その5 絶望の果て
「撃てロク!これで終わりにしよう!」拳銃をロクに構えた弘士が叫ぶ。
「く、くっ・・・そぉ・・・」ロクの両手が震える。
低かった雨雲から雨が降り注ぐ来る。互いに濡れたまま動かない時間が続く。拳銃を先に下ろしたのはロクの方だった。
「う、撃てない・・・撃てねぇよ・・・」ロクが泣き崩れる。
「ロク・・・」
「あんたをずっと兄と信じてここまで来たんだ・・・撃てるはずがないよ・・・」
「お前・・・」
「俺は・・・一体、何を信じたらいいんだ・・・?」嘆くロク。
回想。
「バカ野郎!また喧嘩しやがって!」青年の弘士がそこにいた子供の頭にゲンコツを喰らわす。殴られたのは6、7歳の子供たちばかり。幼い頃のロクたちだ。
「先に手を出したのはポリスの子供たちだよ!」
「そうだ!俺たちに親が居ないからってバカにしやがって!」
「名前もないって馬鹿にしたのは向こうだよ!」
「しかも向こうの方が年上だぞ!」
「人数もたくさんいるしな!」子供たちが騒ぎだす。
「いいか?お前らはこれから兵士じゃない、ソルジャーになるんだ!こんな事で怪我したらどうすんだよ!?強くなってあいつら見返してやるんだろ!?」
「じゃあポリスの子供らと喧嘩になったら、弘士兄ちゃんが守ってくれんのかよ!?」
「そうだそうだ!肝心な時いつもいないじゃんか?」
「ほんとに助けてくれんのかよ!?」
「当たり前だろ!俺はお前らの兄貴だぞ!」と弘士。
「おおっー!」喜びと驚きの声が子供たちから漏れる。
「さあ!高森教官には一緒に謝ってやるからまた訓練するんだぞ!?いいか!?」
「はーい!」全員が手を挙げる。
『あんたの訓練は教官が教えてくれる真逆の事を教えてくれた。虫の生体、星の見方、魚の旨い食べ方、みんなで歌う唄・・・そして仲間を思う事・・・今考えたらあんたは、父親がいなかった分、俺たちの父親役をしていたのかもしれない・・・』
「俺な・・・早く父親って奴をやってみたいんだよ・・・」
「えっ!?弘士兄ちゃんが!?」
10歳くらいのロクと20歳くらいの弘士が南ブロックの塀の上に居た。
「弘士兄ちゃんの父ちゃんは?」
「ガキの頃には居なかったんだ・・・」寂しげな弘士。
「そうか・・・俺も父ちゃんの顔を知らないんだよ・・・」
「あ、会いたいか?」戸惑う弘士。
「会いたいな・・・」遠くを見つめるロク。
「だ、だろうな・・・あのな・・・」何かを言いかける弘士。
「兄ちゃん!父親の前に早く可愛い嫁さん貰わないとな!?」と笑顔
のロク。
「おっ!生意気だぞお前っ!」
じゃれ合う二人。塀の上で追いかけっこをしていた。
「プロジェクトソルジャーが人前で泣くんじゃねぇ!」高森教官が幼い兵士たちを殴り飛ばしていく。
訓練学校の各個室。沈んだ子供たちの部屋に弘士が現れる。下を向き必死に涙を堪える子供たちがいた。
「おいみんな!泣きたい時は泣いていいんだぞ・・・」
子供たちが弘士の側に集まり泣き出す。よっぽど辛かったのか皆大声で泣き続ける。弘士は子供たちを優しく抱き締める。
「絶対忘れるなよ・・・この日の涙を・・・絶対に・・・」
『仲間が死んで泣くことを忘れた俺たちに、泣くことを教えてくれたのもあんただった・・・』
現在。
「あんたや、親父さんを信じていた・・・亡くなったみんなはあんたらの為に・・・このポリスの為に死んだんだぞ!?」
「ロク・・・」
「また俺だけ生き残ってしまった・・・何でだ!?何で俺だけ・・・?これが俺の運命なのか?一体何に向き合えばいいんだよ・・・?」
ロクは雨の中、泣きながら地面を叩いた。するとロクは無表情のままスッと立ち上がる。
「ミュウは滅ぶ運命と言ったな!?」唐突に弘士に問うロク。
「あ、ああ。」
「なら遅かれ早かれ俺は死ぬ。そうだな!?」
「ロク・・・?」
「もうこんな世界・・・いいや・・・みんな・・・ありがとうな・・・俺もみんなのとこに逝く・・・これでミュウは終わる・・・」
ロクは握っていた拳銃を自分のコメカミに当てた。ロクの顔は満面の笑顔で天を仰いだ。
「や、やめろ!死ぬなっー!ロクっー!!」咄嗟に弘士が叫ぶ。
雨の荒野に乾いた銃声が響いた。ロクはゆっくりと湿った荒野に倒れ、顔から地面に倒れていく。
「ロ、ロク・・・!?」弘士が倒れたロクに近寄った。