その7 この星を継ぐ者たち
ロクがルナの側に近寄る。ルナはある十字架に祈っている。
「ルナ!」
ロクの声に気づき、慌てて後ろを向いて涙を拭うルナ。
「な、なんだ。ロ、ロクさんか~!?」
空元気でロクに答えるルナ。ロクはルナが祈っていた十字架を横目で確認した。
「ダブルの墓か・・・?」
十字架に刻まれたダブルの名前。
「そうか・・・」ロクはルナの顔を見つめた。
「SCがエアーブースターで爆発したって言うから・・・もう遺体にも会えないと思ってました・・・意外と綺麗な顔だったんでちょっと嬉しかったですよ・・・なんか少し笑っていた気がしますし・・・」
「あっ・・・あのな?ルナ・・・」ロクは意を決したようにルナに語ろうとした。
「い、言わないで下さい!わ、私もバカじゃないです・・・ダブルさんは敵艦で見つかった。あの時、敵艦に侵入するのがいかに大変だったか・・・でも彼は敵艦にいた・・・SCの爆発も何かトリックがあったと思います・・・切られた傷も恐らくキーンさんのソードライフル・・・キーンさんはあの時もう居ない・・・切ったのは恐らく・・・」ロクを上目遣いで見て、口ごもるルナ。
「そこまで分かっていて・・・」ルナの観察力に驚いたロク。
「普段からバカっぽく見られるんですけどね・・・こういう時の勘はよく当たるんですよ・・・へへへ・・・」ルナは自分の頭にコツンと自分でゲンコツを入れた。
「いい奴だったよ・・・ダブル・・・妹までいたんだぜ・・・」ロクは空を向いて語る。
「ふーん・・・互いに嫌いだと思ってました・・・?ロクさんとダブルさん?」
「ふふふ・・・そう見えたか?」
「いいライバル・・・そんな感じですか?」
「そうだな・・・」
「あー!なんか吹っ切れました!最初自分がデート断ったのが原因だと思ってたんで!」背伸びして腕を天に伸ばすルナ。
「デート!?お前そんな約束をダブルとしていたのか!?」目を丸くするロク。
「戦闘中に無線で言うんですよ!でもいいんです!ここに来ればいつでも彼とデート出来ますから!この大きな空も見えるから・・・」
「そうだな・・・」
上を向き屈託のないルナの笑顔に、微笑むロク。
「そうそう!これ・・・」ルナは肩に下げた鞄から機銃を取り出す。見覚えのある機銃。ダブルの機銃が二丁出てくる。
「ダブルのか!?」
「ええ!二丁あるんで片方貰っていいですか?」
大事そうに胸で機銃を抱き締めるルナ。
「もう片方は?」とロク。
「勿論、ロクさんでしょ!?これでまた一緒に闘えますよ!」
「そうだな・・・」
明るく対応するルナの中に、どこか寂しげな気配を感じるロク。
「好きだったかもしれません・・・」ルナが寂しげな顔で呟く。
「ダブルをか?」
コクりと頷くルナ。
「でも忘れます・・・いい思い出だけを残して・・・」
「あの?ルナ?お前まさかダブルの・・・?」
「はい!?」
「い、いや、何でもない・・・まあどうでもいいかー!」
ロクはダブルの監視役がルナではないかと勘ぐった。しかしルナの屈託のない笑顔に質問を止めた。二人で遠くの空を見つめるロクとルナ。するとロクの視線の先に直美の姿を見つける。直美も二人に近づく。
「無事だったか!?」とロク。
「うん!うちはお陰様で全員無事よ!」と笑顔の直美。
「誰か知人でも亡くなったのか?」
「元フィアンセにね!」
「フィアンセって?バ、バズーの事か?」
「違った!?うふふ!」
「女は強いな・・・」少し呆れてみせるロク。
「聞かせて?彼の最期・・・」
「あ、ああ・・・うーん・・・なんだ・・・その・・・」戸惑うロク。その先の言葉が見つからない。
瓦礫の上で座り込むロクと直美。既に太陽は西に傾いていた。
「あいつ・・・頑張ったんだね?」
「あいつらしい・・・そしてあいつしか出来ない作戦だった・・・」
「・・・そうか・・・みんな死んだんだ・・・?」ロクの話を聞いて涙を流す直美。
「ああ・・・」とロク。
「まだ戦争は続くの?」
「まだ終わってないんだ・・・まだまだこれからだよ・・・」
「じゃあ、まだまだ悲しむ人が増えるんだね?」
「すまん・・・」頭を下げるロク。
「なんで謝るの?」
「この戦争を終わらすとなつみに誓った・・・」
「でもジプシャンの総帥は倒したじゃない?」
「うん・・・でもまだまだこれからだよ!」
「私も男に生まれたかったな~!女って駄目なのよね!待ってるだけでさ~!」涙を拭い、唐突に叫ぶ直美。
「男だったら、きっと親父似でいい戦士になってたな!?」
「任せてよ!・・・って言いたいけど女じゃなぁー!?」
「宿命か?ポリスでは女でも戦士になれるぜ・・・」
「運命は変えれるか・・・ねぇ?なんか悩んでるでしょ?」
「えっ?そんな顔してるか?」ロクは頬を擦る。
「これでも人を見る目はあるのよ!深刻な悩みでしょ?」
「うん・・・そういうとこもあの人似だな?ああ、どうするか迷っている事はある・・・」
「四天王って・・・」
「ん?」直美の唐突な言葉に驚くロク。
「その国を守る守護神なんでしょ?」
「ま、全く知らん・・・俺・・・学がなくてな・・・昔の書物とか読んだ事ないし・・・」目を丸くするロク。
「父が昔そう言っていた・・・だからもうこの街の人たちは十分守ったじゃない!」
「そ、そうかな・・・?」頬を掻いてみせるロク。
「次は自分の為に生きてみたら!?四天王!」
直美はやや猫背になったロクの背中をポンと叩いてみせた。
「自分の為にか・・・?だが俺は・・・もう一つ向き合わなければならない運命がある・・・」空を見上げるロク。