裕なんですけどね。」
「少しづつ進んで、手で退けたらどうだ?」
「かなり機敏なタイプですぐ爆発するようです・・・元々はポリスの物らしいですね・・・で?ロクさんはどうして湾からの攻撃をお考えですか?」
「あの本隊をP5に行かせるわけにはいかない・・・それとこの海岸に基地が多いのは向こうの本部に近いからだ・・・ここを叩けばジプシャンは動揺するはず・・・P5に向いている敵の目をこっちに向かせる事が出来る!」
「しかし湾からは無理ですよ。ここ二十年、誰も突破してないそうですからね・・・」
「そうか、とはいえ陸からレヴィアでは、勘付かれる。こいつ陸上じゃ足が遅いだろ?」
「そ、そうですが・・・」
「満潮ならどうですか?」
そこに口を挟んだのは、レヴィアレーダー員の国友だった。
「満潮?」
「はい・・・近いとこですと・・・明日の夜明け前、04時24分に満潮になり海水が少し上がりますが・・・」国友が自分のメモを取り出してはロクに報告する。
「無理だ!それでも余裕は50センチ程だろ・・・?波次第ではこのブリッチ部分にぶつかるぞ。しかもこの辺には奴らテトラポットを無造作に沈めていると言う・・・レヴィアの存在を知られてから、奴らその対策は十年以上・・・海岸の一部も上陸出来ないようにしてる箇所がたくさんあり・・・」と桜井。
「厳しいね・・・ジプシャンも考えるなぁ・・・しかし、絶対に突破で出来ないというのを、突破してこそ奇襲・・・」とロクが顔をしかめる。
「た、確かにそうですが・・・」
「事前に砲撃して除去しておく・・・というのは?」通信兵の三島も口を挟んだ。
「次回の作戦には有効だけどな・・・奇襲にはならん・・・敵に猶予を与えてしまう・・・」
「どうしても海からみたいですね?ロクさんは・・・?」と桜井。
「俺はそれしか能がなくてな・・・ん?桜井?敵の機雷ってただ海上に浮いてるだけか?」
「そうですが?何か?」
「船のエアーブースターって水中でも可動できるのか?」
「もちろん可能です。急浮上や方向転換に使ってます。ただし水中です・・・新しい空気が取り入れないので空気の量に限りがありますが・・・」
「エアーブースター・・・・・・上等だ!!敵に気づかれず湾に入れる!」
「えっ?」
「桜井!一緒に来てくれ!」
「はあ?どちらに?」
「上の参謀どもを説得したい!」
「構いませんが・・・国友、三島、後を頼む!」桜井が席を立った。
レヴィアの左側面が開き、ロクと桜井を乗せたジャガーがP6の西ゲートに向かった。
18:40 P6地下3階ジプシー特別保護施設。直美兄妹がいる部屋に桑田がIDカードを使って入って来る。
「直美さん!無事でしたか・・・?」
「ああ・・・ええ・・・」戸惑う直美。
「その・・・今回は・・・」
「いいの・・・」
「しばらくは、狭いですが辛抱して下さい。」
「平気よ。昔から穴倉育ちだから・・・」
「雨音も平気よ!」幼い雨音もなつみに声を掛ける。
「みんな強いね・・・」
桑田は雨音の返事に少し涙ぐんでいた。
「なんかあったらすぐ呼んで下さいね?」
「ありがとう・・・」直美も目に涙を溜めていた。
18:53 P6指令室。ロクと桜井が入ってくる。ロクは入るなり弘士にこう叫んだ。
「司令!緊急招集会議をお願いします。」
「なんだ?ロク、いきなり!?」司令の傍にいた曽根がロクの態度に激怒する。
「松島を・・・敵の基地を奇襲します!」




