その3 差別
19:25 P7指揮室。久弥と楠本が話している。
「わしも一度P6に戻るぞ。」と久弥。
「ではテスト中の4番艦をお使い下さい。」
「兵はいるのか?ここに兵が少なくなるが・・・」
「皆訓練生ばかりです!緊急事態です。仕方がありません!」
「最低限の兵でいい。艦を動かせればいいんだ。」
「わかりました!」と楠本。
19:28 P6大会議室。弘士を筆頭に曽根や幹部らがいる。バズー、キーン、ダブルの他、指令室からは柳沢、端の方には高橋技師長の顔もある。ロクと桜井は中央に位置し立って皆を見渡していた。そこへ桑田と松井が会議室に入って来た。それを見つけた曽根が立ち上がった。
「誰がお前らを呼んだ!!」曽根が叫ぶ。
「えっ?」
「私ですが・・・」
ロクが曽根の態度に低い声で答え立ち上がった。
「指令室勤務とはいえ、ジプシーはこの会議を外す!」曽根が強い口調で怒鳴る。
「俺もジプシーだが・・・」とロク。
「俺もだ!」
「俺もだ!」
「おお、俺もだ!」
その言葉に、キーン、バズー、ダブルの3人も席から立ち上がった。
「桑田らが外れろと言うなら、俺も出るぜ!」と無表情のロク。
「何だと!お前から呼び出しておいて!」
曽根が激怒し一度座った曽根も再び立ち上がった。
「二人とも止めないか!」
いがみ合う二人に弘士が一喝した。
「ロク!大場の件もある。今回は桑田と松井には外れてもらう!」
「いいんです。ロクさん。私たちジプシーだから・・・」
「・・・うん。」
「失礼します・・・」
顔を見合わせこっそりと会議室を出る、桑田と松井。ロクは怒りが収まらず、目の前の机を激しく叩いた。
「司令っ!?」
「言いたい事は分かる。スパイ騒動が収まるまでだ。」
「くっ・・・」バズーが何かを言い掛け立ち上がる。
「いつまで続くんですか?」
ロクは下を向いたまま弘士に話しかけた。
「ん?」
「いつまで・・・こんな差別が・・・」
「そうだよ。ロクの言うとおりだ!」
たまらずキーンがロクに加勢した。
「ジプシーだからって言うのはもうやめろよ!」
「何だと・・・?」
曽根が低い声でロクたちに凄む。
「分かってるつもりだ・・・」弘士が頭を下げて見せた。
「分かってない!あんたらがいつまでもこんな差別をするから、この戦争は終わんねぇんだ!」
「ジプシーの分際で・・・」ロクの言葉に曽根も本音が飛び出す。
「なんだと!?」
いがみ合う五人がいた。
「みんな止めろと言ったよな!」
叫ぶロクに対し、弘士は珍しく凄んでみせた。弘士の凄味に席を立ち上がった3人も冷静になった。
「時間がない!ロク!?説明を始めろ!」弘士が無表情のまま声を発した。
「は、はあ・・・」曽根を睨むロクだった。
19:30 ジプシャン軍松島基地そばの酒場。裸に近い格好の若い女性たちが何人も行き交う中、タケシと石森、嶋らが中央の席で酒のようなものを飲んでいた。嶋の上には女が座り、嶋の首元で何か囁いている。タケシは両脇に女性を座らせ、気分よく酔い始めていた。その中、ヒデと丸田もこのタケシらの席と一緒に混じっていた。
「ここはいつ来てもいいすねー!」嶋が隣の女を自分の足の上に座らせている。
「ああ、酒もうまいし、食いもんもうまい!しかもいい女ばっかだ!」と石森。
「わはははっ。P6なんざ、口ほどにないわぁ!・・・どうした!?ヒデ?全然飲んでないじゃないか?」
タケシらが盛り上がる中、ヒデと丸田は酒がすすまない。
「はあ・・・」溜め息を付くヒデ。
「そうだ。まるで葬式じゃないか?」と嶋。
「明日には、P5だ!今のうちだぜ。女も酒も・・・」と石森。
「何が不満だ!?ヒデ!?」タケシがヒデに絡む。
「あれでP6は陥落したのでしょうか?」ヒデは重い口を開く。
「壊滅ではないな・・・しかし半分以上のエレベーターを爆破したんだ。復帰まではしばらく掛かるだろうな!」
「しかし、雷獣が出てこなかったのは妙です。」と嶋。
「P5へ偵察中か、ミサイルで死んだかだ。」
「奴の目だ・・・」
タケシがグラスをテーブルに叩きつける。
「えっ?」店の中の空気が止まる。
「初めての戦闘の際、奴はこちらを見て笑っていた。奴は、狂ってやがる・・・」とタケシ。
「確かに狂ってますね・・・」恐る恐るタケシの新しいグラスに酒を注ぐ嶋。
「しかも、タイヤしか狙って来なかった・・・」
「偶然ですよ・・・」
「しかし・・・今度遭遇したら必ず決着つけてやる!雷獣!」
19:35 ジプシャン軍品井沼本部。先程タケシと話をしていた使者と土井総帥が話をしている。傍に犬飼参謀もいる。
「明日の朝立ち寄るとの事・・・」
「あいつ・・・それでP6は?」
「はい・・・壊滅状態という訳ではありません。被害は住居地区が目立ち、軍施設の被害はないようです。街中は一時、暴動が発生しましたが、現在は目立った動きもなく・・・」
「壊滅ではないという事か?」と犬飼。
「また、言い訳されてしまいそうだな・・・」寛子は頬肘をしながら笑って見せた。
「本人もミサイルの試し撃ちと申しまして・・・銃を抜かれ脅されました。」
「ふふふ・・・分かった。下がれ。」
たまらず犬飼が口を挟んできた。
「どうしましょうか?」
「ミサイルがなければ明日、また補給には来る。どうせ海岸基地にいるだろうし・・・好きにさせるがいい。またヘソを曲げられ、前線を離れられては困る!」
「ははっ!」
19:38 P6大会議室。
「あのミサイル部隊を、このままP5に行かせる訳には行きません。偵察の話では、150台のSCは各50台に別れ現在、浜田、松島、手樽の3基地にあります。これを松島湾よりレヴィアで攻撃します!」とロク。
「レヴィアで攻撃か・・・?」驚く弘士たち。
「馬鹿な・・・湾からなんて土台無理な話だ!」
「湾内の機雷ですが、レヴィアなら排除出来ます!」
「何だと?」
「明日の朝、海は満潮になります。満潮になれば潜水で湾内に入りますが、まだ高さがギリギリで機雷に接触する可能性があります。そこをレヴィアのブースターを海中で使用し、海中から空気を放出し泡となって真上の機雷を退かすのです。」
「船のエアーブースターの泡でか?」
「艦の両脇から出るんだ。中央に集中するだろ?」
曽根は鼻からロクの作戦に興味はない。そんな顔でロクの意見に反対した。
「艦首先頭の船の幅が狭い所から集中して出します。そうすれば、一点に集中して噴出して空気を出します。」
「うむ・・・」
「そう、うまく行くかな?」と曽根。
「潜水中、何度かブースターを使用してます。空気の量によっては効果はあるはずです。」
「2番艦と3番艦は1列となりそこを通過します。そして3艦がそれぞれ各基地に攻撃を仕掛けます。」
「この機雷は、以前ポリスが使っていた機雷。性能が同じなら人が触っただけでも爆発する。泡で爆発しないのか?」
「多少の高波でも平気です。それは私が保証します!」
ロクはこの会議で初めて口を開いた高橋技師長を見て“ニヤッ”とする。
「駄目だ!」
弘士のその言葉に、傾きかけた会議の流れがまた元に戻った。
「なぜですか?」
「松島基地周辺には、ジプシーがいる・・・」
「我々に付かず、ジプシャンに付くジプシーが基地そばで酒場をしているというのだ。」と曽根。
「えっ?」
「それでも、ジプシーを攻撃するのか?ロク?」弘士はロクを睨んでみせた。
「くっ・・・」
ロクは弘士の言葉に一瞬で黙り込んでしまった。




