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数日後、【ガラアイド帝国】の皇帝が暗殺され、人間至上主義の第二皇子が皇帝に即位。
第二皇子と対立していた他の皇族も行方不明となり、第二皇子が皇帝になってすぐに獣人狩りを開始した。
ここ【サテライト王国】を始め、多くの国が人間至上主義となった帝国に徹底的に対抗する事を決め、帝国から逃げた獣人を受け入れると言う。
帝国側もこれに反発し、他国の獣人も抹殺すると宣言。
新たな戦争の火種が燻ろうとしていた。
そんな中、俺はアリスと一緒にクーリエの街に住む住民に声を掛けながら見回っていた。
護衛にはリーナ先輩がついている。
セイル兄さんとミレイ姉さんは、うちの領内にある他の街に視察に向かった。
あっちはユイ先輩とエマ先輩が護衛についており、他のリーナ小隊のメンバーはクーリエの街の巡回任務にあたっている。
「やっぱりみんなはクレス君が領主になってくれてよかったって言ってるね」
「あと、領民税が減税されると聞いて安心してるみたいね」
「あの両親がやらかした反動なんだなぁって今でも思うよ」
この街に住む領民は、全員俺が領主になることに喜んでおり、さらに領民税が減税されることを喜んでいた。
多くの人たちは、どうも30%の時は節約を知られていたんだとかで、これでようやく買い物もできると言ってたなぁ。
「とはいえ、帝国が人間至上主義の第二皇子が皇帝になってから最悪になったからね。 うちの小隊の何人かは国境に近い北側出口を見張ってるよ」
「獣人は?」
「サテライト王国には逃げ込んでないけど、他の国からはかなりの数を保護したと師団長が教えてくれた」
それでも、今の帝国の情勢から安心はできない。
何人かのリーナ小隊の小隊員は、北側の門で見張ってくれている。
あそこは、帝国との国境に近いからな。
何があっても動けるようにはしたいかな……。
「ん?」
「どうしたの、クレス君?」
「泣き声が聞こえる。 みー、みーって」
そんな事を考えながら街を見回っていると、ふと泣き声が聞こえた。
猫の泣き声……にしてはちょっと声が大きい。
気になって声を掛けに来たアリスも、俺の言葉に耳を傾けた。
「本当だ。 確かに聞こえる」
「もしかしたら猫獣人の赤ちゃんかも。 サーチしてみよう」
アリスも泣き声が聞こえたと言うと、俺はすぐにサーチの魔法を使った。
多分、猫獣人の赤ちゃんだろうと予測し、保護する必要があると判断したからだ。
「あそこだ。 酒場と民家の間に……。 反応は二つだ」
「じゃあ、そこの近くに着いたらゆっくり近づこう。 ビックリするかも知れないから」
「そうですね」
サーチの魔法の結果、反応が二つあったので、リーナ先輩とアリスとそこへ向かう事にした。
近くに来てからはゆっくりと近づく形で。
相手をびっくりさせないように。
「泣き声がハッキリ聞こえる。 間違いない」
ゆっくりと酒場と民家の間を覗き込んでみる。
「あ……っ!」
そこにいたのは、銀色の髪の猫獣人の女性とその赤ちゃんだった。
多分、親子だろう。
身なりもボロボロで、かなり傷ついているし、赤ちゃんもお腹を空かせているかもしれない。
俺はゆっくり近づき、優しく声を掛けた。
「大丈夫ですか? ここは帝国ではなく、サテライト王国領です。 俺達はあなた達を保護したいと思ってます」
「え? ここは、帝国じゃ……ないんですか?」
「はい。 あなたは帝国から脱出しています。 ですが、身なりもボロボロですし、早急に診てもらう必要もあります」
「それに、その子もお腹を空かせているみたいなので、すぐにミルクを用意しますよ」
「あ、ありがとうございます……」
猫獣人の女性は、俺とアリスの言葉に安堵したのか、涙を流した。
赤ちゃんの方も泣いたままだし、早く家でミルクを飲ませないと。
アリスやリーナ先輩が女性を支え、俺達は自分達の家へと急ぐのだった。
これが、後に俺やアリスにとっての身近にいる母親となってくれる人との出会いでもあった。
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